- 松永史談会 -

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高島平三郎『婦人の為に』、至誠堂、1918

2014年02月25日 | 教養(Culture)
高島平三郎と母:加寿子



印刷工あがりの河本亀之助には経営者としての資質を問われかねないようなエピソードには事欠かない。てか亀之助は若い無名の執筆者に対して世に出るチャンスを与えるタイプの一風変わった出版業者だったのだ。成功した例もあるが、そうでないケースが殆どであったろ。
特定の人物をゴーストライターとして立て、その生活支援を兼ねて本を立て続けに出すというやり方も創業時には散見された。
失敗したケースの典型が高島平三郎の弟子:下澤瑞世に書かせたケースではなかったかと思う。河本には20代の青年(竹久夢二)の成功体験が、丁度一度パチンコに勝つと味をしめて、次も勝てる、連敗しても、また勝てると思う種類(認識の違いに由来するタイプ)の認知的誤解があったようにも見受けられるのだが・・・・・。

下澤は東洋大学出身で、高島の著書の校正をやったり、高島との共著を出したり、井上哲次郎にも近づき、自著の序文を書いてもらったりしている。発想はなかなかなのだが、東洋大学出の関寛之の場合と異なり、学力不足で論証や立論がかなり稚拙で困った奴といった御仁だった。
その彼が自著の中で高島を評して武士道精神にあふれた人で、そんな高島は人間的な面で母親から大きな影響を受けていると書いていた。わたしもそういう点を感じていたので下澤の名前をここで出したのだが・・・・。
高島が明治大正期における良妻賢母型女性や女性解放論者(例えば「新真婦人」を主宰した西川文子)への理解と育成や女性の知的啓発に果たした役割は無視できないだろう。


 西川光二郎の夫人文子の著書の序文だ。文子は平塚らいちょうらの雑誌「青鞜」の仲間の一人だった。高島の「高島先生教育報国60年」には平塚の一文が寄稿されている。高島が当時の女性運動家たちのよき理解者だったことは明白だ。雑誌「新真婦人」は「青鞜」向こうを張って刊行されたものだが、高島は毎号通読していたようだ、高島は牙をむき出した急進派を嫌い、穏健なる婦人運動をこの序文を通じて西川文子に求めている。西川(基本は”新しい女”志向)と高島(基本は”良妻賢母”の推奨)の間には感覚面で温度差(世代間格差)が感じられるが・・・、国家主義の中で動脈的というか、要するに男性原理だけが肥大化しすることへの危惧と、社会システム面では動脈的なものに欠落した部分を補う意味もある静脈的、したがって女性的原理[都市・国家・社会を母性化すること]の必要性を主張した西川文子らの思想(『平民社の女』137頁)には首肯できる部分もある。

学習院時代は武者小路家の夫人(当時未亡人)から子弟教育(武者小路実篤の兄貴:公共)の相談を受けていたし、大正期に入ると華族(たとえば松平直亮→『家庭心理講話』)・皇族(高松宮妃殿下→『家庭・婦人・児童』)の子女のための人間教育面で貢献している。まさに第一人者であったわけだ。因みに高島は大正15年には西片町に創設された女子高等学園という2年生の花嫁学校(高女卒業者を受け入れる小規模校)の校長を廃校までの10数年間務めている。





母亡き後の母としての、高島のたった一人の姉にささげられた本だ。この時代は献辞文を書くことが流行した。









書名別名:婦人乃為に
シリーズ名:大正名著文庫
出版元:至誠堂、刊行年月:1918、ページ数:454p、大きさ:20cm

婦人の為めに

高島平三郎 著



[目次]
標題
目次
第一編 婦人と心理
一 笑の話 / 1
二 女性と羞恥心 / 32
三 嫉妬心の研究 / 61
四 姑の心理 / 150
五 老人の心理 / 178
第二編 婦人と社會
一 婦人十訓 / 190
二 社交と虚榮心 / 201
三 嫁入前の娘を持ちて / 217
四 お高祖頭巾の話 / 232
五 家庭と趣味 / 243
六 都會生活と田園生活 / 249
七 婦人慘劇の批判 / 261
八 情死の話 / 285
第三編 婦人と教育
一 精神の萠芽 / 307
二 子供心の發育状態 / 322
三 家庭教育の基礎 / 332
四 家庭と兒童 / 341
五 玩具と教育 / 353
六 子供の喧嘩に就いて / 360
七 虚言の研究 / 366
八 幼兒の早熟と神經過敏性とに就いて / 394
九 教育上活動寫眞の利害 / 399
十 動物の愛護 / 409
十一 賞罰の注意 / 417
十二 夢の教育 / 429
十三 休暇移住の話 / 446

下澤瑞世の高島評

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