マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

漁業(ノルウェーの漁業)

2013年10月24日 | カ行
 日本の水産業関係者の間で近年、ノルウェーの漁業の手法が注目を集めている。生産量が減り、従事者の高齢化も激しい日本に対し、ノルウェーでは漁業の自動化や合理化が進み、若者に人気の職業ともなっでいる。この夏ノルウェーを訪れたのを機に、大西洋岸の漁業拠点オーレスンを訪ね、その実像を垣間見た。

 漁業の町に来たからには、まずは何より、魚市場に行きたい。活気にあふれる様子は、いつ見ても楽しいものだ。どんな魚が揚がっているか。北海産といえばタラか。ひょっとするとクジラがあるかもね。

 GLOBE編集部がある東京・築地の朝日新聞東京本社の隣には、世界最大規模の卸売市場「築地市場」がある。全国の魚がずらりと並び、威勢のいいかけ声が飛び交う。そのような光景を想像して出かけていった「魚市場」は、町の真ん中のオフィスビルの中にあった。地元の漁業者販売組合(SUROFI)の事務所だ。受付のカウンターの背後で、若い女性がヘッドセットで電話中だ。他に職員が2人。

 これが、ノルウェー流の魚市場の姿なのだという。床もぬれでいなければ、長靴姿の仲買人もいない。そもそも、魚が1匹もいない。

 「ノルウェーの漁業のシステムは、世界で最も巧みにつくられています。だからこそ、水産資源を枯渇させずに漁業を続けていられるのです」。StJROFIのスヴェイヌンク・フレム代表(58)が胸を張った。

 取れる魚はサバ、カラフトシシヤモ、タラなどが主だ。漁船はSUROFIに、その日の漁獲高を直接連絡する。SUROFIはこれを受けて、電話やインターネットを通じて競りを実施。先ほどのヘッドセットの女性は、競りの最中だったのだ。

 魚は、漁船内で冷凍され、倉庫に直接荷揚げされる。競り落とした買い手は、倉庫から直接魚を受け取る。漁業管理が徹底し、品質が安定しているから、買い手はいちいち魚を目にしない。だから、魚のない魚市場が可能になる。

 漁獲量は、船ごとに正確に割り当てられでいる。それ以上に多く取る必要はないし、取ってもいけない。SUROFIは、競りを担当すると同時に、漁民が割り当てを守っでいるかどうかの監視役も担う。「違反はほとんどありません。漁業資源を守ることの大切さは、漁民も十分理解しています」とフレム代表。

 この手法をそのまま日本に導入するのは難しいかもしれない。日本には小規模な事業主が多く、魚種も豊富なことから、管理が難しい。ただ、ノルウェーに多くのヒントがあるのは間違いない。実際、日本からもしばしば視察団が訪れるという。

 大型船を利用するノルウェー漁民の年収は1000万~2000万円分にも及び、200万円あまりの日本を大きく上回る。悩みは、漁業者間で淘汰が進み、漁民の数自体が減っていること。現在は国内で約1万人の漁業者がいるが、あと10~20年で8000~7000人に減りそうだと、StJROFIと同じビルに入るノルウェー漁業者協会のウルモルテン・ソルナ会長(48)は予想した。「海底油田の掘削のために操船技術者を求める石油産業が、人材を引き抜いでいる」と語った。(以下略)

 (朝日新聞グローブ、2013年10月20日。国末憲人)

   感想

 元朝日新聞の論説委員だった高成田亨が、何年か前、やはり朝日新聞グローブに、ノルウェーの漁船に乗り込んだ体験を発表していたと思います。

 その高成田は定年退職後、東北に住み、地元の漁業に関心を持っているとか、書いてあったと思います。そして、震災後は、東北の漁業をノルウェー方式で復興させる努力をしているはずです。

 国末も「この手法をそのまま日本に導入するのは難しいかもしれない」と書いて済ませるのではなく、そういう努力が今、どこまで進んでいるかを含めて、報告してくれるとありがたかったと思います。
コメント
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