〈第三回〉
・その夜はそのまま屋上で焼きそばパーティー。野良猫の夜の集会に目をとめた恵都に浩一が「知ってる?キャットストリートって」。ここで作品タイトルが登場。意味的にはエル・リストンと同じ感じですね。
・7年前の舞台で立ちすくんでいた自分に「今の私を見せてあげたい。友達に囲まれて笑っている私を」。
すっかりいい顔で笑えるようになって。家にひきこもっていたのはついこの間のことなのに。いい友達に恵まれることがこれだけ世界を変えてくれるのですね。
・フリースクールの入学書類を両親に渡す恵都。週に二回くらい授業を受けるだけだけど無料ってわけにはいかないからと話す。恵都が両親とちゃんと話をするのはこれまた7年ぶりなのでは。
子役の時に稼いだお金があるでしょ、と自分のお金で行くことにポイント置いて話す恵都に、両親もこのままずっと家にいるよりはと賛同する気になってくれるが、帰ってきた知佳が「引きこもりよりは体裁がいいってこと?」ととがった声を投げる。友達がいるから行きたいだけなら遊びに行くのと一緒、そこで何を勉強してどうなりたいのか、と聞かれて「それは、まだ」としか恵都は答えられない。
「まだいいじゃないか」と父親は取りなすけれど、確かに知佳の言葉は鋭いところをついてはいる。とはいえ今時中高生、大学生でさえ何のために学校に行くのか明確な目的を持ってる人間は何割いることか。知佳自身だって将来こうなりたいからこういう勉強をしたいんだというはっきりした目標があるのかどうか。彼女の場合は完全に親の金で学校行ってるわけだろうし。その意味では知佳に恵都を責める資格はない。まあ確かに言いたくなる気持ちはわかりますけど。
・母は「この学校に行きたいのね恵都。お父さんお母さんに気を使ってとかじゃなくて」「行きたい、行きたいです」。
自分たちが恵都に子役の仕事を無理強いした自覚があるから今度は彼女の意思を尊重しようと思ってくれる。恵都もちゃんと目を見て自分を主張できるようになった。親子関係が劇的に改善されてきています。
・紅葉は屋上から自分の好きな人(元クラスメートだった山口)を恵都に見せる。紅葉がクラスメートにいじめられ不登校まで追い込まれたとき、積極的にいじめに加担しないまでも全く助けてくれなかったんだろう男をなぜこうも慕えるんだか。山口本人を見ないで勝手な理想を押し付けてたってことですかね。
原作では山口のどこがよかったのかと恵都らに聞かれて「顔」と言い切ってたくらいだし。
・4人で歩いているとき偶然大洋とマネージャー(平野)に行き会う恵都。恵都と腕組んでた紅葉は「道まちがえた」とあからさまに別の方向に彼女を引っ張っていこうとするが、大洋が気づいて声かけてくる。
「こんにちは」とこわばった顔で返事をする恵都。大洋はそのまま横を通り過ぎるが、平野はちょっと恵都を振り返る。何度かサッカーを見学に行ったし、恵都の大洋への気持ちを敏感に察してる様子です。
・3人は恵都の動揺を(男子二人は無言で)気遣うが、そこに大洋が走って戻ってきて、ちょっと話したいんだと恵都を呼び止める。
二人で歩きながら大洋は、紅葉にあまりあのコンビニに彼女と二人で来ないよう頼まれたと話す。「でもおれ断った。これからも青山とは友達としてちゃんと付き合いたい。だからそんな不自然なことはしたくない、って。それでいいよな」。会話からして大洋は恵都の気持ちを知らされてる。そのうえで変に謝ったりせず、彼女との友人としての関係を断ちたくはないと宣言する。誠意ある態度です。
さらに自分は頭良くない(自分に何ができるかわからない)という恵都に「おまえは人にできないことができるじゃん」。学校では目だたないがテレビでみる青山はキラキラしてた、あんなすごいことができたんだしこれからもできると思う、と両手で握手して別れる。
カプセルの件に続いて恵都の背中を押してくれる。失恋に終わったとはいえ、恵都はいい相手に巡りあえたものだと思います。
・大洋を見送る恵都に木の陰から浩一が「かっこいいよなーやっぱり、とか思ってるんだろ」。何見てんのと恵都に突っ込まれてましたが、気になって仕方なかったんでしょうね。
「また迷子になられちゃ困るからさ」と言って先に立って歩き出す浩一の態度に、「そっか、心配してくれてたんだ」と内心に思いながら後ついて歩く恵都。感情の出し方が不器用な浩一と他人の感情を読むことにはまだ手探りな恵都。なんか微笑ましい二人です。
・校長が恵都の書き取りテストを採点しつつ笑える間違いっぷりに突っ込みを。恵都のお粗末すぎる国語力が最初に明かされるシーン。
10歳から学校行ってなかったとはいえ、引きこもってるぶん時間あるはずなのに本を読んだりしないものか。退屈じゃないか。ゲーマーとも思えないしネットもやってなさそうだし。部屋にテレビがあったからテレビ見てばっかだったのか?
