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about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『四つの嘘』(2)-1(注・ネタバレしてます)

2012-09-08 03:00:20 | 四つの嘘
〈第一回〉

・「右手に灯台が見えるときは幸せだけど、左手に見えるときはこのまま船が沈めばいいのにって、思うわ」。美波の過激な発言の中に、船が行って戻れば二人は離れなければならない、訳ありのカップルであることが示されています。

・上の台詞から間もなく船は本当に衝突事故に遭遇。船は傾き、繋いだ二人の手が離れて美波だけが海に投げ出される。この時点では彼女一人が死んだ(男は助かった)のかと思いました。

・平凡ながらもそこそこ裕福そうな家庭の主婦に納まっている美波の高校時代の同級生・満希子。
椅子の上に落としたウインナーを一度は(おそらくは子供の)弁当箱に拾って入れたものの、やはり取り出して自分の口に入れてにんまり微笑む。この一連の動作に「床に落ちたわけじゃないし、まあいっか」→「でもやっぱり子供にヘンなもの食べさせるのはちょっとね。自分の分なら構わないけど」という気持ちの変遷、そこに表れた子供への愛情+それを口実に自分がつまみ食いしたかったというちゃっかりした考えまでが集約されている。
平凡な主婦というポジションにがっつりはまり込んでる満希子の性格を短いシーンでわかりやすく見せています。

・ここで23年前の女子高生時代の満希子が美波の語りで紹介される。学年一番の成績で学校一の美人で生徒会長で、と絵に描いたような完璧人間ぶり。「起立」の号令をかける凛とした表情にも彼女の自信のほどが漲っています。
お弁当のおかずをつまみ食いする主婦満希子の姿を見た直後なのでその落差がより印象づけられる。満希子の名札の姓が23年後の姓と同じことから、旦那の方が婿入りしたのだろうことがこの時点でわかるようになっています。

・そんな堂々たる満希子を斜め後ろの席から見つめる女子高生美波。肩の上で二本に結わえた髪型のせいもあって、不美人ではないけどもっさりした垢抜けない感じ。満希子のことを「みんなの羨望の的でした」と美波のモノローグは言うが、美波自身が満希子に並々ならぬ羨望と嫉妬さえ覚えていたのがその面白くなさそうな表情に窺えます。
この後二人が仲良しだった、というか美波が満希子の子分的存在だったことが明かされますが、美波の満希子に向ける感情は決してプラスのものばかりじゃなかった。むしろマイナスの感情が大きかったことが、美波が一時詩文に急接近する背景になったわけですね。

・階段を降りてくるなり弁当箱をかっさらうようにしてバタバタと登校してゆく子供二人に、牛乳くらい飲んでいけ、挨拶くらいしろと怒鳴る満希子。その一方でちょうど階段を降りてきた夫・武のことはまるで無視。「挨拶しないのー?」と不満げにつぶやく武。
子供のことは口うるさいほどに構いたがるくせに夫には無関心な妻、ごはんやお弁当を作ってくれる母の気遣いにまるで無頓着で無愛想な子供たち、妻に(おそらくは子供にも)軽視されることに不満を抱く夫、とおよそ仲良し家族とは言えない西尾家の様子。
といっても家庭崩壊してるわけでもないごく一般的な家庭の姿ですね。満希子は子供たちに怒鳴りつつも声の調子も言葉の選び方もなんかユーモラスだし、消しの不満の漏らし方にも深刻さは感じられない。むしろちょっとしたコントのようでさえあります。
ただ将来はニュースキャスターを目指してたはずの満希子は意気揚揚とした高校時代から比べると、セレブな主婦というならともかくずいぶん平凡な、そこそこのレベルに落ち着いちゃったなあ、という感はあります。美波の語りも言外にそう言ってますね。

・急いで一階の店を走り抜けながら、店番?の男性には「いってきます」と挨拶する子供たち。決して挨拶の出来ない子たちではない、親には素直になりにくいだけで今時の子としては礼儀正しい部類なのがこのワンシーンでわかります。
旦那さんの言う通り「二人とも上出来」。さらに西尾家が仏具店を経営してるのもここで示されています。

・夫がおならしたのではないかとあらぬ疑いで責める満希子。「空耳かしら。最近いろんな音が聞こえるのよ。・・・おかしい」。
特に深刻そうな口ぶりではないですが、年齢による体の変化(衰え)を満希子が自覚する場面がさりげなく入れられていて、後々彼女が若い男に言い寄られて(自分が女としてまだ魅力的なのか改めて考え自信を失いつつあっただけに)くらっとくることへの伏線になっている。旦那はいい人だけどただそれだけの人というナレーションも、満希子がアバンチュールに憧れてしまう下地になってますね。

・テレビのニュースでバンクーバーの船舶事故とそこで「河野圭史」が亡くなったと聞いてはっとする満希子。おそらくはこの男性が美波の相手の男だったろうこと、美波と高校のクラスメートだった満希子が彼の名を知ってるからには、彼と美波の付き合いは高校時代に遡るらしいことが匂わされている。

・病院の廊下をストレッチャーで運ばれる怪我人の映像に続けて、病院の廊下を白衣で颯爽と歩く美人の女医・灰谷ネリが紹介される。バレッタを口にくわえて手早く髪をまとめようとする仕草に、彼女が飾り気のない、バリバリ働いている男勝りの女なのが示されています。

