8月3日 おはよう日本
自動車大国を象徴する片側6車線の幹線道路。
朝夕のラッシュ時には大渋滞となるがスムーズに流れているレーンがある。
そこに示されているひし形のマークは“ダイヤモンドレーン”とも呼ばれ
2人以上乗った車か
エコカーしか走ることが許されない優先レーンである。
かつてはトヨタのハイブリッド車プリウスなどが堂々と走れたが
2011年からは対象から外されてしまった。
環境規制が厳しくなったためである。
ロサンゼルス郊外に住むジェームス・デルクさんは慢性的な渋滞に悩まされてきた。
(ジェームス・デルクさん)
「優先レーンに乗れないので
長距離を走るときはストレスを感じる。」
デルクさんの車はガソリン車なのでエコカーの対象にはならない。
そんなデルクさんがくぎ付けになって見ているのは電気自動車メーカー テスラの新型車のイベント。
1回の充電で約350キロ走行でき自動運転も可能。
それでいて価格は日本円で約390万円と従来のモデルの半額程度に抑えれている。
渋滞から逃れたいデルクさん。
この価格で優先レーンを走れるならと
1年以上前に予約した。
(ジェームス・デルクさん)
「気が早いけど興奮しちゃって。」
納車時期は全く未定だが
早くもガレージに充電設備を取りつけた。
(ジェームス・デルクさん)
「時代の最先端を走ることは気持ちがいい。
テスラに乗ることで自動車革命の担い手になれる。」
テスラが本社を置くカリフォルニア州は
ZEV規制(Zero Emission Vehicle 排出ガスゼロの車)と呼ばれる厳しい環境規制を独自に設けている。
メーカーは販売する車の一定割合をエコカーにする義務を負う。
今年秋以降に販売される車は
対象が電気自動車と燃料電池車
そしてプラグインハイブリッド車にせばまり
条件を満たさないメーカーには罰金が科せられる。
カリフォルニア州の環境規制はその後全米に適用される事例が多いため
各メーカーとも本腰を入れて対応にあたっている。
各社は
走行距離を伸ばしたり
デザインを一新したり
価格を抑えるなどモデル電気自動車の開発に注力している。
自動車大国のアメリカ。
原油安もあっていまだガソリン車が圧倒的なのが現状だが
本格的な電気自動車時代の到来を見据えた競争はすでに激しくなっている。
8月1日 キャッチ!
ソーシャルメディアを駆使し“ツイッター大統領”と呼ばれることもあるトランプ大統領。
ツイッターのフォロワーは3,400万人以上。
トランプ大統領が投稿するたび
その投稿を引用して発信するリツイートや投稿に賛同する“いいね”はまたたく間に膨れ上がり
影響力の大きさがうかがえる。
しかしこれら大統領の発信に反応する投稿を注意深く見ていくと
まるで機械のような動きを見せるアカウントが浮かび上がってくる。
アカウントAは
アカウント作成してから2年間で投稿が8万回以上。
1日100回以上投稿している計算になる。
投稿が65万回を超えるアカウントBは
トランプ大統領をはじめ保守系メディアの投稿にも内容にかかわらず機械的に反応している。
これらのアカウントは
特定の投稿者の投稿にロボットのように反応してリツイートや“いいね”をするようにプログラムされた
通称“BOT(ROBOT)”である可能性がある。
ボットの主な特徴は
プロフィールは一見実在するユーザーに見えるが
アカウント名は機械がランダムに選んだかのような数字とアルファベットの羅列。
実はプログラミングでロボット化されたアカウントである。
ボットは一般のユーザーに向け同じテーマを数分間隔で投稿。
24時間これを繰り返し続ける。
3億を超えるツイッターのアカウントのうち最大で15%にあたる約5,000万がボットとみられるという
アメリカの大学の調査結果もあり
存在が無視できなくなってきている。
そしてこのボットの影響力が危険視されるのが
偽の流行を生み出すときである。
7月にトランプ大統領が動画を投稿したあと
ツイッターでCNNを批判する投稿が急増した。
これらの投稿には“CNNBlackmail”というキーワードが付けられていた。
これはハッシュタグと言われるもので
ツイッターのユーザー同士が投稿を共有する際に目印として使う。
投稿の中には“CNNはISだ!”などと根拠なく批判するものもあり
その多くはボットによって無数に発信されたと見ている。
NHKの分析では
投稿が始まって3日間で
#CNNBlackmailが付いた投稿が120万件まで急増していたことが判明した。
ツイッターでは同じハッシュタグが付いた投稿が繰り返されると
流行を意味する「トレンド」であるとみなされやすくなる。
今回は何物かがボットで投稿を拡散し
CNNへの批判があたかも一般的に高まっているかのような
偽のトレンドを作り上げる狙いがあったとみられる。
ボットの使用について専門家からは対応を求める声があがり始めている。
オックスフォード大学の研究グループは
去年のアメリカ大統領選挙について
180万にのぼるツイッターのアカウントの分析やユーザーへの聞き取り調査を行った。
その結果
政治団体だけでなく個人までもがボットを用いて
不正が行われているという陰謀論から候補者への誹謗中傷を拡散していたと指摘する。
(オックスフォード大学 サミュエル・ウーリー研究部長)
「私たちはフェイスブックやツイッター、インスタグラムから情報を得ていますが
有害情報やデマが充満する現状を変えなければなりません。」
一方