・自作の超ロリータルックでおめかしした紅葉に一瞬絶句する恵都たち。どう、と見せられて、浩一は「なんというか、おまえらしいよ」と微妙な褒め方を。浩一らしい言い草ではありますが、後の展開を思えば「紅葉らしい」格好を受け入れてくれる相手か、紅葉が紅葉らしくいられるのかは最重要のポイントだったんですよね。
はっきり似合ってるといったのは恵都一人でしたが、しかし「紅葉にしか着こなせないと思うその服は」というのも浩一なみに微妙な褒め方です。
・告白に行くからみんなついてきて、と意気込む紅葉。しかし男子二人は拒否。恵都だけがついていく途中、通りすがりの女子高生(紅葉の元クラスメートたち)が紅葉を見て「学校辞めてもまだあんな格好してるんだ」と笑う。うつむく紅葉。
普段強気でマイペースな彼女ですが相当ひどくいじめられたんでしょうね。剛太といい浩一といい、昔いじめてた相手にやたら会ってしまうのは生活圏が変わってないからかな。
・男友達と歩く山口に声をかける紅葉。夕方バイト先のレンタルショップ側の公園で待っててという山口に紅葉は喜色満面。だが友達は「もっとましなカッコな」という。
紅葉のポリシーであるファッションを完全否定。山口本人が否定してるわけじゃないが内心友人に同調してそうなあたり、もう目はない感じです。失恋でも恵都のような綺麗な話にはならないんですよね。
・紅葉は一人で大丈夫といったが気になった恵都は剛太も誘って公園へ。吃音を押して剛太が恵都に何か話しかけてる。剛太は少しずつ頑張って話すようになってきていい傾向です。この時なぜ浩一は来なかったんでしょうね。
・普通の服装に着替えて待つ紅葉。正直普通の服のほうが足が綺麗なのもわかるしかえって可愛い気がしてしまう。本人は自分らしくない格好に居心地悪そうですが。
・山口が現れ彼女の服を可愛いと褒める。「野田さんのこと覚えてるよ」と言われて紅葉は一瞬嬉しそうにするものの、何だか毒のある山口の言葉に表情が曇ったところにクラスの男女がぞろぞろ現れる。「いつも暗い感じ」とか「後ろの席でうつむいてた」とか言われるあたり今とは別人のように暗い子だったんでしょう。今も何も言えなくなっちゃってるし。
・やっと「何でみんな来るの」と反論する紅葉。女の一人が山口に寄り添って「ケンとあたし付き合ってんだよ知らなかった?」。確かにあれだけ学校覗いたりしてたわりに気づかないものですかね。
・ついに紅葉を見つけた恵都たち。しかし紅葉は大勢に囲まれていて山口の女に噴水に突き飛ばされる。さらにはずぶ濡れの姿を写真に撮られたり。恵都は飛び出そうとするが剛太が危ないからと止める。恵都は本当こういうところ勇気あります。
一同が去ったところで二人は飛び出し、次々と噴水に入り座りこんだままの紅葉を両腕を抱えて引き上げる。友達のために自分たちもびしょぬれになることを一瞬たりとも躊躇わない。彼女たちの絆の強さを感じます。
声もよれよれの紅葉を恵都が無言で抱きしめる。「やっぱ元気出ないや、勝負服じゃないと」という紅葉の言葉がなお痛々しい。
・翌日リストンを休んだ紅葉を家の製果店に訪ねる恵都と剛太。この件では浩一はなぜかここまでノータッチなんですよね。肝ッ玉母ちゃん系の紅葉の母は二人を歓迎してくれる。紅葉は顔までひどい湿疹が出て寝ていた。「あいつ最低なやつだったじゃん。あんなやつのために泣いたり熱出したりしてる。馬鹿みたいだよ」と泣いて布団かぶる紅葉。可哀想だけど確かに見る目がなかったとしか言い様がない。
とぼとぼと帰途についた恵都と剛太ですが、紅葉を思って怒りに燃えた恵都は途中から一人走り出してしまう。大洋に失恋したときもそうでしたが、激しい感情に慣れない恵都は強いショックを受けるとそのまま暴走する傾向がある。それを身に沁みて知るからこそ剛太は恵都が何をやらかすか心配せずにいられなかったんでしょう。
・リストンで一人パソコンしてる浩一は「必見!大スクープ!!」と書かれた新着メールで「野田紅葉 寒中水泳」と題された写真が載ったサイトを見て戸惑ったような顔になる。
なんでこんなメールが浩一のところに送られてくるやら。差出人は匿名希望になってたから、この手のいわくつき投稿写真サイトに登録してるってことなんでしょうか。
・夕方、一人おしゃれして山口のバイト先のレンタルビデオ店を訪ねる恵都。服は全部新調したんでしょうね。「シザーハンズ」という映画を探してる口実で声をかけた恵都のショートパンツから伸びた足をしばらく見てる山口。紅葉の足には反応しなかったのに。
「大丈夫あたしは女優だ。そう思えばなんでもできるんだから」と自分に言い聞かせつつ、わざとDVDの山を崩して山口も一緒に拾うように仕向け近づくきっかけを作る。DVDを拾うためにしゃがんだ恵都の胸元に目をやる山口。
「おれそのDVD持ってるから貸したげる」と山口が誘いかけてくるのを満面の笑顔でOKし、自分から前の公園を待ち合わせ場所に指定する。いかに相手が可愛いとはいえちょろい男だよなあ。それだけ恵都が上手く隙ありげに見せたんでしょうが。
・夜、公園で山口と落ち合った恵都はお茶に誘われたのをさりげなく断り、噴水側に座るようにうながす。馴れ馴れしくすぐ隣に密着して座る山口。彼氏いるかと聞いてきていないと答えると「可愛いのに。おれと付き合わない?」「だって、彼女いるんでしょ?」「いないいないそんなの」。
可愛いと見ればすぐ口説きにかかる、こんな男になまじ気に入られずすっぱり振られただけ紅葉はマシだったかもしれません。
・「そういやおれ昨日ここで告られたんだよな」。以降紅葉の悪口をさんざん並べ立てる。我慢して聞いていた恵都ですが、山口が紅葉が噴水に漬かってる写メ見せて来た時「その瞬間、心の中で怒りがはじけた。7年間心の中に閉じ込めていた怒り。思い出した。怒りってこういう感情だったんだ」。
山口への復讐に乗り出している以上すでに十二分に怒ってるはずなんですが、それ以上の、目もくらむような怒りを感じたわけですね。
・恵都は「ねえ山口くんって筋肉質 ?」といきなり話を振り、彼の筋肉が見たいと言ってその場で強引にネクタイを取りシャツのボタンをどんどん外してしまう。さすがに「マジかよ」と引きつつもなんか企んでそうな山口の顔。変な女だけど見た目は可愛いんだし向こうもその気ぽいからやり逃げしちまおうくらいの気なんでしょうね。
シャツ脱がしたところで勢いよくそのシャツを投げ上げた恵都は山口を噴水に蹴り落とす。さらにカバンの中身を次々山口に投げつける。といってもノックアウトするほどの打撃にはなってませんが。