・23年前の女子高生ネリの姿。一人で勉強ばかりしていたという美波による紹介をバックに、机で一人昼食中にも参考書を広げているところが映される。クラスに一人くらいいそうな、好んで周囲から孤立している偏屈なタイプを思わせます。耳栓までしてるところに周りに対する拒絶の意志がはっきり表れている。
当時彼女が何を目指してたかは言及されてませんが、女医といういわゆるエリートポジションなら勉強した甲斐があったというか、当時の彼女からイメージされる通りの大人になった感じです。先の満希子とのコントラストが効いています。

・手術室の電話が鳴り、助手の女性が不機嫌もあらわに「先生は手が放せません」と応対する。それに対し電話の向こうの満希子はむっとするでもなく穏やかに応答。例のニュースに驚いて同窓生のネリに電話したんでしょうが、美波はほとんど口を聞いたこともなかったというネリの現在の連絡先をちゃんと知ってるあたり、さすがに元優等生だけに顔が広いのかなーと感じました(別に当時から仲が良かったわけでなく、最近偶然からちょっと近しくなったことがあとで種明かしされましたが)。
しかし普通なら勤務中だろう時間に自分の都合で電話してしまうあたり、満希子の無頓着さを感じます。助手の無礼な応対に腹を立てるでもなかったのも寛容というより鈍感さゆえだった(助手はまさにそうした鈍感さにむかついてつっけんどんな態度になった)んじゃ。まあ女医さんだと夜勤も休日出勤もあるだろうから、いつ連絡するのが適切かわからない、というのはありますね。・・・メールにすりゃいいんじゃん。

・今度は住所録を取り出し、ちょうど問題の地・バンクーバーに住んでいる美波に電話をする満希子。美波の現在の名字は戸倉。名字が高校時代と変わってることから彼女が既婚者であること、そして船上での連れの男性が「河野圭史」ならば二人は不倫の関係の可能性が高いのがここでわかります。
思えば満希子は婿養子をとり、ネリは未婚、詩文もバツイチと、この物語の核となる女性4人は美波を除いて旧姓のまんまなんですね。

・バンクーバーの戸倉家。電話に出たのは美波の夫。美波は最近ダンス教室に通うようになり今は留守にしてる、という説明にもう視聴者は全員、習い事を口実に不倫してるのだと察したことでしょう。

・満希子のリクエストで父に代わり電話に出た娘の彩。父に呼ばれたときの「はい」という返事といい、電話での丁寧な応対ぶりといい、これまた実に優等生な子です。
そして「もうそっちは夜でしょ」との満希子発言に驚く。真昼のように外が明るいのだが?確かに見返したらバンクーバーに舞台が移ったところで現地時間午後7時半と出ている。なのにこの明るさ。白夜ですか?

・「お帰りになったら電話いただけるように伝えてくださる?」という満希子。電話して相手が留守ならごく当たり前の台詞ではありますが、この場合国際電話になってしまうわけで、折り返しじゃなくてこちらからかけ直すべきなんじゃないかなあ。
もうすぐ帰るだろうと言ってるんだから1時間後とか、あんまり遅い時間じゃ悪いから明日にするとか。このへんも満希子の無頓着さの表れのような。

・電話を切った満希子は何かを勘ぐってるような表情をしている。美波と河野の関係を知っているだけに、二人が同じバンクーバーにいること、美波が習い事のためにしばしば家を空けてるらしいことを結び付けて二人の不倫関係をうすうす想像してるのでしょう。まあこの段階では想像というより妄想に近いんじゃないかと思いますが。刺激に飢えてる人間が知り合いの事故死からさらにゴシップの匂いを嗅ぎ付けて喜んでいるような。
この後も満希子の言動は友人を心配し悼んでいるというより、暇な人間がうってつけの娯楽を見つけて夢中になっているようにしか見えません。23年前の満希子だったら、きっとこういう人間を軽蔑してたんじゃないかという気がします。
・線路沿いにある英児のアパート。いかにも安そうな、下手したらお風呂もなさそうな作りが英児のキャラと立場にはちょうどマッチしています。

・窓から差し込む光の中、俊敏な動作で起き上がる英児と、まだ両腕を伸ばした弛緩したポーズで横たわっている詩文。二人の運動能力のみならず若さの違いも何気なく表現されている。

・詩文登場のところで高校時代の映像が入る。これ見よがしに難しい本ばかり読んでいて好んでクラスから孤立していた彼女を「なぜか男の人はみんなこの女が好きで」。本に事寄せて話し掛けながらさりげなく手に触ってくる男性教師を蠱惑的な笑顔で見上げる。こりゃ同性には嫌われますね。特に昔気質のお堅い女子高みたいだし。
逆に男にとってはスキンシップにも嫌な顔せず笑顔さえ向ける詩文は大いに都合のいい存在。ただあそこまでモテまくるのはそればかりではない、天然のフェロモン出しまくってるんでしょうけど。

・英児の部屋のテレビで「圭史」の事故死を知る詩文。ここで彼と詩文が元夫婦だったという意外な事実が明かされる。そして現在の男である(のは描写からまず確実な)英児に躊躇せずそれを告げる詩文のさばけた性格と二人の関係性が、そのやり取りの中に示されてもいる。ついでに「シアトルってどこ?」の英児の無教養さ(この場合それは無教養→ワイルドに繋がるむしろプラス要素)もわかります。