ボットの利用は市民の権利だと主張する人たちもいる。
ITエンジニアのマーク・プレイシックさん。
プレイシックさんはボットを使ったサービスを無料で提供。
ツイッターのユーザーが“中絶反対”など保守的な主張を訴える投稿を
1日100件まで自動で発信するのを代行している。
現在このサービスの利用者はわずか470人である。
しかしそれぞれのユーザーが
たとえば“中絶反対”に関して一斉に投稿すると
それを目にする可能性のあるユーザーは数百万人以上に膨らみ
ネット上に自分たちの主張を広げることができると言う。
大手メディアは市民の声に耳を傾けることはない。
これが自分たちの声を拡大する最適な手法だと考えている。
(ITエンジニア マーク・プレイシックさん)
「批判する人も多いでしょうが
憲法にある政治参加の権利を行使したいだけです。
ツイッターは私たちの主義や主張を社会に示す手段を与えてくれたのです。」
7月29日 経済フロントライン
大阪中央卸売市場。
朝8時に一番乗りで仕事場にやってきた武藤北斗さん。
武藤さんは天然のエビをムキエビやエビフライに加工・販売する会社の工場長である。
この日は9時に3人のパート従業員が出勤してきた。
しかしあと何人来るのか武藤さんにはまったく分からないという。
(パパニューギニア海産 武藤北斗さん)
「今日なんか少ないと思ったら
昨日今日と学校の終業式みたいで
それで休んでいる人が多いみたい。
たぶん今日は増えなんじゃないかな。
と言いながら分からない。
僕らの予想は当たらない。」
じつはこれは「フリースケジュール」と呼んでいる働き方。
パートの従業員は15人いるが
いつ働くか
何時間働くかは
すべて従業員が決めている。
どんな仕事をするかは出勤した人数に合わせて武藤さんが支持する。
人数が少ないこの日は手間のかからないムキエビの加工をすることにした。
冷凍して出荷するために手間のかかるものは人数が多いときに作って保存し
取引先の注文に柔軟に対応している。
武藤さんは以前は宮城県石巻市で同じ仕事をしていたが
東日本大震災で被災。
大阪に拠点を移した。
しかし採用した従業員が短期間で辞めることが多く
悩んでいたときに思い付いたのが「フリースケジュール」だった。
従業員を定着させるため
“働き方は会社ではなく本人が決める”と発想を転換したのである。
「工場としては成り立たないよと多くの人に言われました。
僕の中では会社の都合よりも大切なのはみんなが自主性を出す働き方。
働きやすい会社になることが一番重要だと。」
変えたのは働く時間だけではない。
「うちでは“好き嫌い表”と言っている。
好きなものを優先してやっていって
嫌いなことはやらないルール作りをしている。」
パン粉つけや掃除など約30種類ある作業について好きか嫌いか聞き取り
好きな仕事で力を発揮してもらおうというのである。
全員が嫌いという仕事は公平に分担する。
(従業員)
「嫌いな作業をやらなくていい分
他の仕事を一生懸命やりたいと思う。」
その結果辞める人が減り
従業員のスキル
さらにチームワークも向上。
生産性が上がり
売り上げが5%増えた月もあった。
(パプアニューギニア海産 武藤北斗さん)
「自分たちが心地良く働くためにはどうしたらいいか
考えるのを続ける。
大切というかやっていくべきかなと思う。」
7月29日 経済フロントライン
広島県にある精米機メーカー。
従業員約1,000人。
国内トップシェアを誇り海外にも展開している。
7月9日から週休3日制を5週間限定で試験的に導入している。
土日と祝日に加えて
週休3日になるように平日の休みを3日間増やした。
経営企画室の平井大介さん。
2泊3日で旅行に出かけ家族全員でゆっくり過ごすことができた。
休みを事前に取引先にも伝えていたので仕事への支障もなかったと言う。
(平井大介さん)
「なんとか週休3日でやっても
いけると感じています。」
(サタケ 取締役人事部長 木谷博郁さん)
「従業員の社員も満足するし
これからサタケを目指してどんどん新しい人も入ってくる。
活性化して会社が発展していく。」
この取り組みは一朝一夕に実現したわけではない。
3年前から仕事の効率を上げる工夫をしてきた。
設計を行う部署では
毎日午後1時10分からの2時間余りを設計に集中する“集中時間”とした。
かかってくる電話に対応するのは管理職。
エンジニアは自分の仕事に専念できる。
(社員)
「集中して出来るのでいいと思う。」
「電話を撮ると考えていることが途中抜けちゃったりするので
集中してやるとはかどる。
残業時間も当然減っています。」
さらに本来は営業部が担当している機械のメンテナンスを経理や人事担当の社員でもできるようにした。
繁忙期でも特定の社員に仕事が偏らないようにしたのである。
一連の取り組みで残業時間は月平均で約7時間にまで減らすことに成功。
業務の効率化も進み
週休3日制を導入する準備が出来たと言う。
(サタケ 取締役人事部長 木谷博郁sん)
「最初からボーンとやるのではなくまず1歩踏み出すと。
状況を見ながらさらにもう1歩という形で
無理をせずに少しずつ良くしていこうと。」
一方
十分な準備をせずに週休3日制を導入したことで当初は混乱が生じたという企業もある。
アパレル業界に販売員などを派遣する会社。
1年で全社員の40%以上が辞めた年もあるなど高い離職率が悩みだった。
そこで社員が定着するようにと3年前に週休3日制を導入したが
