マキペディア(発行人・牧野紀之)

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「天タマ」第16号

2018年12月14日 | カ行
「天タマ」第16号(1999年 9月27日発行)

           浜松市立看護専門学校 哲学の教科通信

 まず、「授業要綱」として、こういう授業を目指しますということをお話します。

1、哲学とは筋道をつけて考えることとする。従って、その練習をし、各自が自分の考え を自分にはっきりさせ、発展させることを目的とする。
 テーマとしては、人間の相互理解ということにしたい。しかし、実際は成り行きを尊 重して、テーマにはこだわらず対話と反省を深めることを優先したい。

2、授業の方法
 (1) 与えられた資料を手掛かりにし、また講師の意見を聞いたりして考え、カンファレンスをして、自分の考えをレポートにまとめる。

 (2) レポートを書く時の注意
   メモをとって3分は考えてから書く。
   日付を入れる。
   「その他」としてテーマとは無関係な事、私生活上のこととか、授業の感想とかを書いてよい。書いて欲しい。
  「教科通信」に載せられては困ることは、その旨記すように。匿名希望も可。

 (3) 講師は「教科通信」を発行して、考えを深めるのに役立てるように努力する。

 (4) 「教科通信」を家族にみせたり、授業の事を家族に話したりすることを歓迎する。家族の意見をレポートで報告するのも大いに歓迎する。
   個人の対話体験の基礎は家族との対話、特に親子の対話にあると思う。

 (5) ディベートの練習も出来たらしたい。

 (6) 講師はレポートには感想を書いて返すように努力する。

 (7) レポートは学校の原稿用紙に書くのを原則とする。
   授業中はメモ用紙に書き、後で原稿用紙やワープロで清書するのもよし、始めから原稿用紙に書いてもよし。それを、学期末にまとめて綴じて文集にする。文集は同じものを2部作り、2部共提出する。講師は1部を自分に取り、1部に成績の根拠を書いて返すように努力する。

 (8) 授業中、適当な時に「休憩」を入れるように努力する。たいてい、授業と無関係なものを読んだり、ビデオを見たりする。

 (9) 配付する資料等は A4 に統一するので A4 のファイルを用意して欲しい。

 (10)授業中、気持ち悪くなったり、トイレ等の用のある人は、黙って出ていくこと(断らなくてよい)。

 (11)当番の人は始業15分前には来てほしい。

 (12)教科書『囲炉裏端』は「筋道をつけて考える」ことの参考書とみなす。

3、哲学の授業に臨む態度ないし心構えについて
 (1) 自分の言いたい事を全部分かりやすく言うように努力する。

 (2) 相手の言う事を最後まで聞くように努力する。

 (3) 感情的にならないように努力する。根拠をあげて客観的に冷静に意見を言う。

(4) 講師は先を急がないようにする。生徒のレポートなどで問題に気づいたとき、自分の意見を言う前に、生徒に問題を提起して考えてもらうように努力する。

4、授業のあり方の反省
 この授業が根本的に間違っていると考えた場合は管理者に相談して欲しい。以下は、「この授業は根本的には適当だが、部分的に改善して欲しい点がある」という立場で考えるものとする。

 (1) レポートの際、いつでも、「その他」として、授業の感想・提案を書いてよい。

 (2) 講師の作ったアンケート「より良い授業のために」を2回取る予定。

 (3) 学生が企画・実行する「アンケート」も1~2回行う予定。

 (4) この「授業要綱」にあることにはつねに意見を出せる。従って変更もありうる。但し、最後的決定権は講師にある。

 (5) Eメールで意見を下さっても結構です。ホームページ「哲学の広場」も開いています。

5、成績
 (1) 生徒に相応しくない態度は、1回でC、2回でD、または酷い場合には1回でDとする。(感情的な態度、私語と内職、規律を乱す行為、等)

 (2) 受講態度に問題がない場合は、レポートの内容によってSABCDをつける。
   その観点──独創性、考察の広さと正確さ、文章のまとまりと分かりやすさ、等。特に独創性を評価する。

 (3) 成績の根拠を生徒に伝えるものとする。異義申し立ては1回だけ聞くものとする。最後の決定権は講師にある。

6、希望
 内容のある楽しい授業にしたい。


      第1回の授業のテーマ

 対話の思い出、実りある対話の条件は何か、「対話の基礎は親子の対話にあり」という講師の考えをどう思うか、その他

        講師の自己紹介

 皆さん、初めまして。足掛け4ヵ月の授業ですが、「哲学」という訳の分からない看板の下で何か怪しげな事をしていきましょう。私も今年で5年目になりますので、この学校でも「仏の牧野」という評判が定着してきたようです。評判を裏切らないようにやって行きたいものです。