・「16年も前だもの。関係ないわ」と笑う詩文とそんな彼女を再び布団に押し倒す英児。おいおい。元夫の死がかえって媚薬になってしまう詩文。確かに天性の悪女かも。その無言の誘いに当たり前に応じてしまう英児も英児なわけですが。

・かつて詩文に「圭史」を奪われた美波は、詩文と別れた彼と結果的に共に死ねた、恋の勝負に最終的に勝ったことを心で誇ってみせる。それを示すかのように遺体もうっすらと微笑んでいる。
ただ美波の期待するように詩文が敗北感を覚えるかははなはだ疑問。結婚中に略奪されたのならわかりますが、美波の存在とは無関係に別れたわけなんだから、“自分のお下がりに食いついた女”という感想になりそうな。まあ心情的に引っ掛かりゼロとまではならないでしょうけど。
それ以上に美波は不倫デート中に事故死したのだから、二人の関係が夫と子供にバレる心配が第一に来るのが普通な気がするのだが。“真実の愛の成就”の前には些末な問題ということでしょうか・・・?。「ごめんなさいね 誰よりも幸せになってしまって うふふふ」だもんなあ。

・カレンダーを見て「明日から減量か・・・」と呟いた詩文は、英児が減量するなら自分も禁欲する、だから当分会えないと宣言する。禁欲=会えないになるところに、二人の結びつきがきわめて肉体性の強いものだということがわかる。
そして「来たっていいぜ」「我慢、できるのかよ」と挑発的に言い放つ英児の言葉つきからすれば、よりセックスに執着が強いのは詩文の方らしいです。

・「英児が減量している間はあたしも禁欲するの。それがあたしたちのルールよ。」この台詞からして二人の間のルールを作ったのはおそらくは詩文。年上で、姉さんぶりたがる一面のある詩文のほうがイニシアティブを握っているのがうかがえます。
加えて恋人が苦しい思いをしているときに一人楽をしようとは思わない、苦しみを多少なりとも共有したいと考える詩文は結構ないい女なんじゃないかと思いました。それも深刻にならずにおどけたようにキュートな口調と表情で告げる――彼女が男性を惹きつけてやまないのも無理ありません。

・遠からず試合に望む英児に対して「顔は傷つけないでよね。あたしは英児の顔が好きなんだから」。殴り合いが仕事のプロボクサーを相手にこの要求は無茶な。でもこのはっきりしたところもかえって魅力的だと思えてしまう。
そして「顔が好き」の台詞には、「そりゃそうだよねえ、こんな美男子ならねえ」と思い切り納得してしまいました(笑)。

・詩文の“お願い”には何も答えず「死んだ人、娘の父親だろ」と真顔で尋ねる英児。詩文がバツイチともともと知ってはいても元夫の存在に無関心でいられないらしい。元夫の死にあまりに恬淡としている詩文の態度に道徳的見地から幾分苛立ってようにも見えます。
冗談で「英児みたいなの」呼ばわりされてむっとした顔で押し黙るところとか、そういうすぐ顔に出る単純さや妙にモラリストな部分―すれてなさを詩文は可愛く思ってるんじゃないかな。

・詩文が一人電車に乗っているころ、英児はボクシングジムでスパーリング中。前髪を半ば上げたやや大人びたヘアスタイルが、かえって童顔を際立たせているような。・・・顔は傷つけないでね、と私まで言いたくなります(笑)。

・日傘を差して街を歩く詩文。傘も服も白が基調となっている。対して、数秒挿入される西尾家の食卓で一人座る満希子はエプロンの柄やつまんで口に入れたトマト、調味料のフタや背景の観葉植物?など要所要所に入る赤い色が印象的。このへんコントラストを考えてやってるんでしょうね。

・古書店のガラス戸を開けて中へ入る詩文。美波のナレーションで本好きと説明されていた詩文なのでお客として訪ねてきたとも考えられますが、店のガラスに「詩文堂」と名前が入ってるので偶然の一致ではない、おそらく彼女の家なんだろうとわかります。店の名前にちなんで娘の名をつけたのかその逆だったのかは不明ですが(原作によると店の名前が先っぽい)。

・詩文が扉を開けるところで奥に座る年配の男性が電話で話す声が聞こえてくる。「月末にはなんとかいたしますので」という言葉に詩文の表情が曇る。
近年(番組本放映時もすでに)、街の古書店はチェーンの新古書店に押されて経営が苦しいとはよく聞くところ。さらに店主も年配で、声からして高齢というだけでなく覇気もなさそうとあれば、かつかつの状況なんでしょうね。
奔放に生きてるような詩文ですが、その実いろいろ悩みを抱えていそうです。まあ四十近くにもなればいろいろあるのが当然なんですが。特に当分英児に会えないとなればその間はそれらの悩みを直視する時間が増えるわけで・・・今後の詩文の多難さが予期されます。

・電話が終わったところで「ただいま」と挨拶する詩文に「お帰り冬子」と答える店主。え ?冬子って?と思ったら「詩文ですよ私は」とおどけたようにいう詩文の声に「ああそうか」とあっさり返事。声だけで判断したから、よく見えなかったから間違えたとかではないらしい。
慣れた風の詩文の対応からしても少しボケ気味なのかもという疑惑がわきあがってきます。だとしたらますます経営状態はやばいんじゃないかなあ。