意外にも不評だった。
当時週休3日制に疑問を持った小此木藍さん。
休みが増えたぶん取引先に迷惑をかけることが精神的な負担になったという。
(セールススタッフ 小此木藍さん)
「クライアントのスケジュールによって自分もスケジュールが変わっていく仕事。
それが私の都合だけで断ってしまったり
業務が滞って迷惑をかけることが多かった。」
「さらに社員にアンケートをとると
他の社員に負担がかかるのが問題だ」という声が相次いだ。
(広報室 松葉谷維子さん)
「様々なところにしわ寄せがいってしまって
正直無理じゃないかと率直なみんなの感想だった。」
どうすれば周りに負担をかけずに週3日休むことができるのか。
曽於で考えられたのが“ゆるやかな”週休3日制である。
当初週休3日に疑問を持っていた小此木さん。
この日金曜日は“ゆるやかな”週休3日制を利用し子どもたちと過ごすことにした。
この日は急ぎの電話にさえ対応すればどこで何をしていても自由。
出勤扱いとなり給料も減らない。
本人が必要と感じれば出勤し
周りへの負担も減らすこともできる。
この“ゆるやかな”週休3日制は社員から使い勝手がいいと好評である。
(シーエーセールスタッフ 小此木藍さん)
「気楽な感じで使っている。
給料が減らなく自由な時間をもらえる制度はすごく助かります。」
この制度を導入して
かつては40%を超えていた離職率は半分以下なった。
(広報室 松葉谷維子さん)
「それぞれの働き方にあった導入の仕方を検討することで
取り入れやすくなるのでは。」
8月17日 編集手帳
ステファン坊やの投げたボールが、
お隣ランガー家の窓ガラスを割った。
坊やは泣いて父親に訴えた。
「パパ、
ランガーさんが窓ガラスで僕のボールを壊しちゃったよ」。
西洋の小話である。
父親は何と答えるだろう。
窓は割れたが、
なるほど、
お前のボールもガラスの破片で傷ついたね。
ボールと窓ガラス、
非は双方にある…とは、
まさか言うまい。言えば、
父親失格である。
博愛と平等の心が一枚の美しいガラスならば、
差別と偏見はそれを粉々に砕くボールだろう。
米国南部で白人至上主義者の団体と反対派が衝突した。
反対派の側に死者も出ている。
「非は双方にある」。
トランプ大統領は記者会見でそう述べたという。
寺山修司の戯曲『乾いた湖』の一場面を思い出す。
登場人物はラングストン・ヒューズの詩を朗読した。
今年が没後50年にあたるアフリカ系米国人の作家である。
〈ぼくを重んじよ
おなじように降(ふ)ってきたのだ
おなじように
降ってきたのだ〉
あなたも、
天から地上の米国へ、
おなじように降ってきた3億2000万人の1人にすぎぬ。
窓ガラスを割って謝らない子供を叱(しか)りなさい。
7月27日 キャッチ!
ブラジル北東部セアラ州のドクター・ジョゼ・フロッタ公立病院で
画期的なやけど治療が行われている。
まだ臨床試験の段階だが
治療効果の高さにブラジルの研究者らから熱い注目を集めている。
その治療とは魚の皮を使った治療法なのである。
「痛みもなく安価です。」
やけど治療に使われていたのは「ティラピア」と呼ばれる淡水魚の皮である。
ティラピアの切り身は臭みがないうえに肉質も良く
近年ブラジルでも食用として急速に需要が高まっている。
また成長も早いとされ
ブラジル北東部では養殖が盛んに行われている。
良質なたんぱく質として消費されてきたティラピアだが
今度は医療用として捨てられてきた皮が有効利用されようとしている。
ていねいに剥がされた皮は
汚れを洗い流して氷の入った容器に入れられ研究室に運ばれていく。
ティラピアの皮をやけど治療に使おうというこの研究プロジェクト。
きっかけは外科医のマルセロ・ボルジェスさんが6年前に読んだある記事だった。
(外科医 マルセロ・ボルジェスさん)
「2011年のある記事で
魚の皮は繊細で丈夫だと知り
やけど治療に使うことを思いついたのです。」
そしてボルジェスさんの研究を後押しするのが同じく外科医のエジマ―ル・マシエルさん。
いままで数多くのやけど治療を行ってきたマシエルさんは
このプロジェクトの有用性に共感し
資金集めに奔走した。
(外科医 エジマ―ル・マシエルさん)
「患者の多くは貧困層で保険も未加入。
貧しい人のために役立つことを願います。」
2人の医師が進めるプロジェクトの特徴は
もともと捨てられていた魚の皮を使うために材料費が安いこと。
そしてティラピアの皮には
人が自然治癒力を発揮すするために助けとなる成分が豊富なことに着目したのである。
その成分とはティラピアの皮に含まれる上質のコラーゲンである。
コラーゲンが持つ保湿力がやけどの治療に効果的だとされている。
魚の皮のコラーゲンがどのようにやけど治療に役立つのか。
やけどを負って損傷した患部
そこに魚の皮でふたをすると皮膚の奥から組織を修復させる成分が染み出てくる。
潤いがあるために成分が活動しやすい環境となる。
こうした成分が患部の修復や細菌の除去などを行い皮膚の再生を促す。
この治療法は「湿潤(うるおい)療法」と呼ばれ
ダメージの比較的浅い患部の治療に有効だとされている。
これまでのやけど治療では患部を消毒しガーゼで保護してきた。
これに代わる治療法としてこの「湿潤(うるおい)療法」が注目されている。
患部に直接あてる皮は医療用の殺菌薬などに繰り返し浸して処理する。
マシエル医師によると
これまで100人以上がこの臨床試験に協力。
