マキペディア(発行人・牧野紀之)

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驚く

2014年08月21日 | ア行
驚く(驚かされる)(「あわてる、あわてさせる」を含む)

 ①驚の字は、形声(オンを表す部分と意味を表す部分から成る)。音符(オンを表す部分)は「敬(けい)」である。敬は「祈りをする者を殴(う)って、これを戒める」という意味である。馬は特に驚きやすい動物なので、注意されて驚く馬が「驚」で、「おどろく」の意味を示した(常用字解。戒の字は原書の字が出ないので、こう替えた)。

 ②「おどろく」の「おど」は「おぢ(怖)」からの転であろう。意味は「動揺する」である。「目を覚ます」の意味もある。(大言海)

 ③「オドロ」はどろどろ、ごろごろなど、物音の擬音語。刺激的な物音を感じる意が原義。はっと目が覚める。にわかに気が付く。意外な事にびっくりする。(岩波古語辞典)

 感想・②と③では意味の挙げる順序が逆です。

 ④「愕く」「駭く」とも書く。(明鏡)

 ⑤新明解は、「感心する」やその反対の「あきれる」とか「素晴らしい事物に接し、高揚した気分になる」の意もあげ、「驚くなかれ」「驚くほど」といった熟語的表現も載せています。「目を覚ます」の意は「雅語」としています。

 ⑥基礎日本語辞典は、「関連語」の欄で「びっくりする」と「驚く」の比較を行っています。結論として、「驚く」は精神の作用についての客観的な説明で、「びっくりする」は驚かされたことによって生ずる精神の結果、としています。

感想1・私の見たどの辞書にも載っていないことは、「驚く」と「驚かされる」の使い分けです。⑥に言及しました「基礎」では何回か「驚かされる」を使った用例も出しているのに、この問題を扱っていません。著者(森田良行)にこの点の問題意識がないのでしょう。

 私の感覚では「驚いた」で十分な場合に「驚かされた」と受け身表現を使う人が多い、と言うより、どんどん多くなっているように思います。私英語が入ってきてbe surprisedという表現に慣れた人がそれの直訳を使うようになって「驚かされた」という言い方を奇異に感じなくなったのではあるまいか。

 「驚くべき事」といった言い方はありますが、「驚かされるべき事」とは言わないと思います。しかし、他の語では「或る目的が達成さるべき順序」とも「或る目的を達成するべき順序」とも言えると思います。逆に、「言うべき事を言う」とは言いますが、「言われるべき事を言われた」とは言わないと思います。このように、繋がり方も考えてみなければならないでしょう。

 いずれにせよ、辞書はこういう事にも触れてほしいと思うのです。

 「驚かされる」の用例

 01、授業で大学1年生と一緒に文学作品を読んでいていつも改めて驚かされるのは(東大『知の技法』68頁)
 02、私は急に驚かされた。(漱石『こころ』上12)
 03、帰って無い積もりの借金が大分あったに驚かされた(漱石『門』4)

 04、原発を導入した町が必ずしも豊かにも幸せにもなっていないという事実に、改めて驚かされた。(2001,12,23, 朝日)
 05、93歳まで指揮棒を振り続けた生命力には驚かされる。(2002,1,14 、朝日)

   「驚く」の用例

 01、記者会見で辞任を表明した国防相は、涙を流してわびたという。/驚いた。軍がらみの事故でこれほどの透明性は初めての経験だ。(2001,11,13, 朝日)
 02、これは驚くべきことである。

   「あわてる、あわてさせる」の用例

 01、平穏に思えた大晦日の昼過ぎ、ロシア南部のチェチェン共和国からのニュースにあわてさせられた。(2002,1,8, 朝日)

 感想2・日本語辞典(日日辞典)は、漢和辞典も古語辞典も兼ねるべきだと思います。それぞれの専門の辞典ほど詳しくなくてもよいとは思いますが、現代語を理解・運用するのに必要な知識は書いてほしいと思います。
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