「なんだおまえ」と逆上する山口から荷物も持たずに逃げ出し、追いかけてきた山口に後ろから羽交い絞めにされるのをさらに腕に噛み付き振りほどいて逃げたものの、結局追いつかれ組み伏せられ殴られたところにちょうどパトカーが登場。山口は暴行の現行犯で速攻逮捕。この流れは思わず息を呑むハラハラ感でした。
・「公園に暴漢がいるって通報があったんだ」と警官の一人が山口を連行、もう一人は恵都を介抱するが平気そうだと見るともう一人と一緒にパトカーに乗り込む。入れ違いに剛太と浩一が走ってきて、剛太は恵都を助け起こし、浩一は「なにやってんだよ。馬鹿じゃないのおまえ」と叱責する。
通報があったという警官の言葉から、最初から恵都は山口を暴行魔に仕立てるつもりで上半身裸にし、警官が発見しやすい公園の入り口付近まで逃げたうえで自分を殴るよう仕向けたのかと思ったんですが、少し後のスクール長の台詞からすると警察に通報したのは浩一たちだったという。
となると恵都は何をしたかったんだろう。紅葉がされた仕返しに噴水に落としたかっただけなら服脱がす必要はなかったろうし、身元わかる手掛かりになりそうなバッグを置いたまま逃げ出したのも迂闊。本来考えてたシナリオが怒りのあまり吹っ飛んでしまったんでしょうか。
・11時過ぎ、警察の廊下で待つスクール長と浩一、剛太。剛太は廊下にしゃがみこみ祈るような姿勢をしていて彼の心配のほどがうかがえます。
やがて恵都と一緒に出てきた警官は「捜査にご協力いただきまして」と丁寧な態度ですが、恵都はどんな風に説明したんでしょうね。DVD貸してくれるというんで待ち合わせたらいきなり服脱いで襲ってきた、とかでしょうか。
・スクール長は、恵都の親には心配かけないように脚色して連絡しといたと話す。時間が時間だけに恵都の親は心配してるんじゃないかと思ってたのでこの説明で腑に落ちました。
うちでお茶でも飲んでくかとスクール長に言われ浩一と恵都は従うが剛太は一人別方向へ。おまえどこに行くんだと問われても「ちょ、ちょっと」とだけしか言わず走っていってしまう。まあストーリー的に紅葉に事態を(恵都の友情の熱さを)報告しに行くんだろうなとは思いましたが。
この時真っ先に紅葉フォローに動いたのが剛太だったことが、あとで二人がくっつくきっかけになったのかも。
・スクール長宅。家に引きこもるようになってから自分の感情を出さないように生きてきた、「でもさっきすごい怒りを感じた」と語り始める恵都に、気遣うように浩一が目をやる。
そのころ剛太は紅葉の家の前。当然ながらもう店は閉まっている。チャイムらしいものが見当たらず、「ごごごごめんください」と声かけるものの大きな声が出せなくて困って頭をかく。しかし頑張って大きな声を張り上げ再度呼びかけると紅葉が気づいて出てきてくれる。「声が大きいってば」と叱る紅葉ですが、剛太にとっては大きい声がちゃんと出せていたという嬉しい評価の言葉かも。
・「怒りを吐き出すってのは悪くないことだよ。でも後先を考えないとな。浩一と剛太が心配して公園に先回りして通報してくれてなかったらもしかして自分がやられてたかもしれない」と諭すスクール長。
後先を考えないという点ではもう一つ。この復讐のやり方はかえって紅葉を傷つける、恵都と紅葉の関係を悪くする可能性があった。というのは紅葉が彼女なりのドレスアップをしても、逆に普通の可愛い格好をしてさえ歯牙にもかけずひどい扱いをした山口が、恵都の色仕掛けにはほいほい乗ってきた。つまりは恵都が紅葉より女として魅力的なのが前提になっている作戦であり、それが成功したとしても、成功したならかえって紅葉のプライドは傷つくことになる。相手が好きだった男だけになおさら。
恵都が子供同様にまっさらな心の持ち主であり純粋に自分への友情から出た行為だとわかってはいても、面白くない気持ちが心の底にわだかまったとしても不思議じゃない。実際には紅葉もとことん真っ直ぐないい子だったおかげで(剛太の説明の仕方もよかったのかも)、単純に恵都に感謝して無事落着しましたが。
・隣の部屋に小学生くらいの男の子の写真がかざってある。浩一の語りでそれがスクール長の息子であり、やはりいじめが原因でひきこもり・不登校になったあげく、街で同級生たちに絡まれて亡くなった(リンチ殺人ということらしい)ことが説明される。
「エル・リストンを立ち上げたのもそれがあったからじゃないかな」。浩一は少し微笑むような優しい表情になる。脳天気そうなスクール長も相当の傷を抱えていた。だからこそ子供たちの側に立って物を見られるんだとここで明かされます。
・浩一は立って窓際に行き、外を見つめながら真剣な顔になって「暴力に暴力で立ち向かっても空しいだけだ」と恵都を諭す。「おまえ紅葉のためとかいってたけどほんとはそうじゃないだろ。ほんとは自分のために復讐したかったんだろ。世間ていうか自分を無視したり押さえつけてきた連中に。そういうの無意味だから」。
例によってきつい言葉ですが無茶をいましめる意味でも改めて自分の心に向き合わせる意味でも恵都にとって大きかった言葉です。「じゃあどうすればいいの。バカにされて震えるほど悔しいときって浩一にはないの」。問い質す恵都に向き直った浩一は「ある。あったよおれも。でも・・・どうすりゃいいかは自分で考えろ」だけ言って家を出て行く。まだその悔しかったときの記憶を語れる段階にはない、恵都にいろいろ忠告を送りながらも浩一自身もまだまだ発展途上です。
・自室に戻った恵都は昔自分の夢を書いた紙を取り出して眺め、「どうすれば一歩前に進めるんだろう」と考える。そしてお芝居のオーディション会場に出向く恵都。浩一の言葉を彼女なりに受け止めた証拠ですね。会場の外で「オーディション受けに来られたんですか」とスタッフに聞かれて「いえ」と踵を返してしまうあたり、まだ心の準備段階という感じですが。しかしここにやってきたことがマーサとの出会いにつながります。
・あの日立ちすくんだ恐怖が甦った恵都は、向こうから来た人とぶつかって荷物落としてしまう。荷物拾って集めて謝って去ろうとしたら相手からちょっと待ってと声をかけられる。「ぼくね今ヘアメイクのアシスタントやってて君の顔いじらせてほしいんだ。これ(とコンパクトを示す)壊れちゃったお詫び。いいよね、20分だけ」。
メイク道具壊した弱みがあるとはいえ結局了承してメイクされてしまう恵都。スクール長にはじめて声かけられたもそうですが、大事な人を傷つけた相手には毅然とした行動を取る一方で存外押しには弱い。おかげでリストンの皆に出会えたし、ここでもマーサと縁が出来たわけですが。