患者全員に一定の効果があったとしている。
臨床試験に協力したジョスエ・ベセハジュニアさん(35)もその効果を実感する1人である。
(ジョスエ・ベセハジュニアさん)
「包帯を撮るときも魚の皮が貼ってあるので皮膚にくっつきません。
いつの間にか新しい皮膚が再生しました。
神様とティラピアのおかげです。」
プロジェクトはまだ試験中だが
患者からは
痛みが減ったり回復までの期間が短縮されたりと好意的な意見が寄せられている。
そしてなにより材料費が抑えられる可能性があり
現地では実用化への期待が高まっている。
(外科医 マルセロ・ボルジェスさん)
「これまで100人以上の患者で成功して
誇りと感動にあふれています。
これを世界中に広めていけたらと思います。」
7月27日 おはよう日本
なかなか解決策が見いだせない格差や貧困の問題。
生活保護を受けている人が全国で最も多い大阪市では
年間約3,000億円を生活保護費に使っている。
生活保護の人に様々な就労支援をしているが
仕事を得て自立した人の割合はわずか4%。
政策の評価がなかなか上がっていないという。
(大阪市保護課 難波勉課長)
「なかなか就労に結びつかないのが現状。」
格差や貧困は世界共通の課題である。
どうすれば解決の糸口を見つけることができるのか。
そこで注目されているのがベーシックインカム Basic Income(基本所得)。
全ての人に
無条件で
毎月一定額を支給するという
社会保障政策である。
ポイントは“無条件”。
生活保護費や失業保険を受給するためには仕事や所得の有無を問われるが
ベーシックインカムは何の制限もなく
ただ自動的にお金が振り込まれる。
正式に導入している国はまだ無い。
充実した福祉政策で知られるフィンランド。
フィンランドの失業率は8,8%。
地元の協会が行っている無料の食料配布には失業者を中心に1,000人以上が集まっていた。
(失業者)
「経済状況は最悪です。
ここでなんとか食いつないでいます。」
こうしたなか今年1月からフィンランド政府は
全国の失業者から無作為に2,000人選び出し
毎月約7万円を支給するベーシックインカムを始めた。
実験が始まって7か月。
この制度によって生活を立て直すことができたという女性。
11歳の息子を育てるシングルマザーのマリ・サーレンバーさん(30)。
去年10月に勤めていたスーパーマーケットを解雇された。
頼りになるのは月8万円の失業手当だけだった。
(マリ・サーレンバーさん)
{毎日不安でした。
子どもの教育費や電気代などの生活費を払うことで精一杯でした。」
解雇されて2か月後
サーレンバーさんのもとに政府から手紙が届いた。
ベーシックインカムの対象者に選ばれたという知らせだった。
現在サーレンバーさんは印刷所とスーパーの2つの仕事をかけもちして働いている。
ベーシックインカムによって仕事を再開し
生活は大きく変わったのである。
失業したあとサーレンバーさんは国から月8万円の失業手当をもらって生活していた。
ただし収入が4万円を超えると減額される。
仮に今と同じように仕事をすると手当はほとんどなくなる。
一方ベーシックインカムの支給額は7万円。
働いても減額されることはない。
そのため7万円を安定した生活誌として使い
次々と仕事をすることにした。
その結果収入は合計で22万円になった。
ベーシックインカムによってサーレンバーさんは働くことに前向きになり
経済的な余裕が生まれたのである。
(マリ・サーレンバーさん)
「とても前向きな気持ちで仕事ができます。
ずっと抱えていた経済的な不安もなくなって安心しています。
将来はフルタイムで働いて自分の給料で生活を支えられることを望んでいます。」
なぜフィンランドはベーシックインカムの社会実験を行うことにしたのか。
(社会保険庁 ベーシックインカム責任者 オッリ・カンガスさん)
「われわれが歴史の中で形作ってきた社会保障制度が未来に絮って通用するのか。
疑問が投げかけられているのです。
この制度で人々が働くことに目覚め
生活を大きく改善させる可能性があるのです。」
ベーシックインカムをきっかけに新たな挑戦を始めた人もいる。
ユハ・ヤルヴィネンさん(38)。
6月に自ら手掛けた工芸品を生産する会社を設立した。
木彫りの楽器をフィンランドだけでなくノルウェーまで売りに行く。
(ヤルヴィネンさん)
「1点4万円から13万円で売っています。
先日はアメリカのコレクターからも注文が入りましたよ。」
ヤルヴィネンさんは戸建て住宅の窓枠を作る会社を経営していたが
2年前倒産。
ふたたび事業を立ち上げる機会をうかがっていたが
起業すると失業手当が打ち切られてしまうため踏み切れなかった。
今年1月失業手当に代わってベーシックインカムが支給されたヤルヴィネンさん。
生活費を確保できるようになり
思い切って起業したのである。
(ヤルヴィネンさん)
「ベーシックインカムによって私は人間性を取り戻すことができました。
今の私は目先の生活に差輸されず
将来の可能性を信じることができます。」
今回行われているベーシックインカムの社会実験。
その意義について専門家は
(ベーシックインカムを提唱する歴史家 ルトガー・ブレグマン氏)
「これまでの社会実験では現金をもらえるからと言って
働かなくなる人など1人もいませんでした。
ベーシックインカムは新たな挑戦・企業・引っ越しのチャンスを全ての人に与えるものなのです。」
7月26日 キャッチ!
