7月6日付 読売新聞編集手帳
「粗にして野だが卑ではない」
は第5代の国鉄総裁、石田礼助氏の言葉である。
総裁に就任して初めて国会に出たとき、
自己紹介で語った。
のちに城山三郎さんが、
石田氏の生涯を描いた評伝の表題にそのまま用いている。
「粗」はあらく、こまやかでないこと、
「野」は単純で洗練されていないこと、
「卑」は言うまでもない。
小欄流のおおざっぱな解釈をするならば、
「粗」と「野」は品行の問題であり、
「卑」は品性の問題になろう。
主人が奉公人をいびるように、
あるいは古参兵が新兵をいじめるように、
被災県の知事に向けて連発したその人の放言には「卑」の臭気が充満していて、
映像を見るたびに胸が悪くなる。
相手が誰でも、こういう言葉遣いをする大人になってはいけませんよ…
という教訓を世の子供たちに残し、
本龍復興相が就任から9日目で引責辞任した。
菅政権はどこまで堕(お)ちていくのだろう。
お粗末な人選という「粗」と、
延命の野心という「野」はすでに持ち合わせている首相である。
例によって、任命責任には頬かむりを決め込むつもりだろうか。
粗にして野にして「卑」でもある。