もろき人・・・哀切!
令和3年7月25日(日)
もろき人に
たとへむ花も
夏野哉
儚い人の命にたとえる花もなく、
夏野には、草が茂るばかりだ、
の意。
貞享五年(1688)の作。
幼く世を去った落梧の子への追悼吟。
花なき野の茂りは、その心象に他ならず、
底本には
「似たかほの
あらば出て見ん
一おどり
落梧」 が続く。
◎ 弟子の落梧を訪ねた時、
自分の子が病死した彼は深い哀しみに
浸っていた。
そこで、芭蕉は、何とか弟子を
慰めてあげようと、
どこかに花が咲いていないかと、
辺りを見回した。
しかし、夏草は花一つ咲かせず、
唯くらく単調に生い茂っているだけ
だった。
哀れにも儚い子どもの命を失った
友人を慰めることもできず、
芭蕉は悲しむばかりであった。
ところで、この句、
「花も夏」と「花もない」が
掛け合っている。
明るい夏草もかえって、
人間の無情な有様を色濃くするだけだ。
あゝ悲しい!
明るい夏だから、
なおさら花のいない夏草は暗く見える。
愛しい我が子を亡くした親の哀しみは、
癒やすことは、ほんと難しい!
実兄が一人娘を4歳で亡くしたのを、
半世紀過ぎた今も癒えることはないのを
知っているから・・・。