G20サミットで地球温暖化対策を主要な議題とした議長国ドイツのメルケル首相。
しかし
(ドイツ メルケル首相)
「残念ながら合意には至らなかったが
それを隠さず共同宣言に明記した。」
パリ協定から脱退したアメリカの立場を変えることはできず
メルケル首相はアメリカ抜きで地球温暖化対策を進めていくことを表明した。
国際協調の場で際立つアメリカの孤立感。
ドイツではトランプ政権の方針に反発が広がっている。
ドイツ西部の8,000人が暮らす町 ザーベック。
環境対策を積極的に推進する自治体として知られ
2030年までに温室効果ガスの排出を事実上ゼロにする野心的な目標を掲げている。
町のエネルギーパークには風車や太陽光といった再生可能エネルギーの発電施設が集まっている。
町の約400世帯が出資する風力発電に加え太陽光パネルも導入し
町全体で必要とされる電力の3倍以上を発電している。
余った電力を近くの自治体に売ることで
多い年には年間80万ユーロ(約1億円)以上の利益をあげている。
環境対策は新たな雇用も生み出している。
この町にある風力発電の風車などに使われるガラス繊維や炭素繊維を作る企業。
世界各地への輸出も好調で業績は右肩上がりである。
工場で働く従業員もこの2年で120人増加。
さらなる雇用の拡大も計画している。
温暖化対策に力を入れてきた町長のロースさん。
“温暖化対策は利益を生まない”というトランプ大統領の主張は間違いで
国際社会はアメリカ抜きでも温暖化対策を進めるべきだと考えている。
(ザーベック ロース町長)
「再生可能エネルギーから利益が出るのは
町の経験から証明されています。
トランプ米大統領がずっと続くわけではないですから。」
国民の間ではトランプ政権に対する不信感も広がっている。
6月行われた世論調査では
アメリカが信頼できるパートナーだと答えた人は21%にとどまり
去年11月の3分の1に減少。
ウクライナ情勢をめぐって対立するロシアへの信頼と同じ水準である。
メルケル首相はこうした国民感情を考慮してか
名指しは避けながらもトランプ大統領への批判を強めている。
(ドイツ メルケル首相)
「世界の問題を
孤立主義や保護主義で解決できると信じるのは大きな過ちだ。」
アメリカとの関係がぎくしゃくする一方
メルケル首相が強調しているのがヨーロッパの結束である。
イギリスがEUヨーロッパ連合からの離脱に向けた交渉を進めるるなか
とりわけフランスのマクロン大統領との協力関係を重視している。
(ドイツ メルケル首相)
「フランスにマクロン政権が誕生したので
独仏関係をさらに活性化させていく。」
(フランス マクロン大統領)
「メルケル首相とともに
ヨーロッパの利益を守っていく。」
9月24日に連邦議会選挙を控えるメルケル首相。
ドイツ国民の間では首相の実績と安定感に期待する声が強まっており
反トランプ感情も相まって4期目への追い風となっている。
7月25日 おはよう日本
東京オリンピックで新たに実施されるスケートボード。
技の難しさなどが評価される採点競技で
ストリートとパークと2種目がある。
パークはお椀の形をした斜面など複雑に組み合わせたコースを使う。
このパークで注目されているのが中村貴咲(なかむらきさ)選手(17)。
オリンピックのメダル候補にも挙げられている。
得意なのはコースのふちで1回転半まわる技。
女子でできるのは世界で数人しかいない。
ダイナミックで多彩な技が持ち味である。
(中村貴咲選手)
「自分の好きなように自分のスタイルでできることがスケートボードの魅力。」
中村選手は6歳のときサーフィンをしていた父親の勧めでスケートボードを始めた。
2年ほどで大人の大会でも優勝するほどに上達した。
去年6月にはスケートボードの本場アメリカで開かれた世界最高峰の大会Xgamesに初めて出場。
アジアの選手で初めての優勝という快挙を成し遂げ注目を集めた。
中村選手はオリンピックを視野に新たな技の習得に挑んでいる。
コースのふちで前方を浮かせていったん止まったあと一気に回転して滑り降りる技。
静止や回転の際に体のバランスをとることが難しく
成功すれば高得点が期待できる。
中村選手は回転するときに上半身の左右のバランスが崩れ
なかなか成功させることできない。
独学で技を磨いてきた中村選手だが
今年から心強い師匠ができた。
自宅近くで整骨院を開く前田純平さんである。
スケートボードの選手でもあり体のケアに加えて練習のアドバイスももらっている。
この日はあらたな技の習得に向けたトレーニング方法を教えてもらった。
両腕に板をのせて行うスクワット。
上半身の左右のバランスを整える効果があるという。
中村選手はこうしたトレーニングで体のキレが増し
技の完成度が高まってきたと感じている。
世界で活躍する17歳。
3年後を見据えている。
(中村貴咲選手)
「順調に海外の大会で成績を残していけば五輪の代表選手もついてくると思うので
袖頑張って五輪でもメダルをとれるように頑張りたい。」
