ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

Fukushima 50

2020年04月24日 | 映画

【Live Information】


 2011年(平成23年)3月11日午後2時46分、東北地方太平洋沖地震が発生。
 その規模は、日本周辺における観測史上最大のマグニチュード9.0を記録。
 最大震度は、宮城県栗原市で観測された震度7。
 最大40.1mの想像を絶する巨大な津波が発生。
 死者15,899人、行方不明者2,529人(2019年12月10日現在)、建物の損失は全・半壊あわせて404,893戸。
 未曽有の大災害でした。
 あの日からだいぶ時が流れたような気がしていましたが、まだ9年です。
 いまだに約50,000人が避難生活を送っています。


 
 宮城9543名。岩手4675名。福島1614名。
 3番目に犠牲者が多かった福島県には、福島第一原子力発電所がありました。
 津波をかぶってSBOを起こした原発は、炉の冷却機能を失いました。
 炉の冷却ができないということは、原発の爆発の可能性が一挙に大きくなったということにほかなりません。
 この非常事態にあたり、決死の覚悟で福島第一原発に残って施設の崩壊を食い止め、ひいては東北・東日本を救うべく応急処置や復旧作業にあたった名もない英雄たちに対して海外メディアがつけた呼称、それが「Fukushima50」です。





 公開時期もちょうど3月だし、原発に関してのあの事件の一連の流れがいまひとつ呑み込めていないし、予告編ですでに気持ちをつかまれたし、東日本の震災について語られることが(ある意味仕方のないことではありますが)いつの間にか少なくなっているので、あの大災害を思い出すためにもこの映画はぜひ観ておきたい、と思いました。
 鑑賞後の感想は、、、「DVDは絶対買う!」でした。
 なんなら明日にでももう一度観たい、とも思いましたね~


 物語は、東日本大震災全体には触れず、福島第一原発に焦点を当てて進んでゆきます。
 このため福島原発の事故の流れがはっきり把握できました。
 また飛び交っていた専門用語(「メルトダウン(炉心の耐熱性を上回る高熱により炉心が融解、損傷する事態)」「SBO(Station Black Out =全電源喪失」など)も話の流れに即して出てくるため、言葉の意味をすんなり理解することができました。


 事故の処理に直接あたったのは現場。
 その現場の責任者である所長と、指示をくだす政府首脳や東都電力上層部との考え方がまるで噛み合わないんです。
 実情がわかっていない要人たちの的外れな指令に激高しながらも苦慮する所長。
 その所長が信頼を寄せる、現場で奮闘を続けている伊崎。
 そして、事故の最前線にとどまって命がけで事故処理に立ち向かう社員たち。
 彼らの、自らを省みない勇敢な奮闘は、ぼくの目には、まさに「サムライ」そのものに映りました。
 危険きわまりない任務を電話で伊崎に託す吉田所長の、半分泣いて半分ほほえんでいるような、複雑な表情。ありきたりの日常で急な残業を軽く命じている時のような「頼むわ」という言葉の、例えようのない重さ。
 伊崎への信頼、いや伊崎と心中する気でいるのがスクリーンに釘付けのぼくにズシンと伝わってきます。







 劇中では「東都電力」ですが、実際の社名は「東京電力」であるのは言うまでもないところ。
 東電福島第一原発所長の「吉田昌郎」は実名です。
 しかし、佐野史郎がエキセントリックに演じきった総理大臣の劇中での呼称は、「総理」でしかありません。
 その怪演ぶりに、実名あるいは実名を連想させる役名では差しさわりがあるのかもしれません。
 事実、当時の政権と総理大臣の対応ぶりは今でも決して評判が良いとは言えず、この映画でも政府・東電首脳の描き方はとても批判的なものになっています。
 だからどうしても見方に政治的なバイアスがかかりがちなのですが、ぼくはできるだけ事実だけを観たかったです。
 つまり、事故の原因・遠因を追及するのと、その責任を政治的に結びつけて自分の意に添わない側を攻撃するのとは、全く話が別だと思うんですね。