・冬子がちゃんと学校にいっただろうかという話題の中で、冬子が詩文の娘で現在高校生ということ、あまり学校に行きたがらないこと、詩文はそのへん楽観視してるけど店主(詩文の父)は父親がいないことに原因があるのではと考えてるらしく、いまだに詩文に「圭史くん」との再縁を期待してることなどがわかってくる。
そんな父に詩文は圭史の死をあっさり告げて「だからお父さんの夢はもう叶えられないわ」とにっこり笑い「お腹すいたー」と気楽に言いながら奥へ入ってしまう。あまりに軽い詩文の反応ですが、別れて16年前経ってるとはいえさすがに軽すぎる感があるので、逆に無理して明るく振舞ってるようにも見えてきます。実際電子レンジで肉まんを暖める詩文の表情はいささか重いものがありました。
しかし詩文は冬子の世話をかなり父親に丸投げしてるぽいですが、その分外で働いてるとかなんでしょうか(店の手伝い程度なのが後で発覚)。今日はたまたま英児の所に泊まったからそうなっただけなのか。後者だと思春期の女の子的には母への反発から登校拒否気味になってもおかしくないですね。

・レンジの中の肉まんを見つめながら、その昔圭史からプロポーズされたときのことを思い出す詩文。やや性急な口調で結婚を迫る圭史に対して「どうしようっかなー ?」とのんびり気のあるようなないような返事をする詩文。昔からキャラ一貫してるなあこの人。
こういう恋愛に熱くならない、はぐらかすような態度が男を夢中にさせるんでしょうね。まさに小悪魔。

・圭史のことを思い起こしつつ肉まんを平らげた詩文は、一万円札を取り出し丁寧にしわを伸ばしてからどこかへ出かけていく。さっきと同じ白い傘白い服ですが、ひょっとして圭史の家(実家)にお悔やみに行く(一万円は香典)んでしょうか。
そのわりに服装が非常識な気もしますが、お通夜お葬式の席ではなし、訃報を知ってとり急ぎ駆けつけたということでこれでOKという判断か。お札のしわを伸ばしたあたり一応の配慮はしてるようでもありますし。しかし元妻の場合ってどれくらい包むのが順当なのやら。

・詩文回想中の教会での結婚式。さっきのプロポーズといい、なんだかんだ言っても思い出したくもない相手ではない、それなりに幸せな思い出は多々持ってるわけですね。花嫁姿の詩文、本当に嬉しそうな笑顔ですし。

・えらく大きい&モダンなつくりの豪邸のチャイムを鳴らす詩文。案の定圭史の実家。しかし離婚したとはいえ門前払いに近い対応に、二人が別れた時のごたごたが想像されます。
いきなりインターフォンを切られるのを恐れたか、お悔やみの言葉その他用件など普通は中に通ってから話すようなこともインターフォンでどんどん話す詩文は、自分は赤の他人でも「冬子は圭史さんの娘です。冬子のことでご相談がありまして」と相手のキツい態度も意に介さず続ける。詩文堂は経営危機、圭史はエリート外交官で実家も資産家・・・そうか、遺産目当てで来たのか・・・。

・詩文のことは気に入らない、かつその思惑は察していても孫の名を出されると弱かったか、圭史の母は詩文を中へ入れる。
仏壇に手を合わせた詩文は「お父さんもお亡くなりになってたんですか」と問いかけ、母親は背中を向けたまま「主人は最期まで圭史のことを心配しながら逝きました」と冷たい声で答える。詩文のせいで圭史が不幸になったと言外に責めてますね。
特に圭史はその後16年再婚しなかったというから詩文との結婚でそれだけ傷を負ったと両親が思ってたとしてもおかしくない・・・と思ったら直後に詩文のせいで女性不信になった、「外務省のキャリアは奥さんが良くないとダメなのに」と詩文とのことが出世にまで響いたとストレートに罵り泣き崩れてました。事故死まで詩文のせいにされてるし。実は亡くなった時女連れだった、しかも相手は人妻だったと知ったらこのお母さん驚くでしょうね(実際あとで驚いてた)。

・さんざん詩文を罵った圭史母ですが、お茶をすすって気持ちを落ち着かせると「時間がないわ。冬子のことで相談ってなんですか。手短に話してください」と向こうから切り出してくる。息子の死を深く嘆き詩文を恨んでもいるものの、感情に流されず物事をちゃんと仕切れる冷静さのある人物なのがわかります。
家の大きさや言動からしていわゆる「いい家」なんでしょうから、それを長年切り盛りしてきただけの知性や精神力は備えてるってことですね。

・しかしあまりにストレートに、しかもいつものしれっとした笑顔で、冬子には遺産相続の権利がある、離婚のときに大学卒業までは養育費月10万をもらう取り決めになっているから、今から大学卒業までの4年半分をまとめて先にもらえないかと要求を出してきた詩文に圭史母はまさに空いた口がふさがらないという表情に。
「相続の権利」のところでもう顔色変わってましたから、意外にも詩文がお金の話できたとは思ってなかったらしい。さすがに亡くなった直後にそんな非常識な真似は、とか思ってたのかも。
そして詩文は、圭史は冬子に愛情を感じてなかったなんて話を聞かされても一歩も引かず、ついには「恥を知れ!」とまで罵られても「お願いします」と冷静に頭を下げる。相手にどう思われようが傷つけようがかまわない、家族と自分自身を守るのだという詩文のしたたかな強さがうかがえます。