しかしマーサの方はこの時点では恵都と接触したのは全くの偶然、奈子の思惑は何も働いてないわけですから、純粋に恵都を貴重な素材として買ったんでしょうか。それともぶつかって間もなく相手が奈子がいまだにライバル視している青山恵都だと気付いたゆえの接近でしょうか。
・「思ったとおりだ、化粧栄えするんだよね。何かしてるの、女優さん?」とマーサに問われ「いえ、特に何も」と答えた恵都は「ドラマのオーディション受けてみない?」との誘いも断ったものの車で送ってもらうことはOKする。こういう無防備さはやはり引きこもりだったゆえの経験の少なさでしょうか。
ただいろいろあったものの最終的にはマーサも善人だったわけで、何気に恵都の人を見る目は正確なんですよね。
・リストンまで車で送ってもらった恵都は別れぎわに名刺を渡される。ちょうど見ていた浩一が入れ違いに門から出てきて嫌そうな顔。マーサにいじってもらった恵都の頭をなにか言いたげにじっと見てますが、綺麗だと思ってるのか何ちゃらちゃらしてんだよと思ってるのか。
・「ヘアメイクのアーティストだって。さっき声かけられて」「ヘアメイク ?」「あとで説明する。ちょっといろいろあって」「なんだよいろいろって」。会話の流れ的にやはり浩一はマーサの存在が面白くないんでしょうね。
そこへ二階から剛太がやってきて恵都の手を引き「こっちこっち」と走りだす。廊下の端でいつもの服な紅葉が腰に手を当てた偉そうなポーズで立っている。「紅葉さん、完全復活!」。二人は駆け寄り抱き合う。
剛太も嬉しそうな顔でなぜか浩一に半分抱きついてる。女の子同士だと普通にいい場面なんですが、男の子同士だとなんか違和感が(苦笑)。浩一も嫌がる様子なくその状態のままで二人を見つめてますが。翌年には舞台で恋人同士を演じる彼らだけに何げにお似合いな気も。
・屋上。ドラマのオーディションのいきさつを聞いて紅葉と剛太は盛り上がるが、浩一は一人少し離れたところにいる。恵都が再び芸能界に接近してるのをよく思ってないんだろうかと思いましたが、後の展開を見るとそうではなく、脅えながらも一歩進もうとしている恵都に感じるところがあり、我が身を省みてたようです。
・「紅葉にはそういう服が作れるし剛太にはヒップホップがある。でもあたしにはなんにもない」「情けないけど昔やってたことしかないんだよね。もううんざりって思ってたけど」「なのにさ。怖くて逃げてきちゃった。何かやらなきゃって思うけど何やっていいのかわかんないんだよね」。
恵都のストレートな告白を受けて、意を決したように浩一が動いて石段に座ると「恵都が恥をしのんで告白してくれたからおれも恥をかこうと思って」と右の靴と靴下を脱ぎだす。最初は何始めるのかという顔だった一同は足の傷跡を見て声を失う。
「ボルトが入っててこの角度より外に曲げられない。高校に入った年、同じサッカー部のチームメイトに吊るしあげられてやられたんだ」。二度目にリストンに来たときに紅葉が語った、浩一が一年間入院してた理由がやっと明らかに。表情からするに入院の直接の理由は紅葉も知らなかったぽいですが。
・あっちこっちぼこぼこにされて一年間入院、おれも悪かったんだよ。天狗になってたんだ、まわりのやつがみんなバカに見えてさ、バカだクズだって言い過ぎて恨みを買った。辛い過去を語る浩一の声は静かで、穏やかでさえある。やっと人に話せるほどに彼の中で気持ちの整理がついた、恵都たち三人にそれだけ心を許せるようになった表れでしょう。
「それっておれが親から言われ続けてきたことなんだよな。自分が言われて一番いやだったことをおれは人に言いまくってたんだ」。なんか虐待の連鎖を思わせるような心理状態です。しかしいかにも頭良さそうな浩一がそこまで親からののしられてきたというのが不思議。「たった一つこの世で得意だったサッカー」というくらいで、当時は成績よくなかったんでしょうか。
・「大怪我してたったひとつこの世で得意だったサッカーを取り上げられた。友達ははじめからいない。話相手はパソコンだけ。それがおれだ。そういう最低なやつなんだ」。
淡々と、しかし捨て鉢な台詞を口にする浩一に「今は違うじゃん。今は全然違うよ」と真っ先に言ったのは恵都だった。浩一も「そうだな。今は、違う」とすんなり同意したうえで、「でもちょっと油断すると怒りとか憎しみとかそういうもんがぐるぐるうずまいてそれに呑み込まれそうになる。そしてまた人をバカにしたくなる」「敵は人じゃないんだ。自分に勝たなきゃ」と続ける。最後の台詞は恵都を見ながら言っているので彼女へのメッセージですね。
恵都がしっかりこの台詞を受け止めていたのが、後に奈子とのやりとりの中ではっきり明かされることになります。
・恵都はキッチンへ行き母に話しかける。父は遅いし知佳も友達と食べてくると聞いて「じゃあいっしょに食べてもいい?」母は振り向いて目を見張る。リストンに通い出し、ずいぶん家族との関係も改善されてきた恵都ですが、まだ食事は一人部屋で食べてたんですね。
・差し向かいの食卓。「ねえ恵都。今日どこ行ってたの。定期券置いて行ってたからスクールじゃないよね」と切り出しておきながら、「話したくなければ話さなくていいのよ」と予防線を張ってしまう母。やっぱりまだ引きこもりに逆戻りされるのが怖くて、心配でも強く問い質せないんですね。
「ごめんねお母さん。心配してくれてるのに何も話さなくてごめん。あたしね今ちょっとずつちょっとずつだけど、なんていうかな、いい感じになってきてるんだ」。表現はたどたどしいですが、それだけに恵都の肉声という感じで胸に沁みます。母が気に病んでる、子役の仕事を押しつけて恵都を追いつめたことに関しても「お母さんに自分の力試すことの楽しさを教えてもらった」とフォローする。
「お茶入れるわね」と話をさえぎるように席を立つ母親の態度に、せっかく恵都が頑張って気持ちを伝えようとしてるのになんで、と思いかけましたがキッチンでこっそり泣くお母さんの姿に納得。ちゃんと娘の気持ちを受け止め感激していればこそだったんですね。
・恵都たち4人は水族館へ。恵都はすっかりはしゃぎっぱなし。その後ジェットコースターへ移動してるので遊園地のアトラクションの一つなんでしょう。
はしゃぐメンバーの中で浩一だけはすました顔してますが、その後コーヒーカップ乗ってるときに口を押さえてるのでコースター→カップのコラボで酔ったのか。回転木馬も棒にしがみついてぐったりモードだし。普段クールに振る舞ってるぶんそのヘタレっぷりがなんか可愛いです。