 今や日本のアクターの中でも重鎮といえる渡辺謙と佐藤浩市の両者が、がっぷり四つに組んでいます。その演技は、さすがというか、実に見ごたえがありました。
 また、吉岡秀隆の抑えた演技、円熟ともいえる火野正平、このふたりが良かった。さらに、原発のスタッフ役の平田満、官房長官役の金田明夫や、東電常務役の篠井英介など熟練の個性派たちも、持ち味を発揮してスクリーンを締まったものにしていたと思います。
 特筆しておきたいのが、現場でのまさに「紅一点」、総務班浅野真理役の安田成美。
 この人がいてくれたからこそ殺気立った現場の雰囲気が暴発せずに済んだんだ、と思わせられます。退去命令を下されたにもかかわらず「自分たちもここに残ります」と涙ながらに訴える社員たちに、「あなたたちには復興という役目がある」と、きっぱり、そして優しくさとす安田は、まさに彼らの「母」そのものだったように思います。
 登場シーンは少なかったものの、新聞記者役のダンカンが、「福島は、どうなるんですか・・・」と絞り出すように問いかけた場面にも胸を打たれました。





 忘れられない、いや忘れてはならない事故についての映画だし、その内容にも圧倒されたし、個々の演技も素晴らしかったです。
 ただ、「ノンフィクション」を題材にした作品ではありますが、映画で描かれたところが全てではないこと、視点を変えて見ることも必要だということ、厳しい目で事実のみを追求すること、こういった意識を持つことは大事だと思いました。


 さて、この映画がカテゴライズされるとしたら、たぶん「社会派映画」あるいは「パニック映画」ということになるのでしょう。
 カテゴリー分けなどという作業は「愚かしい」と思う反面、単なる興味本位、または遊び心で考えてみるのは楽しいものです。
 ぼくには、暴走する原発(ひいては国難)に、果敢に立ち向かうサムライたちの闘い、というふうに見えました。
 それも、国家大計のため、などという雲をつかむようなものではなく、「身近な人たち」や「故郷」のために身を挺して闘う、名もなき一般市民であり名もなきサムライである者たちの物語、だと思っています。


 「Fukushima50」とは、災害に見舞われた福島第一原発に留まり、決死の覚悟で事故の対応にあたったおよそ50名のスタッフに対して、海外のメディアが敬意をこめて付けた呼称です。
 彼らについての情報は、東京電力によって一切明かされていないそうです。





◆Fukushima 50
  ■公開
    2020年 日本映画
  ■監督
    若松節朗
  ■脚本
    前川洋一
  ■原作
    門田隆将 『死の淵を見た男 -吉田昌郎と福島第一原発ー』
  ■音楽
    岩代太郎
  ■撮影
    江原祥二
  ■出演
    佐藤浩市(伊崎利夫 福島第一原発 1・2号機当直長)
    渡辺謙(吉田昌郎 福島第一原発 所長)
    吉岡秀隆(前田拓実 福島第一原発 5・6号機当直長)
    緒方直人(野尻庄一 福島第一原発 発電班長)
    火野正平(大森久夫 福島第一原発 管理グループ当直長)
    平田満(平山茂 福島第一原発 第2班当直長)
    萩原聖人(井川和夫 福島第一原発 第2班当直副長)
    安田成美(浅野真理 福島第一原発 緊急対策室総務班員)
    富田靖子(伊崎智子)
    吉岡里帆(伊崎遥香)
    斎藤工(滝沢大)
    佐野史郎(内閣総理大臣) 
    堀部圭亮(加納勝次 福島第一原発 第1班当直副長)
    小倉久寛(矢野浩太 福島第一原発 第3班当直長)
    和田正人(本田彬 福島第一原発 第1班当直主任)
    石井正則(工藤康明 福島第一原発 管理部当直長)
    皆川猿時(樋口伸行 福島第一原発 保全部部長)
    金山一彦(五十嵐則一 福島第一原発 復旧班電源チーム)
    田口トモロヲ(福原和彦 福島第一原発 ユニット所長)
    前川泰之(辺見秀雄 陸上自衛隊陸曹長)
    ダニエル・カール(ジョニー 在日米軍将校)
    金田明夫(内閣官房長官)
    伊藤正之(首相補佐官)
    阿南健治(経済産業大臣)
    小市慢太郎(原子力安全委員会委員長)
    矢島健一(原子力安全保安院 院長)
    篠井英介(東都電力常務)
    段田安則(東都電力フェロー)
    ダンカン(福島民友新聞記者)
    中村ゆり(前田かな)
    泉谷しげる(松永)
    津嘉山正種(伊崎敬造)
                ほか
  ■上映時間
    122分






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