~ 服を捨てる ~
✿ もう我に着てはもらえぬ服があり、くびれた胴にシルクの黒蝶 松井多絵子
「フランス人は10着しか服を持たない」「服を買うなら捨てなさい」、新聞の本の広告は「捨てなさい」が多い。次々に新しい商品が出るのだから、いま持っているものを捨てなけければならない。新しい商品がどんどん買われなければ不況になる。友だちのオシャレ老女A子は戸建てから2DKのマンションへ引っ越すとき捨てることの辛さを痛感したと言っていた。本は捨てられたけど、服はなかなか捨てられないと。捨てることを提案する本を出している女たちは稼ぐことのできる女たちだばかりだ。
新刊の『何を着るかで人生は変わる』の著者・しぎはらひろこ は日本ベストドレッサー賞選考委員、服飾戦力家、8万5000人以上のアパレル販売員やスタイリストに服装指導。
「その無難な服では稼げません」と。選りすぐりの10セットの服と丁寧に向き合うことがあなたを成長させ幸運を呼ぶ。朝、洋服を選ぶのにかける時間や労力をすて、その時間を仕事に向ける。成功している人は毎日同じ服を着る。必要最小限の服で仕事に集中する、。
ニューヨークのあるアートディレクターは白いシャツと黒のズボンが定番、同じ服を着ることはストレスを減らす、毎日おなじ服を着ることで物語の主人公になれる、自分を貫くことができる。しかし、これは有能な女性の場合のこと、彼女たちは何より時間が大切なのだ。そしていつでも服を買える経済力があるのだ。
時間はたっぷりある年金暮らしの老女と、仕事が忙しい女とは違う。捨ててしまったらもう買うことが出来ない女たち。古い服をあれこれ組み合わせて着る。服は思い出をまとう。古い服にあたらしいジャケットやストールを組み合わせて私は新年会に出たりしている。「捨てる」という風潮にはたやすく従えない老女のひとりであろ。
言葉をあたためながら。でも言葉を捨てなければ短歌はできませんが、
9月26日 松井多絵子