7月25日 おはよう日本
職場に行かずに自宅などで仕事をするテレワーク。
働き方改革や交通混雑の緩和につながると期待され
導入する企業が増えているが
一方で廃止する企業もあり
課題が見えてきた。
スマートフォン向けのアプリを開発しているITベンチャー。
社員の姿はまばら。
大半はテレワークで出勤しない。
テレワークの「回数の制限」や「上司への申請手続き」も無いという。
(ITベンチャー ジュビリーワークス 深川泰斗代表)
「朝のチャットで“きょうはテレワークします”と報告。
仕事したいけど会社に行くのが大変だという時とか
すぐに仕事にかかれるのですごいいいというメンバーは多い。」
この会社に勤めるエンジニアの藤木祐介さん(32)。
1歳の娘の子育てをしながらテレワークを活用している。
必要な連絡はテレビ会議やチャットで行う。
(テレワークを活用 藤木祐介さん)
「午前中は家で仕事
午後子どもが帰ってきて家で一緒に過ごすみたいな使い方ができて
子どもにとっても家族にとってもいい。」
一方でテレワークを廃止した企業もある。
育児や出産の情報サイトを運営するITベンチャー。
2年間テレワークを実施したが
業務に悪影響が出ていると考え廃止した。
(ITベンチャー エバーセンス 牧野哲也代表)
「テレワークがあるっていうのは当初はすごく喜ばれたけど
お互いへの関心や仕事への関心があんまり深くなっていかない。
結局はチームで仕事をする中でいい影響が出せなかった面はある。」
仕事の生きがいや働きがいを生むには顔を合わせての雑談も重要だと考えている。
(ITベンチャー エバーセンス 牧野輝也代表)
「顔を合わせることでウェットな関係になって
すごく感情の面でご機嫌になれるというか
いいものづくりを
仕事を楽しもうという気持ちになれる。」
テレワーク先進国のアメリカでも大手のIBMやヤフーが廃止に踏み切っている。
政府は2020年までに3割超の企業にテレワークを広げる目標を掲げているが
普及にむけては如何に社員同士のコミュニケーションを保つかがカギとなりそうである。
7月24日 国際報道2017
世界のトップクラスだけが立つことができるオペラ界最高峰の舞台
ウィーンの国立歌劇場。
今年4月
その舞台に日本人のカウンターテナーとして初めて立った藤木大地さん。
藤木大地さんは女性のような高い音域で歌うカウンターテナーである。
(オペラ「メデア」)
復讐心をもって
王に対して罪を犯したものを追っている
(観客)
「声に驚きました。
テンポの速さに加え
高かったので。」
「とても難しい歌なのにすばらしい。
感動したわ。」
今年37歳の藤木さん。
オペラ歌手としての道のりは決して平たんなものではなかった。
もともとはオペラの花形ともいえるテナー(男性の地声で高音を発声する歌い手)として
23歳のとき日本の新国立劇場でデビュー。
世界に打って出ようとヨーロッパに留学する。
ところが
(藤木大地さん)
「履歴書を送るんですけれども
ドイツの全部の劇場に手紙を書いていたから70通くらいは送っていたんですよ 当時。
でも返事が来たのが2通か3通。
その中でも呼んでくれたところに行って歌って
3分歌って「はい もういいですよ ありがとう」と言われて
だから自分はこんなもんだなと。」
ヨーロッパでは舞台で歌う機会がほとんど得られず
歌うことが苦しくなっていたという藤木さん。
このころ出会った世界的ピアニスト
マーティン・カッツさんの言葉に動かされる。
歌手を支える伴奏者という道を選んだカッツさん。
彼の言葉は
オペラの花形のテナーで成功するだけが人生ではないと気づくきっかけになった。
(藤木大地さん)
「『お前はハッピーなのか?』と。
『歌うことが苦しいんだったら
それを続けなくても
他の仕事でもおまえがもっとハッピーに生きていける可能性はあるんじゃないか』と。
『30歳までにうまく歌えるようにならなかったら
歌を辞めたら』と言われて。」
カッツさんの言葉で“夢を追うのは30歳まで”と決めた藤木さん。
その30歳を迎えたころ転機を迎える。
それは風邪を引きつつも練習をしていたときだった。
(藤木大地さん)
「今でも逆に地声で練習したりするんですけれど
でも風邪でその声が出なくて
どうしようかな声が出ないなってなって裏声で・・・。
こうやって何かすごく自由に
この声別に悪くないんじゃないのかなと。」
地声でいい声を出そうとするよりも
裏声であればリラックスした気持ちで自由に歌える。
自分という楽器の特性は
その裏声を武器にしたカウンターテナーなんだと気づくことができた瞬間だった。
(藤木大地さん)
「裏声で歌うと
全然違う歌い方なので
両立できないんですよ。
これがダメだったからまた戻ろうという選択肢は無かった。
歌手として生きるということに関しては背水の陣だった。」
カッツさんの言葉に後押しされて
カウンターテナーへの転身という大きな決断をしてから6年。
「今日がデビューなんだ。」
「素晴らしいに決まってるわ!」
「ありがとう!]