・総額540万を一度に払ってくれれば二度とここへはこないという詩文に、母親は「帰ってください」とついにお金を振り込む約束はしないまま香典まで文字通りたたき返す。詩文はそれでも負けずにポケットから取り出した紙を「口座番号です」とテーブルの上に置き、床に落ちた香典は拾ってバッグに入れて立ち去る。
香典を拾ったときに一瞬間があり、これも口座番号のメモと一緒に置いてくるかと迷ったものの結局持ち帰ることにした、プライドより目の前の小金を取らざるを得なかった詩文の辛さが浮かびあがってきます。ここでの女二人の勝負は総体としては詩文が一歩リードという感じですが(全額は無理でもいくばくかの金は得られると思われる)、詩文も無傷とはいかなかった。詩文の背中を見送る圭史母も詩文の必死さから原家の内情の苦しさは十二分に感じ取れたことでしょう。

・診察時間中のネリは看護婦から満希子の訪問を知らされ、急用らしいと聞いたにもかかわらず外来の診察が終わるまで待たせておくよう告げる。どうせ大した用でもないと思ってるのがわかります。以前処方した睡眠薬の話だろうと思ってたようだし。
実際、仕事が一段落し駆けつけたネリに、忙しいところごめんなさいでもなく「電話したのに出てくれないから来ちゃったー」と満希子が切り出した用件はバンクーバーの船舶事故で河野圭史が死んだ、美波との不倫疑惑があるというゴシップ話だった。河野圭史の名前さえ覚えてなかったネリにしてみればまさにどうでもいい話。
もしネリに多少利害関係が発生する話であったとしても、ネリのごく近しい身内が死んだんでもなければわざわざ仕事を邪魔してまで伝えることじゃない。しかも満希子の場合単に自分の推理、目のつけどころの鋭さを自慢したいだけだし・・・。どうにも満希子の言動にはいちいち突っ込まずにいられないイライラ感があります。ネリが「あなたみたいに暇じゃないの私は!」とストレートに怒ったのも、ネリがきっぱりした性格だからというだけでなく、満希子のように鈍感な相手にはこれくらいはっきり言わないとわからないからでしょう。
さすがに満希子もふてくされて(自分の態度を反省してではなく怒鳴られたことにすねてるだけ)即退散しましたが、きっとまた何かあれば平気な顔で押しかけてくるんでしょうねえ。

・若い後輩医師・研修医たちと居酒屋?で夕飯を食べるネリ。何か面白い話をしろとごねるネリに見るからに生真面目一方の研修医・福山は当惑というより不快そうな顔。
ネリがこうやって後輩医師たちに食事をおごるのはそう珍しくないようですが、本人は面倒見がいいつもりの行動だとしても、周囲からは独身年増女が立場を利用して若い男をはべらせてるみたいに見られてそうです。

・ネリの面白いこと言ってという要求に対して医師の一人から「灰谷先生ってバージンじゃないですよね」とすごい質問が飛ぶ。まわりも微妙な感じの反応(それって面白い話か?と突っ込まれている)だが「みんないつも言ってる」とその医師が続けるあたり、やはり男っ気のないネリはそれゆえかえって性的な話題の種にされてるらしい。
ネリは「0.5人くらいかなあ」と謎の答えを。数が「一人」に満たないあたり、暗にバージンだと言ってるわけですかね。

・こんな会話の中発言を求められた福山は「くだらないこと話すより食べてるほうが有意義でしょ」「ご不快なら帰りますよ」とにべもない言葉で空気を悪くする。そして本当にさっさと席を立つ。残った医師の一人が、福山は大学始まって以来の秀才だが教授にも平気で生意気な口をきくため嫌われて大学に残れなかったという話をするのをネリはさえぎり、「そんなやつのことどうでもいいから、お願い笑わせて」と胸の前で両手を組むぶりっこポーズ。
ここまでくどいと酔いのせいでも評判落としそうですね。いい年して男に甘えかかる、とか。ネリも酔ってるときは満希子とどっちこっちのうっとうしさかも。

・一人ややふらつく足でマンションへ帰ってきたネリ。いかにも高級マンション、もしくはホテルみたいな感じの部屋と調度で綺麗に片付いてますが(家には寝に帰るようなものだからそんなに散らからないってことでしょう)、なんとなく血の通わない雰囲気というか、ここに一人で住むネリの寂しさを感じさせます。
そして手紙の封を切ったネリは白い紙に大書された「貴女は殺人者」という文字に、小さく叫んで手紙を取り落とす。これは怖い。そこへさらに電話が。出るのをためらうネリですがやがて留守電に吹き込まれた声は満希子のものでほっと安堵。仕事中に訪問した失礼を一応詫びていたので多少は頭が冷えたものか。

・晩酌しながら野球中継を見る夫に、まだ連絡のない美波にもう一度電話をかけるべきかと尋ねた満希子は、向こうは旦那さんだっているんだからこっちで気を揉むことじゃないと言われて案外素直に納得する。
そこへちょうどやってきた息子は満希子の赤に近い鮮やかなピンクのバスローブを見て「げ、なにそのピンク。最低」とキツい言葉を。外国ではピンクは大人の色なのよと満希子は反論しますが、思春期の子供としては親の年甲斐もない格好は見てられない気分になって当然でしょう。夫や息子の反応を見るに普段はこれ着てないようなので、圭史と美波の不倫疑惑に刺激されて、女っぽく装いたくなったんでしょうねえ。

