6月23日付 読売新聞編集手帳
拾遺和歌集に夏の短夜(みじかよ)を詠んだ歌がある。
〈夏の夜は浦島の子が箱なれやはかなくあけて悔しかるらむ〉。
夜が「明ける」と、
玉手箱を「開ける」を掛けている。
浦島太郎も、
逢いびきの恋人たちも、
はかなくあけて悔しかろう、と。
一年で夜が最も短い夏至のきのう、
日本列島は明けてびっくりの暑さに見舞われた。
真夏の神様が日差しの“試供品”を置いていったかのように、
早くも猛暑日を記録したところもある。
〈季節は
巡り来るたびに取り出される
一枚の衣装で
過ぎれば
薄く薄く折りたたまれる〉。
石垣りんさんの詩『春』の一節だが、
梅雨が折りたたまれるのも今年は早いのか、どうか。
節電の夏だけに、気になるところである。
被災地の人々を思えば、
これしきで弱音は吐けないと、
夏本番に備えた練習のつもりで黙々と仕事に励んだ方もあったろう。
「暑い、暑い」は商人の「忙しい、忙しい」と一緒で、
嘆きながらも活気がある。
〈稽古して走る風なし稽古して咲く花あらぬうれへず生きむ〉(伊藤一彦)。
季節を迎えるのにも稽古は要らない。
「暑いぞッ」と大いにボヤく夏もよろしい。