・・・ 折々のことば 「扉」 ・・・
♦ あの冬のきりりと冷えた夜だった『斜陽』の扉をひらいたときは 松井多絵子
建物の内側と外側との境にあり開いたり閉じたりする扉。「戸」より「扉」の方が詩的なイメージをひろげる。太宰治の世界へはじめて私が入ったのは、何十年も前の真冬の夜だった。小説『斜陽』の表紙は冷えた扉であった。太宰治は今でも私には冬の男である。
11月5日☀折々のことば 鷲田清一
扉は・・・・・・それがいったん閉じられると・・・・たんなるのっぺりとした壁よりもいつそう強い遮断感を与える。 ゲオルク・ジンメル (ドイツの哲学者・批評家)
橋がいつも向こうへ通じているのに対して、開け閉めできる扉は人を招き入れ、また送り出しもするが、人の受け入れをあらかじめかたくなに拒むものである。扉を前にして、それがどういう表情をしているかを、故国を逃れてきた難民たちは敏感に感じ取る。
以上は鷲田清一のゲオルク・ジンメル「橋と扉」からの引用である。現在も戦乱の国を逃れてきた難民たちの様子がTVで度々報道される。故国を逃れてきた難民たちを気持ちよく受け入れてくれる国はない、と難民たちは感じている。不安であろう。今後どうなるか。
現代は自動扉が普及している。人間関係も自分で開いたり閉じたりするより、他者に開閉される場合が多い。他者に疎まれ閉ざされた扉の多い人間の孤独は辛い。
11月6日 松井多絵子
◆ 文芸最新情報
第68回野間文芸賞 (野間文化財団主催)
♦ 長野まゆみ 「冥途あり」 (講談社)
第37回野間文芸新人賞
♦ 滝口悠生 「愛と人生」 (講談社)
♦ 古川日出男 「女たち三百人の裏切りの書」 (新潮社)
第53回 野間児童文芸賞
♦ 村上しいこ 「うたうとは小さないのちひろいあげ」 (講談社)
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