・満希子は妙にはしゃいだ様子で夫と子供たちに、自分にパパ以外に好きな人がいるって言ったらどうする?と聞いて回るがみな全く相手にせず。夫はまだしも子供にまで聞きますかこんなこと。親友と連絡がつかないのを案じるような顔しながら、とことんゴシップ的興味で面白がってるだけなのがあまりにあからさま。美波はともかく圭史は確実に死んでるってのに不謹慎な。
直後に娘のゆかりが弟の明にトイレの便座上げてないと文句言うのを受けて同じく明に説教してる(でも相手にされない)あたり、猥雑な日常から離れたロマンスに憧れるそばから日常にどっぷり漬かりきってるのが表れています。美波のナレーションじゃないですが、本当つまらない女に成長しちゃったものです。

・そのころの原家。冬子が「おじいちゃんボケてる。あたしのことを詩文だって」というのに、詩文も「このくらいで止まってくれたらいいんだけどねえ」と父のボケを否定しない。会話の感じからすれば親子仲は良さそうな感じ。冬子の面倒を父に任せきりみたいな発言から親子仲は冷えてるのかと思ってました。

・一人でカップめん作って食べる詩文に、普通は子供の分も作ってくれるもの、いいけどねうちは普通じゃないからという冬子。普通じゃない=母子家庭と取ったのか詩文は圭史の話を切り出す。
「冬ちゃんにお父さんのこと話したことなかったけど」「亡くなったのよ今朝」。最初は「いいよ別に」と気を遣ってか興味なさげにふるまった冬子もさすがにはっとした顔で振り向く。でも事故死したこと話しても「病気で死ぬよりいいんじゃないの」と淡白な反応を返す。
顔も名も知らない父に本当は興味あるけど母親に遠慮してるのか本当にどうでもいいのか。いかにも現代っ子らしいドライな雰囲気を持っている子だけに微妙なところ。

・関係ないって言ってもあなたの父親だった人だからこの際伝えておきたいこともあると詩文が言い、「捨てた人でも?」「捨てたわけじゃないの、上手くいかなかっただけよ」「ママは好きな人とは絶対に別れない。絶対にその人のこと手放さない」「あたしを犠牲にしたって」といった会話に。冬子は父と別れた後の母の恋愛遍歴を(程度はともかく)ちゃんと知ってるんですね。

・「あなたを犠牲にしてまで欲しいものはないわ」とすこしむきになった詩文は、圭史のエリートぶりを話す。そのDNAを受けついでることは誇りに思っていいというと「ママのDNAも受け継いでるよ。魔性のDNA」。冬子も詩文同様男をもてあそんだりしてるんでしょうか。美人ですしね。
圭史の葬式に出たいなら向こうのお母さんには話しとくといっても、どうせ姑にも嫌われてるんでしょ、頭下げなくていいよとさばさばした態度でそれとなく母を気遣ってもいる。「魔性は魔性同士仲良く生きていけばいいよ」「頼もしい娘だわ」。この二人の会話は母子というより友達同士のようでもある。
西尾家の息子が母の女の部分を見たがらないのと対照的に、詩文を女、性的存在として相対している。満希子のように男に相手にされてるでもないのに一人色気づいてる痛々しさと違い、詩文は本当に男にモテモテなので、ある意味男に騒がれる魅力的な母を自慢に思う気持ちもあるのかも。

・一人リビングで退屈しのぎにか雑誌を取り上げた満希子はバンクーバーを紹介したグラビアに見入る。買い物中偶然圭史と行き逢い彼を熱っぽく見つめる美波。気づいて見つめ返す圭史。カーテンの隙間から外を見つめつつ満希子はそんな妄想にふける。
さらに二人のデートの光景、ホテル?の部屋で抱き合う二人(ベッドシーンの寸前)まで想像して自分の胸を押さえ顔をほころばす。欲求不満の主婦の姿をこうも赤裸々に描き出す脚本の冷徹な冴えに驚きます。
我に返ったようにパジャマ ?のボタンの一番上をとめ、二階へ上がっていった満希子は胸ときめかしつつ寝室に入るが、いぎたなく眠る夫の姿に幻滅という表情で出て行く。こっちからアプローチかけるつもりだったんですかね。しかし行方不明中の親友と死んだばかりの男の情事を妄想して欲情するってのもひどい話です。

・ビル二階のボクシングジムで練習にはげむ英児を路上からガラス越しに見つめる詩文。減量期間が終わるまで会わないと決めてもこうしてこっそり姿だけは眺めにくる。魔性の女と言われますが一つ一つの恋には真剣なのかもしれません。むしろそうだからこそ独特の吸引力を発揮するのかも。

・携帯が鳴り、画面を見ると「恵成女子学校」の表示が。母校の番号なんか登録してるんだ?詩文は同窓会も一切出席しない、母校の現状にも興味ないタイプかと思ってたので意外でした。
これはあとで冬子が詩文の母校に現在通ってることが判明して納得しました。たしかに娘の通ってる学校なら登録必要ですね。