徐々に認められるようになった藤木さんは
ついにウィーンの歌劇場に立つという夢をつかんだのである。
(藤木大地さん)
「カッツさんに2週間くらい前にロンドンで会って来たんですけど
あの時僕に聞いた言葉を覚えていて
“Are you happy?”と聞かれて
僕はあの時な答えられなかったけど
今はハッピーだって言えたんですよね。
それで彼はすごく喜んでいて。」
(オペラ「メデア」)
老人は苦しそうに床に横たわっていた
苦しいときに出会った人たちの支えが今の自分を作ってくれたと感じている藤木さん。
自分のためではなく
人を幸せにするために歌いたいと話す。
(藤木大地さん)
「今日は本当にここまで自分を支えてくれたいろいろな人たちに感謝をして
本当に最高級のおじぎをできたんじゃないかと思っています。」
自分らしい声を自らの楽器として
藤木さんはこれからも人の心に歌を届けていく。
8月16日 編集手帳
ギリシャ神話の女神に、
翼も凛々(りり)しいニケ(Nike=勝利)がいる。
ギリシャのサモトラケ島で発掘された「サモトラケのニケ」像を、
パリのルーブル美術館でご覧になった方もあろう。
頭部を欠いても美貌(びぼう)のしのばれる女神である。
彼女には
、ビア(暴力)、
クラトス(権力)というコワモテの姉妹がいたそうだが、
人気ではニケ様にかなわない。
スポーツ用品の世界的なブランドのほか、
ニコラス、
ニコルといった人名にもその名をとどめている。
勝利の女神といえば、
移り気で、
気まぐれないたずら好きと相場が決まっている。
これほど愛されつづけた人もめずらしい。
陸上の男子短距離、
ウサイン・ボルト選手(30)(ジャマイカ)が現役を引退した。
金メダルは五輪8個、
世界選手権11個。
100メートル9秒58。
“人類最速の男”の伝説は天に向けて弓を引くポーズと共に、
人々の記憶のなかで輝きつづけるに違いない。
昨年のリオ五輪が終わった頃、
「読売歌壇」に載った一首を切り抜いてある。
〈十字切りウサイン・ボルトが仰ぐとき神はこの世にいるとおもえり〉(館山市・山下祥子)。
ニケ様だろう。
8月15日 編集手帳
詩が刻まれていた。
題名を『あのとき空は青かった』という。
〈戦争という夜のあと
こどもの朝が訪れた〉。
以前、
淡路島の公園で見た「瀬戸内少年野球団の碑」である。
戦争に心身の傷ついた大人がいて、
白球に夢を追う子供がいた。
作詞家、
阿久悠さん(1937~2007)の自伝的小説『瀬戸内少年野球団』をご記憶の方は多かろう。
詩碑の「あのとき」は72年前のきょうを指す。
野球・映画・流行歌の三つを、
阿久さんは「民主主義の三色旗」と呼んだ。
戦後日本の平和を象徴する野球をこよなく愛した人である。
職場のテレビから不意にどよめきが聞こえた。
甲子園でサヨナラ劇があったらしい。
泥だらけの笑みが弾(はじ)けている。
応援の女生徒が泣いている。
詩碑の言う「夜」ではない。
子供たちの「朝」が続いている当たり前の事実に感謝した。
いつも以上に身の引き締まる終戦の日である。
阿久さんの『契り』(作曲・歌、五木ひろし)を思い出す。
〈緑は今もみずみずしいか
人の心は鴎(かもめ)のように真白(まっしろ)だろうか
子供はほがらかか
愛する人よ すこやかに…〉。
亡き人の、
気遣わしげな声を聴く。
7月22日 経済フロントライン
颯爽と走る近代的なデザインの電気自動車。
手がけたのは自動車メーカーではない。
大手化学メーカーの旭化成が今年5月に発表したコンセプトカーである。
特殊な繊維を使って肌触りを浴したシート
軽くて丈夫なテールランプ
センサー技術でドライバーの異常を把握する計測器など
この会社の最新技術をアピールするのが狙いである。
京都のベンチャー企業GLMが作った車の土台部分に
旭化成がさまざまなアレンジを加えた。
(旭化成 オートモーティブ事業推進室 宇高道尊室長)
「エンジンから電池 モーターに変わる。
これは機構部分としては非常に大きな変化。
旭化成としても提案できることが山ほどあるのではないか。
この転換点は我々にとっての大きなチャンス。」
いまこの会社がターゲットとしているのは電気自動車の普及が進むヨーロッパ市場である。
現地のメーカーとパイプを築くため
去年ドイツに拠点を開設。
本社との間で頻繁に情報交換を行っている。
「結構ヨーロッパの方にもテスラと同じような形で
ギガファクトリー(大規模電池工場)を作ろうと各社いろいろやっている。」
「電池関連で客の引き合いが強い。
これから外にPRしていくべき課題。」
海外に進出にあたって強みとなっているのは車体の軽量化技術である。
電気自動車は1回の充電で走る距離を延ばすため
車体の軽量化が欠かせない。
長年培ってきた樹脂の技術を生かし
軽くて十分な強度を持つ部品を売り込みたいと考えている。
「鋼材の場合比重が非常に重たいので
樹脂材料を使って設計にもよるが重量半分以下を目指したい。」
「5キロの部品が4割減とか半分くらいになったら2~3キロ下がる。
効果は大きい。」
会社では2025年には
電気自動車をはじめとする自動車関連の売り上げを現在の3倍にする目標を掲げている。
(旭化成 オートモーティブ事業推進室 宇高道尊室長)
「もっと広がる可能性を秘めていると感じる。
ヨーロッパ アメリカ その他諸外国
アジアもひとつのマーケットになる。
極めて魅力的な市場だと思っている。」
7月22日 経済フロントライン
去年フランスのパリで開かれたモーターショー。
1台4000万円という次世代電気自動車のコンセプトカーが大きな注目を集めた。
「電気自動車?