でも上手く木馬から降りられない恵都を支えて降ろしてやるあたりは紳士的で格好いい。「大丈夫か?」なんて珍しく言葉つきまで優しいし。
・「たちこめていた霧が晴れて雲の切れ間からささやかな光が見えてきた。そんな風に感じていたときだった。あなたが私の行く手にもう一度現れたのは」。恵都のモノローグのなかでもとりわけ詩的な美しい台詞ですが、最後に不穏なオチが。「あなた」が誰を指すのかすぐ見当がつくだけになおさら。
・いきなりあすなろテレビと名乗るテレビスタッフたちがマイクとカメラを向けてくる。「サニーの時の話をスペシャルゲストとして聞かせてもらえないかと」。紅葉が怒って止めに入るが、もめてる最中にいきなり「こんにちは。子ヤギさん」と上から声かけてくる人影が。案の定その正体は奈子。いかにも芝居がかった態度が悪役オーラ出しています。
ネット上では視聴者にさんざん叩かれている奈子ですが、スタッフやリストンの生徒たちに対する態度もそれぞれに感じ良くない。関係者の間でも嫌われてそうな気がします。
・降りてきた奈子は恵都の前に立って名のり、毒のある笑顔を見せる。言葉もなく立ち尽くす恵都。幸せの最中に不幸が襲ってくるのはドラマの常道ですが、実際7年分の試練が一気に襲いかかってきてるかのごとくです。
図ったかのような再会シチュエーションですが、恵都が今日この遊園地に来てるなんて知りようもないわけだし、しかし偶然にしてはスタッフの準備が良すぎるんだよなあ・・・。原作はそのへんちゃんと理由付けがしてあるんですが、ドラマはこのシーンにかぎらず結構大胆に説明部分をスパッと切るんですよね。
・その夜はそのまま屋上で焼きそばパーティー。野良猫の夜の集会に目をとめた恵都に浩一が「知ってる?キャットストリートって」。ここで作品タイトルが登場。意味的にはエル・リストンと同じ感じですね。
・7年前の舞台で立ちすくんでいた自分に「今の私を見せてあげたい。友達に囲まれて笑っている私を」。
すっかりいい顔で笑えるようになって。家にひきこもっていたのはついこの間のことなのに。いい友達に恵まれることがこれだけ世界を変えてくれるのですね。
・フリースクールの入学書類を両親に渡す恵都。週に二回くらい授業を受けるだけだけど無料ってわけにはいかないからと話す。恵都が両親とちゃんと話をするのはこれまた7年ぶりなのでは。
子役の時に稼いだお金があるでしょ、と自分のお金で行くことにポイント置いて話す恵都に、両親もこのままずっと家にいるよりはと賛同する気になってくれるが、帰ってきた知佳が「引きこもりよりは体裁がいいってこと?」ととがった声を投げる。友達がいるから行きたいだけなら遊びに行くのと一緒、そこで何を勉強してどうなりたいのか、と聞かれて「それは、まだ」としか恵都は答えられない。
「まだいいじゃないか」と父親は取りなすけれど、確かに知佳の言葉は鋭いところをついてはいる。とはいえ今時中高生、大学生でさえ何のために学校に行くのか明確な目的を持ってる人間は何割いることか。知佳自身だって将来こうなりたいからこういう勉強をしたいんだというはっきりした目標があるのかどうか。彼女の場合は完全に親の金で学校行ってるわけだろうし。その意味では知佳に恵都を責める資格はない。まあ確かに言いたくなる気持ちはわかりますけど。
・母は「この学校に行きたいのね恵都。お父さんお母さんに気を使ってとかじゃなくて」「行きたい、行きたいです」。
自分たちが恵都に子役の仕事を無理強いした自覚があるから今度は彼女の意思を尊重しようと思ってくれる。恵都もちゃんと目を見て自分を主張できるようになった。親子関係が劇的に改善されてきています。
・紅葉は屋上から自分の好きな人(元クラスメートだった山口)を恵都に見せる。紅葉がクラスメートにいじめられ不登校まで追い込まれたとき、積極的にいじめに加担しないまでも全く助けてくれなかったんだろう男をなぜこうも慕えるんだか。山口本人を見ないで勝手な理想を押し付けてたってことですかね。
原作では山口のどこがよかったのかと恵都らに聞かれて「顔」と言い切ってたくらいだし。
・4人で歩いているとき偶然大洋とマネージャー(平野)に行き会う恵都。恵都と腕組んでた紅葉は「道まちがえた」とあからさまに別の方向に彼女を引っ張っていこうとするが、大洋が気づいて声かけてくる。
「こんにちは」とこわばった顔で返事をする恵都。大洋はそのまま横を通り過ぎるが、平野はちょっと恵都を振り返る。何度かサッカーを見学に行ったし、恵都の大洋への気持ちを敏感に察してる様子です。
・3人は恵都の動揺を(男子二人は無言で)気遣うが、そこに大洋が走って戻ってきて、ちょっと話したいんだと恵都を呼び止める。
二人で歩きながら大洋は、紅葉にあまりあのコンビニに彼女と二人で来ないよう頼まれたと話す。「でもおれ断った。これからも青山とは友達としてちゃんと付き合いたい。だからそんな不自然なことはしたくない、って。それでいいよな」。会話からして大洋は恵都の気持ちを知らされてる。そのうえで変に謝ったりせず、彼女との友人としての関係を断ちたくはないと宣言する。誠意ある態度です。
さらに自分は頭良くない(自分に何ができるかわからない)という恵都に「おまえは人にできないことができるじゃん」。学校では目だたないがテレビでみる青山はキラキラしてた、あんなすごいことができたんだしこれからもできると思う、と両手で握手して別れる。
カプセルの件に続いて恵都の背中を押してくれる。失恋に終わったとはいえ、恵都はいい相手に巡りあえたものだと思います。
・大洋を見送る恵都に木の陰から浩一が「かっこいいよなーやっぱり、とか思ってるんだろ」。何見てんのと恵都に突っ込まれてましたが、気になって仕方なかったんでしょうね。
「また迷子になられちゃ困るからさ」と言って先に立って歩き出す浩一の態度に、「そっか、心配してくれてたんだ」と内心に思いながら後ついて歩く恵都。感情の出し方が不器用な浩一と他人の感情を読むことにはまだ手探りな恵都。なんか微笑ましい二人です。
・校長が恵都の書き取りテストを採点しつつ笑える間違いっぷりに突っ込みを。恵都のお粗末すぎる国語力が最初に明かされるシーン。
10歳から学校行ってなかったとはいえ、引きこもってるぶん時間あるはずなのに本を読んだりしないものか。退屈じゃないか。ゲーマーとも思えないしネットもやってなさそうだし。部屋にテレビがあったからテレビ見てばっかだったのか?
