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俳優・勝地涼くんのこと。

『キャットストリート』(1)

2012-08-22 23:32:02 | キャットストリート
2008年8月にNHKにて全六回放送。大ヒットドラマ『花より男子』の原作者である神尾葉子さんの作品というので、話題性もあり高視聴率を取るのではないかと期待したのですが、そこはNHKだからかさほど騒がれることもなく、そのかわり主要キャラを演技派で固めた手堅い作りの良心的ドラマに仕上がっていました。
ストーリーに関しても、結構大きな改変も加えられているものの基本的には原作のエピソードを上手く応用して、事件が起こる時期をずらしたり関係者の顔触れを変更したりしつつ綺麗に纏め上げていたと思います。

なかでも最も大きな改変はヒロイン恵都の親友→恋人となる二人の男子の一人・佐伯玲の存在を消してしまい、代わりにヒップホップダンスを得意とする吃音の少年・剛太を出してきたこと。
そして玲のキャラクターとエピソードの一部(元サッカー少年だが突出した才能ゆえの傲慢な態度のせいでチームからはじきだされた、子供の頃に恵都の舞台を見にいったことがある)は最終的に恵都と結ばれる峰浩一に吸収されることになった。
原作で浩一と人気を二分していただろう玲を存在自体抹消してしまうとは思い切った判断ですが、コミックス8巻分の物語を全6話に凝縮するにあたって、大きな枝をばっさり切って構造をシンプルにしたのはドラマの完成度を見る限り成功だったのだと思います。

また恵都-浩一-玲の三角関係がなくなったことで原作よりも恋愛要素がやや薄まり、紅葉・剛太も含めた4人組の友情により重点が置かれることとなった。それは各話のエンディングテーマのバック及び最終回ラスト手前で4人が並んで歩く場面が印象的に描かれているのに象徴されています。
だからといって恋愛部分が軽視されてるわけではなく、恵都・浩一のツーショットはしばしば目を見張るような美しいアングルで描かれていて、スタッフの思い入れを感じたものです。

もう一つ大きな改変ポイントで上手いなと思ったのは恵都が7年間引き篭もる原因となった子役時代の親友・奈子の扱い。原作では奈子との確執は物語の中盤で解消され、以後の彼女は恵都の良きライバル・友人というポジションになっていくのですが、ドラマでは原作終盤で奈子と無関係に起こる恵都拉致事件を奈子の仕業として二人の和解を最終回まで引っ張る。
このことにより奈子の存在感が増しただけでなく奈子にとっての恵都の影響力―彼女を脅かしてやまない恵都の存在感をも引き上げています。奈子に始まり奈子に終わる、奈子に心を打ち砕かれた恵都が強く成長し最終的に奈子の心を救う展開を終盤に持ってくることで、ストーリーの構造もぐっと引き締まった感があります。

上で書いたようにドラマは原作以上に友情(恵都と奈子の確執→和解も友情エピソードには違いない)を重く扱ってるのですが、彼らの出会いの場となったフリースクール「エル・リストン」が物語に占める重要性もより大きくなっています。
原作では中盤で浩一が18歳で起業したのを皮切りに4人組はそれぞれの才能を活かして社会的にも華々しい成功を遂げ、自然とエル・リストンを卒業していってしまうのですが、ドラマでは経営が危ないエル・リストン―彼らの居場所を守るために4人が特技を活かしてお金を稼ごうとする、そのために自ら社会に働きかけることを通して結果的にリストンを必要としないほどに逞しく成長してゆくという描き方をしています。
原作でもラスト、スクール長の死によって存続不能となりいったんは人手に渡ったエル・リストンを浩一が買い取り恵都たちの協力のもと再建しているので、決してリストンが軽く扱われてるわけではないのですが、ドラマではずっとリストンは彼らの居場所であり続け、なおかつ“いずれ巣立って行かなくてはならない場所”であることも語られている。
奈子やマスコミ、いじめ加害者たちの発言を通して世間のフリースクールに対する偏見が繰り返し語られるのも、彼らの“卒業”でドラマが幕を閉じるのも、エル・リストン、ひいてはフリースクールの存在意義というものをドラマスタッフがしっかりと見据え、作品を通して視聴者に伝えてゆこうとしたゆえなのでしょう。

キャスト・演出・志――その全てにおいて高いクオリティを持った素晴らしい作品だと思います。

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