 東京に生まれ育ちましたが、引佐の山の中に引っ越して、イノシシと一緒に暮らしています。お蔭でこの学校に来ることになってラッキーだったと思っています。好い生徒に恵まれて、哲学教育に新しい境地を開くことが出来ました。

 私は1週1回、水曜日に、余技のドイツ語で国立大学でも授業をしています。こちらは7年目になります。後期はこことS大と、週に2回の授業です。といっても、こちらは不規則で、11月は週3回になりそうです。

 還暦が近くなり、体力の衰えを感じるこの頃ですが、こうして若い皆さんと付き合っているのが心の若さを保つ秘訣かな、と思っています。

        夏休みの1コマ

 8月10日、本校の去年の生徒たちと掛川郊外の「ねむの木村」を訪ねました。宮城まり子さんの主宰する肢体不自由児のための施設です。浜岡町から移転しました。吉行淳之介文学館が出来て、宮城に宛てた恋文が展示されてあるとか聞いていました。

 台風が来ていて雨模様の日でしたが、私たちの歩いている時は幸い雨は降りませんでした。まり子という喫茶店には他の客はおらず、半年ぶりに会った元生徒たちとカレーセットを食べ、談笑しました。宮城さんの好みなのでしょう。メルヘンチックな内装で、静かにモーツアルトが流れていました。ここのトイレは身障者用トイレのあり方として一見の価値があると思います。

 文学館の展示には、宮城の心の中に今でも生きている吉行に話しかけるような言葉が添えられていました。その後、茶室で抹茶を飲みました。少し離れた所には美術館も出来たとか、そしてそれが自然採光で、太陽の動きと共に絵の見え方も変わっていくようなものだとか、聞きました。これは秋晴れの日の夕方に見に来たいな、と思いました。

 先日、教育テレビで宮城まり子さんとねむの木村のことを紹介した45分番組がありましたが、ご覧になりましたか。外からは分からない内部の事が描かれていました。

     昨年の「天タマ」第1号から

 「その他」にAさんが次のように書いています。

── 今日初めて哲学の授業を受けてみて思ったことは、「哲学という難しそうなイメージではなく、楽しくやっていけそう。先生も生徒と対等に授業をしていこうとしていて、いい印象」と思った。私も、ウワサで「哲学の先生はこわい人」と聞いていて、「どんな人がくるんだろう」と思っていたが、授業要綱の紙を見て、生徒の意見も反映しようとしてくれているところが印象良く感じた。(後略)

 ★ ここからは沢山の問題が出てきます。それを箇条書きにします。
(1) 先生と生徒は対等か(何が対等なのか何が対等でないのか)。
(2) 生徒の意見を聞いて反映させることは、何の「対等」を意味するか。
(3) 先生と生徒の意見が違った時(勉強の内容、学校の運営などで)、両者は議論するべきか。
(4) 話し合うことと議論することとは同じか。違うとしたらどこが違うか。
(5) 先生は一段高い所(教壇で)で話し、生徒は一段低い所にいるのは何を意味するか。
(6) 先生と生徒が話し合う(議論する)として、その時先生が司会者を兼ねているのは何を意味するか。

 Aさんの言いたい事は私にも嬉しい事なのですが、それをこのように突っ込んで考えると哲学になるのです。そうすると、Aさんの本当に言いたかった事が一層正確に表現されるようにもなると思います。

 この「天タマ」を送った卒業生(元生徒)は手紙の中で次のように書いてきました。

──「先生と生徒の関係は対等か」という部分ですが、私達も、同じことを考えました。その時は、対等ではないと、答えたと思います。知識も多く、経験も豊富なため、かなわないから、尊重、尊敬すべきであると、答えました。職場に出ても、やはり上司は尊重すべきであるという考えは変わりません。しかし、なんでも言い合える関係でなくては、よい仕事はできないと、気づきました。「上司だから、上司の言うことは全て正しい」のではないのです。同じ人間なので、間違いはあります。そこで意見を言えなかったら、いい仕事にはなりません。上司であっても、自分の思うことはしっかり伝える、これが、今私の働いている職場の目指していることです。先生、生徒に置き換えても同じでしょう。良い授業をと考えるなら、お互いが意見を言い合わないといけません。これが、社会に出て考える私の意見です。

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