・自作の超ロリータルックでおめかしした紅葉に一瞬絶句する恵都たち。どう、と見せられて、浩一は「なんというか、おまえらしいよ」と微妙な褒め方を。浩一らしい言い草ではありますが、後の展開を思えば「紅葉らしい」格好を受け入れてくれる相手か、紅葉が紅葉らしくいられるのかは最重要のポイントだったんですよね。
はっきり似合ってるといったのは恵都一人でしたが、しかし「紅葉にしか着こなせないと思うその服は」というのも浩一なみに微妙な褒め方です。
・告白に行くからみんなついてきて、と意気込む紅葉。しかし男子二人は拒否。恵都だけがついていく途中、通りすがりの女子高生(紅葉の元クラスメートたち)が紅葉を見て「学校辞めてもまだあんな格好してるんだ」と笑う。うつむく紅葉。
普段強気でマイペースな彼女ですが相当ひどくいじめられたんでしょうね。剛太といい浩一といい、昔いじめてた相手にやたら会ってしまうのは生活圏が変わってないからかな。
・男友達と歩く山口に声をかける紅葉。夕方バイト先のレンタルショップ側の公園で待っててという山口に紅葉は喜色満面。だが友達は「もっとましなカッコな」という。
紅葉のポリシーであるファッションを完全否定。山口本人が否定してるわけじゃないが内心友人に同調してそうなあたり、もう目はない感じです。失恋でも恵都のような綺麗な話にはならないんですよね。
・紅葉は一人で大丈夫といったが気になった恵都は剛太も誘って公園へ。吃音を押して剛太が恵都に何か話しかけてる。剛太は少しずつ頑張って話すようになってきていい傾向です。この時なぜ浩一は来なかったんでしょうね。
・普通の服装に着替えて待つ紅葉。正直普通の服のほうが足が綺麗なのもわかるしかえって可愛い気がしてしまう。本人は自分らしくない格好に居心地悪そうですが。
・山口が現れ彼女の服を可愛いと褒める。「野田さんのこと覚えてるよ」と言われて紅葉は一瞬嬉しそうにするものの、何だか毒のある山口の言葉に表情が曇ったところにクラスの男女がぞろぞろ現れる。「いつも暗い感じ」とか「後ろの席でうつむいてた」とか言われるあたり今とは別人のように暗い子だったんでしょう。今も何も言えなくなっちゃってるし。
・やっと「何でみんな来るの」と反論する紅葉。女の一人が山口に寄り添って「ケンとあたし付き合ってんだよ知らなかった?」。確かにあれだけ学校覗いたりしてたわりに気づかないものですかね。
・ついに紅葉を見つけた恵都たち。しかし紅葉は大勢に囲まれていて山口の女に噴水に突き飛ばされる。さらにはずぶ濡れの姿を写真に撮られたり。恵都は飛び出そうとするが剛太が危ないからと止める。恵都は本当こういうところ勇気あります。
一同が去ったところで二人は飛び出し、次々と噴水に入り座りこんだままの紅葉を両腕を抱えて引き上げる。友達のために自分たちもびしょぬれになることを一瞬たりとも躊躇わない。彼女たちの絆の強さを感じます。
声もよれよれの紅葉を恵都が無言で抱きしめる。「やっぱ元気出ないや、勝負服じゃないと」という紅葉の言葉がなお痛々しい。
・翌日リストンを休んだ紅葉を家の製果店に訪ねる恵都と剛太。この件では浩一はなぜかここまでノータッチなんですよね。肝ッ玉母ちゃん系の紅葉の母は二人を歓迎してくれる。紅葉は顔までひどい湿疹が出て寝ていた。「あいつ最低なやつだったじゃん。あんなやつのために泣いたり熱出したりしてる。馬鹿みたいだよ」と泣いて布団かぶる紅葉。可哀想だけど確かに見る目がなかったとしか言い様がない。
とぼとぼと帰途についた恵都と剛太ですが、紅葉を思って怒りに燃えた恵都は途中から一人走り出してしまう。大洋に失恋したときもそうでしたが、激しい感情に慣れない恵都は強いショックを受けるとそのまま暴走する傾向がある。それを身に沁みて知るからこそ剛太は恵都が何をやらかすか心配せずにいられなかったんでしょう。
・リストンで一人パソコンしてる浩一は「必見!大スクープ!!」と書かれた新着メールで「野田紅葉 寒中水泳」と題された写真が載ったサイトを見て戸惑ったような顔になる。
なんでこんなメールが浩一のところに送られてくるやら。差出人は匿名希望になってたから、この手のいわくつき投稿写真サイトに登録してるってことなんでしょうか。
・夕方、一人おしゃれして山口のバイト先のレンタルビデオ店を訪ねる恵都。服は全部新調したんでしょうね。「シザーハンズ」という映画を探してる口実で声をかけた恵都のショートパンツから伸びた足をしばらく見てる山口。紅葉の足には反応しなかったのに。
「大丈夫あたしは女優だ。そう思えばなんでもできるんだから」と自分に言い聞かせつつ、わざとDVDの山を崩して山口も一緒に拾うように仕向け近づくきっかけを作る。DVDを拾うためにしゃがんだ恵都の胸元に目をやる山口。
「おれそのDVD持ってるから貸したげる」と山口が誘いかけてくるのを満面の笑顔でOKし、自分から前の公園を待ち合わせ場所に指定する。いかに相手が可愛いとはいえちょろい男だよなあ。それだけ恵都が上手く隙ありげに見せたんでしょうが。
・夜、公園で山口と落ち合った恵都はお茶に誘われたのをさりげなく断り、噴水側に座るようにうながす。馴れ馴れしくすぐ隣に密着して座る山口。彼氏いるかと聞いてきていないと答えると「可愛いのに。おれと付き合わない?」「だって、彼女いるんでしょ?」「いないいないそんなの」。
可愛いと見ればすぐ口説きにかかる、こんな男になまじ気に入られずすっぱり振られただけ紅葉はマシだったかもしれません。
・「そういやおれ昨日ここで告られたんだよな」。以降紅葉の悪口をさんざん並べ立てる。我慢して聞いていた恵都ですが、山口が紅葉が噴水に漬かってる写メ見せて来た時「その瞬間、心の中で怒りがはじけた。7年間心の中に閉じ込めていた怒り。思い出した。怒りってこういう感情だったんだ」。
山口への復讐に乗り出している以上すでに十二分に怒ってるはずなんですが、それ以上の、目もくらむような怒りを感じたわけですね。
・恵都は「ねえ山口くんって筋肉質 ?」といきなり話を振り、彼の筋肉が見たいと言ってその場で強引にネクタイを取りシャツのボタンをどんどん外してしまう。さすがに「マジかよ」と引きつつもなんか企んでそうな山口の顔。変な女だけど見た目は可愛いんだし向こうもその気ぽいからやり逃げしちまおうくらいの気なんでしょうね。
シャツ脱がしたところで勢いよくそのシャツを投げ上げた恵都は山口を噴水に蹴り落とす。さらにカバンの中身を次々山口に投げつける。といってもノックアウトするほどの打撃にはなってませんが。
「なんだおまえ」と逆上する山口から荷物も持たずに逃げ出し、追いかけてきた山口に後ろから羽交い絞めにされるのをさらに腕に噛み付き振りほどいて逃げたものの、結局追いつかれ組み伏せられ殴られたところにちょうどパトカーが登場。山口は暴行の現行犯で速攻逮捕。この流れは思わず息を呑むハラハラ感でした。
・「公園に暴漢がいるって通報があったんだ」と警官の一人が山口を連行、もう一人は恵都を介抱するが平気そうだと見るともう一人と一緒にパトカーに乗り込む。入れ違いに剛太と浩一が走ってきて、剛太は恵都を助け起こし、浩一は「なにやってんだよ。馬鹿じゃないのおまえ」と叱責する。
