椿と花水木―万次郎の生涯 (津本陽歴史長篇全集) | |
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『椿と花水木』は、津本陽の長編歴史小説です。主人公はジョン万次郎こと仲
浜万次郎です。最近出たジョン万次郎を描いた児童書を訳してみたいと思って、
今ジョン万次郎関係の本を読み漁っています。これはそのうちでも大変な力作
です。ただこれは伝記ではなく小説なので、史実に基づいた部分がほとんどな
がら、脚色された所もあると考えてよさそうです。特に捕鯨船の船長ホイット
フィールドに連れられて行ったニューイングランドのフェアヘイブンで、万次郎
はキャサリンという娘と出会い結婚したことになっていますが、ほかの資料は
全く彼女に触れていないか、ほんの顔見知りだとするか、せいぜい万次郎が
あこがれていた女性としてチラッと現れるだけです。この本の中ではキャサリ
ンは海で不幸な水死を遂げ、万次郎の妻になれなかったことになっています。
題名の椿は日本を、花水木はアメリカを象徴するものですが、それはまた万次郎
の愛した二人の女性、後の愛妻鉄とキャサリンを表しているのかも知れません。
漁船で遭難し、約五ヶ月鳥島でアホウドリを食べて生き抜き、やがてアメリカに
渡って大変な刻苦勉励の末帰国して、日本の夜明けに貢献した万次郎の不屈
の精神、またその謙虚で愛に満ちた人となりを、今こそ私たち日本人は思い出
さねばならない時なのではと思います。