・病院のロビー。かけつけてきた詩文はソファに座る冬子にジャージの上下を着た男性が上着を脱いで冬子の肩に着せ掛けるところを目撃する。
冬子の隣りに松葉杖があったので、おそらく学校の体育ないし部活中に怪我をした、男性は顧問で彼女を病院まで連れてきた、娘の怪我を学校から知らされた詩文は病院へやってきた、という状況なのでしょう。てっきり美波の死についての連絡かと思ってました。

・男性は体育教師の浅野と名乗り、冬子は先生にしごかれて転んだのとすねるような甘えるような口調。二人の会話の様子、浅野が冬子の肩に触る様子に目を留める詩文。ちょっと意味深な雰囲気です。自称「魔性」の冬子だけに。さっきジャージ着せ掛けるシーンでもすでに出来てる感出してましたからね。
これで学校に戻るという浅野に詩文も挨拶。去ってゆく背中を見送る詩文に冬子はいたずらぽく笑って「エロ教師なんだあいつ。マラソンなんてやりたくないから転んでやったの」。悪女全開な言い草です。てっきり冬子の方も気があるかと思いきや浅野の片思いなんでしょうか?
「あの先生は冬ちゃんのこと好きなの?」「男の先生はみんなあたしのこと好きだよ」というのもこれまたすごい自信です。かつての詩文同様そのぶん女子からは嫌われてそうです。

・冬子が渋谷で映画見てから帰るという(男と一緒に行くのを見透かした言い方を詩文はしてましたが、実際デートだったのか?)ので別れたところに、ちょうど患者を運ぶ関係でネリが通りかかる。やはり彼女の病院だったか。
お互いしばし見詰め合ってから「ネリ ?」「原?」。後に英児もこの病院に運ばれてましたから、この近辺じゃ何かあったらまずこの病院なんですね。

・25年ぶりの再会を語りあう二人。今日もう終わりだからご飯でも食べないというネリに人付き合いがよくなったと詩文は驚いてみせる。25年も経てば変わるのよとネリは言うが、確かに後輩医師を引き連れて食事行ったりもしてるし、人付き合いはよさげ。むしろ一人の食事がやりきれないことがあるからこそ人付き合いがよくなったんじゃていですかね。

・荷物取りにロッカーへ向かうネリは満希子から電話が入ってると言われるが、学会でいないと言ってと無視。満希子より詩文優先なのは久しぶりに会った懐かしさからか詩文は満希子のようにうざくないからか。
詩文と会ってなければ変な手紙で怖い思いした後だし、満希子とでも話したかったかもしれませんが。

・ところが病院を出ると満希子がそこに立っている。当然「学会じゃないじゃない!」と怒る満希子に溜息をつくネリ。本当に満希子は暇だよなあ。かくて三人でバール?へ。
詩文も満希子も自分の母校に娘を通わせてると聞いてネリは驚く。しかも二人はクラスメートだそう。優等生で学校にもいい思い出がたくさんありそうな満希子はわかりますが、勝手がわかってるにせよ詩文が母校に娘をやったのは確かに意外。
経済的には圭史から養育費を貰ってるから名門私立でも大丈夫だったんでしょうが、こうやって元同級生の子供と鉢合わせる可能性もあるし当時の先生たちもまだ残ってたりして、詩文の悪評が「あの人の娘なんだって」と冬子にまで及ぶ可能性がある。覗き趣味の満希子なんてまさに母親連中に世間話ついでに詩文の噂をばらまいてそうです。

・じゃあ二人は25年ぶりじゃないんだというネリに「25年ぶりよ。あたし父母会とか行かないから」「ブッキみたいに悠悠自適の奥様じゃないもの。父母会なんていってられないわ」と詩文は答える。父母会ってそんなにお金かかりますかね。終わった後の食事会とか付き合うはめになると確かに懐が痛むでしょうけど。
これはお金の問題以上に母親たちの間で悪評立ってそうなのを警戒してじゃないかという気がします。数少ないお父さんたちが詩文になびいてしまって他の母親陣から敵視されるなんてことも起こりそうだし。

・ちなみに詩文は悠々自適の奥様じゃないと言いつつ、外で働いてるのではなく家の商売手伝ってるだけらしい。零細古本屋を父と二人で管理するより外で働いたほうがお金になると思うんですが。
ボケかけた父親を一人にしとくと危ない(父が店番だと万引きが多いなんて話もあったし)から?それにしては英児がらみなどで店番父親にまかせて家開けてることも多いんだよなあ・・・。

・満希子の娘は生徒会長だそう。子供たちも夫もまじめで上手くいってると何気に家族自慢、というか見栄を張る満希子。しかしブッキってニュースキャスターになりたいって言ってたわね、と過去の話を振られるとそれには触れられたくないのか、詩文の娘も魔性と呼ばれてると話をすりかえてしまう。
それなり裕福ではあってもごく平凡な主婦にすぎない現在の自分は、頭脳・美貌・人望を兼ね備え将来を期待されてた(自分でも期待してた)頃からみれば堕落してることを本人もわかってるからでしょう。

