ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

恋のゆくえ (The Fabulous Baker Boys)

2005年07月10日 | 映画




 「破滅的な生き方」を認めるタイプです、ぼくは。
 でも、それは、単にやりたい放題のムチャクチャな人生を送ることではなくて、安定した生活や平穏な日常よりも、自分の本当にやりたいこと、生き方を貫くことだ、と自分では捉えています。


 この映画は兄フランク(ボー・ブリッジス)と弟ジャック(ジェフ・ブリッジス)の売れないツイン・ピアノ・ユニットと、ボーカリストのスージー(ミシェル・ファイファー)の物語です。
 大向こうを唸らせるような作品ではないかもしれないけれど、ぼくにとっては心にしみいるような、せつなくて甘酸っぱい映画です。



左から ボー・ブリッジス、ミシェル・ファイファー、ジェフ・ブリッジス


 兄フランクは、ミュージシャンという不安定な世界で生きていながら、安定を大切に考えるタイプ。だからたとえつまらない仕事であっても契約した以上はきちんとこなし、温かい家庭を守っていくことに責任感を持っていて、そういう生き方に喜びを見出しています。


 弟のジャックは兄とは対照的です。寡黙でハンサム、抜群の腕前をもつ天才肌のピアニスト。
 女性にはモテるし、淡々と仕事をこなして、一見気ままな独身生活を楽しんでいるように見える。でも本当は同じアパートに住む女の子以外は誰にも心を開かない。実はやりたい音楽があるのだけれど、それを隠して意に沿わない音楽を演奏している。そしてそのギャップに内心苦しんでいます。


 このふたりは仕事が減りつつあることに危機感を抱き、ユニットに歌手を加えることを決意します。
 オーディションの末、選ばれたのがミシェル・ファイファー演じるスージーです。気が強く、強烈な個性を持ってはいますが、内面には寂しさを隠している女性です。


 で、このスージーがとても魅力的!
 悪態のつき方ひとつ見ても頭の回転の速さが伺えます。
 はっきりとした自分の人生観を持っているがゆえに自分の非力さも痛感していて、そのためたくさん傷ついてきている、そんな女性です。
 で、スージーの歌う歌がまたカワイイ。歌を通じて自分の気持ちを打ち明けようとしているような、そんな歌いっぷりです。





 映画の中では「More Than You Know」「Feelings」「Can't Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)」などを歌ってくれてます。エンド・ロールでは「My Funny Valentine」も聴くことができます。一聴の価値はあると思いますよ。


 売れないバンドマンの悲哀が感じられる映画ですが、ジャックの、「本当はジャズに没頭したい、けれど食べていくためには我慢してヒット・ナンバーも弾き続けなければならない」という葛藤が高じて、兄フランクと次第に対立してゆくようになる様子、せつないです。





 そしてジャックとスージーの恋。
 反発を感じながらも実は似たもの同士なんでしょうね。自分の道を歩いて行こうとするスージーを見て自分が惨めに思えるジャックだけど、最後はジャック自身も自分の道を進もうとします。


 ぼくはジャックの自分の人生に対する葛藤に一番惹かれました。
 そして、なによりも、この映画の持つ雰囲気が好きです。ジャズの歴史や音楽性を含めた少し重くて陰影のある、そんな雰囲気を映像で表しているように思えるのです。





 この映画の音楽担当はデイブ・グルーシン。
 劇中では、「Prelude To A Kiss(キスへのプレリュード)」、「10Cents A Dime」、「Moonglow」、「Solitude」、「Makin' Whoopee」など、たくさんのジャズ・ナンバーが楽しめます。
 また劇中で兄弟という設定のジェフ・ブリッジスとボー・ブリッジスは実の兄弟です。
 どうりで息の合った演技を見せてくれるわけです。



恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ/The Fabulous Baker Boys
  ■公開
    1989年 アメリカ映画
  ■配給
    20世紀フォックス
  ■製作総指揮
    シドニー・ポラック
  ■製作
    ポーラ・ワインスタイン
    マーク・ローゼンバーグ
  ■監督・脚本
    スティーヴ・クローブス  
  ■音楽
    デイヴ・グルーシン
  ■出演
    ミシェル・ファイファー(スージー・ダイアモンド)
    ジェフ・ブリッジス(ジャック・ベイカー)
    ボー・ブリッジス(フランク・ベイカー)
    ジェニファー・ティリー(モニカ・モラン)
    エリー・ラーブ(ニーナ)
    デイキン・マシューズ(チャーリー)
    ザンダー・バークレー(ロイド)
    アルバート・ホール(ヘンリー)
    デヴィッド・コバーン(獣医の受付の少年)
  ■上映時間
    113分



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4 コメント

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私もこの映画大好きです (hippocampi)
2006-03-25 12:48:27
2005-07-10 22:29:44



MINAGIさん、TBありがとうございます。映画のストーリーは書かなかったので、リンクして頂いて大変嬉しいです。

ジャズのヴォーカルは美女がセクシーに歌わなくちゃいけない!! …ずっと思っていたので書いちゃいました。ジャズファンから怒りのコメントが来るかとドキドキしておりましたが、MINAGIさんのコメントにとても嬉しくなりました。

音楽をCDから編集する時は必ずM.Fの「Makin' Whoopee」と「My Funny Valentine」を入れています。せっかく映画の為にvoice trainingしたのだから、なぜもっとCDを出してくれないのかなと聴くたびに思います。

ストーリーもなんかせつなくていいですよね。生活のための音楽じゃなくて、純粋に音楽が好きで弾く。現実的なフランクより、真直ぐなジャックが好きです。

ぜひ素敵な映画を沢山紹介してください。またおじゃまします(^o^)/
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はじめまして。 (Mika)
2006-03-25 12:50:04
2005-07-10 22:44:56



トラックバックありがとうございます!Mika(vo)です!私は共演者のピアノの方から勧められてこの映画を見ました。女性の色気の様なもの…私の歌に足りない1つの様な気がして、刺激を受けた映画の一つです。やっぱり音楽をやっている以上、音楽に纏わる映画は、意識して見るようにしています。何かおすすめ映画があったら教えてください!私のブログは一言コメント風ですが、もしよろしかったらまたのぞいて見てください!Mika
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hippocampiさんこんにちは (MINAGI)
2006-03-25 12:51:04
2005-07-11 18:58:14



>ジャズファンから怒りのコメント

 その心配、わかります(笑)

 ぼくはM・ファイファーのようなジャズボーカルも当然あって良い、と思っています。「表現の自由度」の高い音楽ですもんね、ジャズって。



 さすがに俳優だけあって、表現力豊かな歌ですよね。しかも無理のない声なので、聴いてて心地いいな~、と思ってました。



 hippocampiさんのブログって読み応えありますねぇ。こちらこそ遊びに行かせて下さい。以後どうぞよろしくお願いします。
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Mikaさんこんにちは (MINAGI)
2006-03-25 12:52:12
2005-07-11 19:06:39



 そうそう、Mikaさんはボーカルさんなんですよね。

 そういう、音楽に対する貪欲な姿勢、見習いたいと思います。

 

 いろいろ好みもあるとは思いますが、何かを感じ取れるような音楽・映画などありましたら、ぜひぜひ情報交換してください。



 多少読ませて頂いたのですが、これからも遠慮なくMikaさんのブログにも遊びに行かせて頂きますね。どうぞよろしくお願いします

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