7月18日付 読売新聞編集手帳
1868年、
熾烈(しれつ)を極めた戊辰戦争の会津・鶴ヶ城攻防戦で、
24歳の女性がいた。
戦死した弟の服を身に着け、
髪を切り、
自ら銃を取って砲煙の中を駆け抜けた。
<幕末のジャンヌ・ダルク>は、
維新後、同志社大を創設した新島襄の妻となる。
2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」の主人公、
新島八重である。
地元の会津若松市は、
これまでも数多くの歴史物の舞台になってきた。
だが、今回の「大河効果」に寄せる期待はかつてなく大きい。
震災と原発事故で自慢の観光業が壊滅状態だからだ。
福島原発から100キロ離れていても「放射能が怖い」と観光客の足は遠のく。
春の修学旅行客は昨年より9割も減った。
市内の温泉宿は原発周辺から避難した大勢の被災者を受け入れ、
通常営業どころではないという。
鹿児島県や山口県が観光支援に乗り出したというのがいい。
かつての宿敵、薩摩・長州も会津の窮状を見かねてということだろう。
どんな苦境でもくじけない。
あきらめない。
そして未来を信じる。
激動の時代を生き抜いた八重の生涯にこそ
<会津復活>へのヒントが隠されているかもしれない。