植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

斗南さんもあの世で嘆いてるかな

2021年01月08日 | 書道
河野斗南さんであります。
 昭和の時代に活躍した書道家、皇家はじめ多くの著名人に書や篆刻印を提供した篆刻家として、その道では有名だそうです。正直ワタシは最近まで全く知らない人でした。

 この方のことを知ったのは、毎度のことながらヤフオクです。これは素晴らしい、よしこれを手本に臨書しようと思ったのが斗南さんだったのです。順番からいくと、書道教室で先輩が目の前で百壽図なるものを書き始めた、知り合いのうちで、百福・百壽図の掛け軸を見た、自分で書こうと思った、手本を探してヤフオクでヒットした、です。
 臨書するので「見本・お手本」みたいな冊子や本があればいいのですが、どうも市販されているものが見つからず、ヤフオクで、素人さんが書いた下手(失礼)なもの、刺繍になった工芸品、などを数点落札いたしました。その時に見つけた斗南さんの掛け軸は、入札期限が一週間も先、首尾よく落札してからでも10日以上先になるので、待てずに稽古を開始しました。

 その方法は、スマホで見られる斗南さんの書のヤフオク掲載写真を見て書く、という実に大胆なやり方です。すでに届いていた他の方の掛け軸二本は、立派な表装が施されていましたが、かたや字そのものはワタシのほうが上手い、なんか訂正・修正してる、かたや印刷っぽいし。額入り刺繍と合わせて三つ合わせて2100円(笑)。字体・レイアウトや字間などの参考になるし、布を使って表装された掛軸は、いずれ紙(書)の部分は剥がして処分、自分の書を張りなおすつもりなので無駄ではありません。

 そういうわけで、少し試し書きをした後、なんとか試作品一枚を書き上げたのですが、初めての試みなので、均一にすべき字の太さが滲みなどで太くなりすぎたりしています。どうせ練習なので適当に題字や落款を書いて先生にご指導賜りました。そしてもう一枚今度は清書のつもりで気合と集中で100字を書きました。

 出来はともかく、なんとか格好はついたのですが。ようやく、斗南さんの「百壽図」が届きました。その落札額は2400円!、ものはついでで直後に斗南さんの書の集大成「揮毫寶鑑」も落札しました。こちらは定価81,000円が4,000円、やすっ。今年は色紙・半紙なども作品を量産するつもりなので、揮毫に適した書の文・材料がどうしても欲しかったんです。

 百寿図は全紙版(半切の2倍)の大きさで、立派な桐の箱と箱書き、表装がなされていました。とにかくでかい!

これが、肉筆である(印刷でない)ことは間違いありませんが、斗南先生の真筆かどうかは分かりません。ワタシの目からは、堂々とした迷いのない筆致や全体の印象で、本物としか思えないのです。「揮毫寶鑑」の最終頁が、斗南さんの代表作ともいわれる百福図・百寿図でした。これと比べると、いくつかの字の部分が変えられていて(口が▽になるとか)写真のものとは別物、同じ落款印も本の書には見つかりませんでした。
 揮毫寶鑑は1976年に発行されています。ご本人が何枚くらい書いたのかは、2006年に亡くなっているので確かめようもありませんが、少なくとも発行以降30年間に同じようなものを何十枚も書き、いくつも落款印も作り変えた(代表的な篆刻家さんですから)ということは容易に想像されます。手元の書はシミも汚れも傷みもないもので、床の間に長年飾られていたものではなく、割合最近制作され、ずっと箱の中で眠っていた様子でありました。

 それにしても、これだけの大作で見事な本表装をすれば、10万円はくだらない値段でなければ買えなかったでしょう。これだけの作品は、一字も書き損じがなくても、根を詰めて書いて丸一日かかります。本物・偽物に限らず材料費や表装代、手間賃(人件費)を考えると5万円以上かかるでしょうね。こんなものが数千円で取引されるというのが「書道」の経済性の低さになるのでしょうか。
 斗南先生の条幅(干支の一字だけ)で、3万円から5万円ほどでネットで売られています。もしワタシがその道の贋作作家だったら、少なくともこういう「書」はやりません。何百年も前の骨董品として高値で取引されるような書画、例えば若冲(笑)なら儲かりますが、近代の書道家の作をまねて書いても、見破られ、手間をかけるだけ損します。コストとリスクが大きくリターンが少ないのです

 絵画や、江戸時代以前の歴史的文化財的価値のあるものを除けば、本物・真筆でも驚くような安い値段でしか買い手がつかないのだと考えると、書道愛好家が減るのも仕方ないかな、と寂しくなりますね。

 

コメント
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