7月19日付 読売新聞編集手帳
缶コーヒーのCMで宇宙人が内心つぶやいていたのを思い出す。
「この惑星の住人は上を向くだけで元気になれる」と。
明察ではあるが、
上を向くのもそう簡単ではない。
気がつくと、
うつむいて手を見つめていたり、
靴の爪先をにらんでいたり、
心の沈みがちな時はそういうものだろう。
被災者の品格ある振る舞い、
国内外から届いた激励、
詩『雨ニモマケズ』、
唱歌『故郷』…
震災以降、日本人の目を上に向かせてくれたものは幾つもある。
スポーツもそうだろう。
頂点をめざす競技者は「上を向く」ことを習性として身につけた人々である。
サッカーの女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会で日本代表「なでしこジャパン」が
初優勝の快挙を成し遂げた。
準々決勝の直前には全員で被災地のビデオ映像を見たという。
被災者の懸命に生きる姿が選手たちに上を向かせ、
選手の躍動が被災者に上を向かせる。
きれいに通った心のパスに酔いしれている。
目も心も、
きのうは上に向けた人が多かろう。
米国との決勝戦でなでしこがPK戦を制した朝、
物の輪郭がいくらか滲(にじ)んで見える目で仰いだ夏空を忘れまい。