驚きだね。
いつか乗ってみたいよ。」
「とてもキレイ。」
「夢があるわね。
すぐにでも買いたいわ。」
この車を開発しているのは京都に本社があるベンチャー企業GLM。
社長の小間裕康さん。
世界的に電気自動車への期待が高まれば
自動車開発の経験がない会社にもチャンスがあると考え
7年前に起業した。
(電気自動車ベンチャー GLM 小間裕康社長)
「今まで車というのは自動車産業のプレイヤーだけが作れるものだった。
モーターやバッテリーという電気産業
自動車産業以外のプレイヤーがそこに参加することで作るものになっていった。
非常に可能性のある分野にチャレンジしていると感じている。」
この会社の従業員はわずか23人。
自社工場は持たず
車全体の設計やデザインに注力している。
初めにスポーツカーを発売したのは創業からわずか4年後。
ガソリンエンジンの車では考えられない早さである。
それを可能にしたのはガソリンエンジン車と電気自動車の仕組みの違いである。
ガソリンエンジン車は
エンジンとその周辺部は多くの金属部品を組み合わせた複雑な構造をしている。
自動車の性能を大きく左右するエンジンは
ほとんどの場合自動車メーカーが自社で製造している。
使用する部品は“系列”と呼ばれる下請け企業の技術力によって支えられていて
新規参入は容易ではない。
一方の電気自動車。
エンジンは無く
電池でモーターを回転させて走る比較的シンプルな構造である。
モーターや電池の技術は自動車以外の産業でも使われるため
自社開発ではなく
外部の企業から調達することも可能である。
この会社は
主要部品であっても外部から調達できる電気自動車の利点を生かし
わずか4年で開発に成功したのである。
(電気自動車ベンチャー GLM 小間裕康社長)
「自動車メーカーを中心として“系列”と言われる縦割りの産業構造に対して
今は水平分業
横のつながりでの産業構造にシフトしている。」
エンジンからモーターへの転換。
自動車会社の系列に属していない企業にもチャンスが広がっている。
GLMと電気自動車用のモーターを共同開発している安川電機。
主力製品は産業用ロボット。
世界トップクラスのシェアを誇り
売上高は約4000億円にのぼる。
ロボットの関節部分に使われる高性能モーター。
この技術は電気自動車への応用が可能である。
GLMが2019年の量産開始を目指す超高級スポーツカー。
安川電機はそのモーターを担い
自動車産業に本格的に参入したいと考えている。
(安川暖気 善家充彦技術部長)
「ガソリン車からEVに変わっていくことによって
業界の地図が変わってくるのではないか。」
製造も開発も違った世界・業界になっていく。
こういう世界に対して我々は今まで培ったものをぶつけて
新しいビジネスチャンスを展開したい。」
短期間で電気自動車の開発を成功させたGLM。
海外の巨大メーカーも注目している。
京都にある開発拠点に世界最大の自動車部品メーカー
ボッシュグループの技術者たちがやってきた。
ドイツに本社を置くボッシュグループは去年の売り上げが8兆7000円。
従業員39万人の巨大部品メーカーで
電気自動車へのシフトを急速に進めている。
ボッシュが担うのは電気自動車のバッテリーやモーターを制御する基幹システムの開発である。
いち早く日本のベンチャー企業と連携することで
日本やアジア市場進出の足がかりを築きたいとしている。
(ボッシュエンジニアリング 技術者 カイ・カップさん)
「全く新しい電気自動車を一から開発できるすばらしい機会です。
ボッシュはソフトウェアや電気自動車などの分野に焦点を当てて大きく変化しています。
そこには大きな需要があり
私たちはそれに応える準備があります。」
(電気自動車ベンチャー GLM 小間裕康社長)
「間違いなく10年後20年後
ガソリン車がほとんど無い世界がある。
こういうシフトが今まさに起こっている。」