通報があったという警官の言葉から、最初から恵都は山口を暴行魔に仕立てるつもりで上半身裸にし、警官が発見しやすい公園の入り口付近まで逃げたうえで自分を殴るよう仕向けたのかと思ったんですが、少し後のスクール長の台詞からすると警察に通報したのは浩一たちだったという。
となると恵都は何をしたかったんだろう。紅葉がされた仕返しに噴水に落としたかっただけなら服脱がす必要はなかったろうし、身元わかる手掛かりになりそうなバッグを置いたまま逃げ出したのも迂闊。本来考えてたシナリオが怒りのあまり吹っ飛んでしまったんでしょうか。
・11時過ぎ、警察の廊下で待つスクール長と浩一、剛太。剛太は廊下にしゃがみこみ祈るような姿勢をしていて彼の心配のほどがうかがえます。
やがて恵都と一緒に出てきた警官は「捜査にご協力いただきまして」と丁寧な態度ですが、恵都はどんな風に説明したんでしょうね。DVD貸してくれるというんで待ち合わせたらいきなり服脱いで襲ってきた、とかでしょうか。
・スクール長は、恵都の親には心配かけないように脚色して連絡しといたと話す。時間が時間だけに恵都の親は心配してるんじゃないかと思ってたのでこの説明で腑に落ちました。
うちでお茶でも飲んでくかとスクール長に言われ浩一と恵都は従うが剛太は一人別方向へ。おまえどこに行くんだと問われても「ちょ、ちょっと」とだけしか言わず走っていってしまう。まあストーリー的に紅葉に事態を(恵都の友情の熱さを)報告しに行くんだろうなとは思いましたが。
この時真っ先に紅葉フォローに動いたのが剛太だったことが、あとで二人がくっつくきっかけになったのかも。
・スクール長宅。家に引きこもるようになってから自分の感情を出さないように生きてきた、「でもさっきすごい怒りを感じた」と語り始める恵都に、気遣うように浩一が目をやる。
そのころ剛太は紅葉の家の前。当然ながらもう店は閉まっている。チャイムらしいものが見当たらず、「ごごごごめんください」と声かけるものの大きな声が出せなくて困って頭をかく。しかし頑張って大きな声を張り上げ再度呼びかけると紅葉が気づいて出てきてくれる。「声が大きいってば」と叱る紅葉ですが、剛太にとっては大きい声がちゃんと出せていたという嬉しい評価の言葉かも。
・「怒りを吐き出すってのは悪くないことだよ。でも後先を考えないとな。浩一と剛太が心配して公園に先回りして通報してくれてなかったらもしかして自分がやられてたかもしれない」と諭すスクール長。
後先を考えないという点ではもう一つ。この復讐のやり方はかえって紅葉を傷つける、恵都と紅葉の関係を悪くする可能性があった。というのは紅葉が彼女なりのドレスアップをしても、逆に普通の可愛い格好をしてさえ歯牙にもかけずひどい扱いをした山口が、恵都の色仕掛けにはほいほい乗ってきた。つまりは恵都が紅葉より女として魅力的なのが前提になっている作戦であり、それが成功したとしても、成功したならかえって紅葉のプライドは傷つくことになる。相手が好きだった男だけになおさら。
恵都が子供同様にまっさらな心の持ち主であり純粋に自分への友情から出た行為だとわかってはいても、面白くない気持ちが心の底にわだかまったとしても不思議じゃない。実際には紅葉もとことん真っ直ぐないい子だったおかげで(剛太の説明の仕方もよかったのかも)、単純に恵都に感謝して無事落着しましたが。
・隣の部屋に小学生くらいの男の子の写真がかざってある。浩一の語りでそれがスクール長の息子であり、やはりいじめが原因でひきこもり・不登校になったあげく、街で同級生たちに絡まれて亡くなった(リンチ殺人ということらしい)ことが説明される。
「エル・リストンを立ち上げたのもそれがあったからじゃないかな」。浩一は少し微笑むような優しい表情になる。脳天気そうなスクール長も相当の傷を抱えていた。だからこそ子供たちの側に立って物を見られるんだとここで明かされます。
・浩一は立って窓際に行き、外を見つめながら真剣な顔になって「暴力に暴力で立ち向かっても空しいだけだ」と恵都を諭す。「おまえ紅葉のためとかいってたけどほんとはそうじゃないだろ。ほんとは自分のために復讐したかったんだろ。世間ていうか自分を無視したり押さえつけてきた連中に。そういうの無意味だから」。
例によってきつい言葉ですが無茶をいましめる意味でも改めて自分の心に向き合わせる意味でも恵都にとって大きかった言葉です。「じゃあどうすればいいの。バカにされて震えるほど悔しいときって浩一にはないの」。問い質す恵都に向き直った浩一は「ある。あったよおれも。でも・・・どうすりゃいいかは自分で考えろ」だけ言って家を出て行く。まだその悔しかったときの記憶を語れる段階にはない、恵都にいろいろ忠告を送りながらも浩一自身もまだまだ発展途上です。
・自室に戻った恵都は昔自分の夢を書いた紙を取り出して眺め、「どうすれば一歩前に進めるんだろう」と考える。そしてお芝居のオーディション会場に出向く恵都。浩一の言葉を彼女なりに受け止めた証拠ですね。会場の外で「オーディション受けに来られたんですか」とスタッフに聞かれて「いえ」と踵を返してしまうあたり、まだ心の準備段階という感じですが。しかしここにやってきたことがマーサとの出会いにつながります。
・あの日立ちすくんだ恐怖が甦った恵都は、向こうから来た人とぶつかって荷物落としてしまう。荷物拾って集めて謝って去ろうとしたら相手からちょっと待ってと声をかけられる。「ぼくね今ヘアメイクのアシスタントやってて君の顔いじらせてほしいんだ。これ(とコンパクトを示す)壊れちゃったお詫び。いいよね、20分だけ」。
メイク道具壊した弱みがあるとはいえ結局了承してメイクされてしまう恵都。スクール長にはじめて声かけられたもそうですが、大事な人を傷つけた相手には毅然とした行動を取る一方で存外押しには弱い。おかげでリストンの皆に出会えたし、ここでもマーサと縁が出来たわけですが。
しかしマーサの方はこの時点では恵都と接触したのは全くの偶然、奈子の思惑は何も働いてないわけですから、純粋に恵都を貴重な素材として買ったんでしょうか。それともぶつかって間もなく相手が奈子がいまだにライバル視している青山恵都だと気付いたゆえの接近でしょうか。
・「思ったとおりだ、化粧栄えするんだよね。何かしてるの、女優さん?」とマーサに問われ「いえ、特に何も」と答えた恵都は「ドラマのオーディション受けてみない?」との誘いも断ったものの車で送ってもらうことはOKする。こういう無防備さはやはり引きこもりだったゆえの経験の少なさでしょうか。
ただいろいろあったものの最終的にはマーサも善人だったわけで、何気に恵都の人を見る目は正確なんですよね。
・リストンまで車で送ってもらった恵都は別れぎわに名刺を渡される。ちょうど見ていた浩一が入れ違いに門から出てきて嫌そうな顔。マーサにいじってもらった恵都の頭をなにか言いたげにじっと見てますが、綺麗だと思ってるのか何ちゃらちゃらしてんだよと思ってるのか。