・高校時代の三人の回想。合唱コンクールの練習風景。指揮をする満希子は伴奏のピアノをとちった美波をきつく叱責。居丈高な怒りように呆れた顔のネリと詩文はその隙に練習から脱走する。
練習サボるやつは非国民って雰囲気だったのだとか。優等生の満希子一人がキレてるわけじゃないんですね。たかだかクラス対抗のコンクールなのに。いかにも世間知らずの女の子たちが狭い世界で些少な優劣を争ってるという感じです。
そんな学校内では一番の美人で優等生だった満希子も所詮はお山の大将だった、だからこそ大成しなかったのがこのちょっとしたエピソードによく表れています。

・ネリは「今日ブッキは何しにきたの」と満希子に尋ねるが、詩文は河野のことでしょと鋭い。満希子は最近河野さんと連絡取ってる?バンクーバーには美波が住んでるって知ってた?と例の推理を詩文にも得々と話し、そのうち二人が美波のこと心配しないと怒り出す。はては圭史と美波が高校の時付き合ってたのを詩文が横取りしたせいで二人は死ぬはめになったと言い出す始末。
現時点では美波はちょっと連絡が取れないって程度なんだし、25年会ってない元クラスメートの行方をいちいち心配しなきゃならない理由はない。特にネリなど美波とはほとんど接点がなく「ブッキの子分みたいだった子?」程度にしか覚えていないというのに。
心配してるといいつつゴシップ的興味で美波のことをつつきまわす(ほぼ無関係のネリの仕事まで邪魔しながら)満希子より、無関心に近い態度の詩文やネリのほうがずっと美波に対して失礼ではない気がします。

・「美波は河野のことあたしに相談してきたのよ」と詩文は語る。こういうことはブッキには話せないと言ってたという言葉に満希子はショックを受ける。後の話を見ると結構美波は満希子にも圭史とキスしたとかのろけまくってるんですが、そのつど満希子が潔癖さを剥き出しにした応答をしたために、“ブッキには話せない”となり、いかにも男慣れした詩文を話し相手に選ぶに至ったのでしょう。
しかし圭史のことを自慢したさで詩文と引き合わせたというのはいかにもまずかった。詩文の男に対する異様な吸引力を知らなかったわけないのに。圭史が自分を裏切るなどまさかありえない、彼はそれだけ誠実な人だし私に夢中なんだ、とか無邪気に信じてたんでしょうか。恋は盲目ってことですね。

・「そのうち河野があたしのこと好きになっちゃったの」と、圭史との馴れ初めから二人の仲が美波にバレたきっかけまでを語る詩文。「後はなりゆき」「仕方がないじゃない」という二人の関係が回想の形で具体的に描かれますが、美波に二人で買い物する姿を目撃された場面が“買い忘れたリンスを買いに戻ろうと振り向いたら美波が立っていた”と妙にディテールが細かい。
無言で走り去った美波が満希子の家にゆき「リンス」と言い残して倒れたというオチもふくめ、いかにも生活感の漂う、ここぞとばかりお洒落感を排除した情けない小事件にまとめあげています。
しかし美波が走り去ったとき、思わず後を追おうとした圭史を詩文が腕をつかんで引き止めるシーンがありますが、なりゆき、仕方ないで付き合ってたかのような言葉に反する激しさ。美波を追いかけようとしたことへの嫉妬心が一瞬ほとばしった感があります。プライドゆえか別れた夫にもともとさほどの執着はなかったのごとく振る舞ってますが、本当は詩文なりに強い愛情を持ってたんじゃないのかな。

・友達の彼なんだから拒めばよかった、そうすれば圭史と美波は結婚してただろうし圭史も事故で死なずにすんだ、冬子も父のない子にならずに済んだ、全ては詩文のせいだと満希子は責め立てる。
このくらいストレートかつ言いがかりが過ぎてるとかえって怒る気もしないのか詩文は笑っていたものの、ふられたほうにも魅力がなくなったという重大な責任があるという詩文を満希子が怒鳴ったのを皮切りに、ネリが満希子に怒り満希子は学会なんて嘘つきとネリに水を引っ掛け、あなたがみんなを不幸にしてるのよという満希子に今度は詩文が酒を引っ掛け、ついにはもみあっての喧嘩に発展してしまう。そばの席の人たちはいい迷惑です。
そこまでも満希子が一方的に詩文に突っかかってはいましたが、決定打になったのは「ふられたほうにも魅力がなくなったという重大な責任がある」という一言。これまさに真理だと思いますが、“寝取られる”側の女(実際に寝取られたことはなくても心理的立場的に寝取られる側に肩入れしてしまってる)にとっては痛い言葉。ましてそれを“寝取る”側の女に言われたわけですからね。

・その時ちょうど例の船舶事故の犠牲者として戸倉美波の名がニュースで読み上げられる。思わず争いを止めてテレビに見入る三人。詩文は「負けてなんかいないじゃん、あの人」。
満希子の勝手な想像―二人の不倫関係―が事実を言い当ててたことが結果的に立証されたわけですが、満希子が美波を可哀想がるのと対照的に、詩文は(ネリも)奪われた恋人をその後再び手に入れた美波を勝利者と見る。だからといってすでに圭史と別れてる詩文が負けたことにはなりませんけども。

・ラストに「みんなが苦しむさまをあの世から観賞させていただくわね」という美波によるナレーション。他二人はともかく学生時代からの親友ポジジョンだった満希子も「みんな」に含むわけですか。やはり本心では満希子のこと嫌いだったんですねえ。いろんな意味で無理もないですが。
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