・「ヘアメイクのアーティストだって。さっき声かけられて」「ヘアメイク ?」「あとで説明する。ちょっといろいろあって」「なんだよいろいろって」。会話の流れ的にやはり浩一はマーサの存在が面白くないんでしょうね。
そこへ二階から剛太がやってきて恵都の手を引き「こっちこっち」と走りだす。廊下の端でいつもの服な紅葉が腰に手を当てた偉そうなポーズで立っている。「紅葉さん、完全復活!」。二人は駆け寄り抱き合う。
剛太も嬉しそうな顔でなぜか浩一に半分抱きついてる。女の子同士だと普通にいい場面なんですが、男の子同士だとなんか違和感が(苦笑)。浩一も嫌がる様子なくその状態のままで二人を見つめてますが。翌年には舞台で恋人同士を演じる彼らだけに何げにお似合いな気も。
・屋上。ドラマのオーディションのいきさつを聞いて紅葉と剛太は盛り上がるが、浩一は一人少し離れたところにいる。恵都が再び芸能界に接近してるのをよく思ってないんだろうかと思いましたが、後の展開を見るとそうではなく、脅えながらも一歩進もうとしている恵都に感じるところがあり、我が身を省みてたようです。
・「紅葉にはそういう服が作れるし剛太にはヒップホップがある。でもあたしにはなんにもない」「情けないけど昔やってたことしかないんだよね。もううんざりって思ってたけど」「なのにさ。怖くて逃げてきちゃった。何かやらなきゃって思うけど何やっていいのかわかんないんだよね」。
恵都のストレートな告白を受けて、意を決したように浩一が動いて石段に座ると「恵都が恥をしのんで告白してくれたからおれも恥をかこうと思って」と右の靴と靴下を脱ぎだす。最初は何始めるのかという顔だった一同は足の傷跡を見て声を失う。
「ボルトが入っててこの角度より外に曲げられない。高校に入った年、同じサッカー部のチームメイトに吊るしあげられてやられたんだ」。二度目にリストンに来たときに紅葉が語った、浩一が一年間入院してた理由がやっと明らかに。表情からするに入院の直接の理由は紅葉も知らなかったぽいですが。
・あっちこっちぼこぼこにされて一年間入院、おれも悪かったんだよ。天狗になってたんだ、まわりのやつがみんなバカに見えてさ、バカだクズだって言い過ぎて恨みを買った。辛い過去を語る浩一の声は静かで、穏やかでさえある。やっと人に話せるほどに彼の中で気持ちの整理がついた、恵都たち三人にそれだけ心を許せるようになった表れでしょう。
「それっておれが親から言われ続けてきたことなんだよな。自分が言われて一番いやだったことをおれは人に言いまくってたんだ」。なんか虐待の連鎖を思わせるような心理状態です。しかしいかにも頭良さそうな浩一がそこまで親からののしられてきたというのが不思議。「たった一つこの世で得意だったサッカー」というくらいで、当時は成績よくなかったんでしょうか。
・「大怪我してたったひとつこの世で得意だったサッカーを取り上げられた。友達ははじめからいない。話相手はパソコンだけ。それがおれだ。そういう最低なやつなんだ」。
淡々と、しかし捨て鉢な台詞を口にする浩一に「今は違うじゃん。今は全然違うよ」と真っ先に言ったのは恵都だった。浩一も「そうだな。今は、違う」とすんなり同意したうえで、「でもちょっと油断すると怒りとか憎しみとかそういうもんがぐるぐるうずまいてそれに呑み込まれそうになる。そしてまた人をバカにしたくなる」「敵は人じゃないんだ。自分に勝たなきゃ」と続ける。最後の台詞は恵都を見ながら言っているので彼女へのメッセージですね。
恵都がしっかりこの台詞を受け止めていたのが、後に奈子とのやりとりの中ではっきり明かされることになります。
・恵都はキッチンへ行き母に話しかける。父は遅いし知佳も友達と食べてくると聞いて「じゃあいっしょに食べてもいい?」母は振り向いて目を見張る。リストンに通い出し、ずいぶん家族との関係も改善されてきた恵都ですが、まだ食事は一人部屋で食べてたんですね。
・差し向かいの食卓。「ねえ恵都。今日どこ行ってたの。定期券置いて行ってたからスクールじゃないよね」と切り出しておきながら、「話したくなければ話さなくていいのよ」と予防線を張ってしまう母。やっぱりまだ引きこもりに逆戻りされるのが怖くて、心配でも強く問い質せないんですね。
「ごめんねお母さん。心配してくれてるのに何も話さなくてごめん。あたしね今ちょっとずつちょっとずつだけど、なんていうかな、いい感じになってきてるんだ」。表現はたどたどしいですが、それだけに恵都の肉声という感じで胸に沁みます。母が気に病んでる、子役の仕事を押しつけて恵都を追いつめたことに関しても「お母さんに自分の力試すことの楽しさを教えてもらった」とフォローする。
「お茶入れるわね」と話をさえぎるように席を立つ母親の態度に、せっかく恵都が頑張って気持ちを伝えようとしてるのになんで、と思いかけましたがキッチンでこっそり泣くお母さんの姿に納得。ちゃんと娘の気持ちを受け止め感激していればこそだったんですね。
・恵都たち4人は水族館へ。恵都はすっかりはしゃぎっぱなし。その後ジェットコースターへ移動してるので遊園地のアトラクションの一つなんでしょう。
はしゃぐメンバーの中で浩一だけはすました顔してますが、その後コーヒーカップ乗ってるときに口を押さえてるのでコースター→カップのコラボで酔ったのか。回転木馬も棒にしがみついてぐったりモードだし。普段クールに振る舞ってるぶんそのヘタレっぷりがなんか可愛いです。
でも上手く木馬から降りられない恵都を支えて降ろしてやるあたりは紳士的で格好いい。「大丈夫か?」なんて珍しく言葉つきまで優しいし。
・「たちこめていた霧が晴れて雲の切れ間からささやかな光が見えてきた。そんな風に感じていたときだった。あなたが私の行く手にもう一度現れたのは」。恵都のモノローグのなかでもとりわけ詩的な美しい台詞ですが、最後に不穏なオチが。「あなた」が誰を指すのかすぐ見当がつくだけになおさら。
・いきなりあすなろテレビと名乗るテレビスタッフたちがマイクとカメラを向けてくる。「サニーの時の話をスペシャルゲストとして聞かせてもらえないかと」。紅葉が怒って止めに入るが、もめてる最中にいきなり「こんにちは。子ヤギさん」と上から声かけてくる人影が。案の定その正体は奈子。いかにも芝居がかった態度が悪役オーラ出しています。
ネット上では視聴者にさんざん叩かれている奈子ですが、スタッフやリストンの生徒たちに対する態度もそれぞれに感じ良くない。関係者の間でも嫌われてそうな気がします。
・降りてきた奈子は恵都の前に立って名のり、毒のある笑顔を見せる。言葉もなく立ち尽くす恵都。幸せの最中に不幸が襲ってくるのはドラマの常道ですが、実際7年分の試練が一気に襲いかかってきてるかのごとくです。
図ったかのような再会シチュエーションですが、恵都が今日この遊園地に来てるなんて知りようもないわけだし、しかし偶然にしてはスタッフの準備が良すぎるんだよなあ・・・。原作はそのへんちゃんと理由付けがしてあるんですが、ドラマはこのシーンにかぎらず結構大胆に説明部分をスパッと切るんですよね。