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新型コロナウイルスと給付金

2020-06-26 00:00:00 | 新型コロナウィルス
 新型コロナウイルスは、感染源の中国では一応の収束宣言が出されているし、世界的感染拡大の初期に感染が始まった国々の中にも第1波のピークを過ぎたところや、収束を迎えている国もあるが、他方では現在も尚、拡大を続けている国もあり、世界全体での感染者数、死亡者数は不気味な増加を続けている。

 Johns Hopkins 大学が公表している、世界全体の新型コロナウイルス感染状況を示す数値とグラフは次のようである(2020年6月23日 現在)。これによると、世界全体の感染者数累計は907.9万人であり、死亡者数は47万人に達している。


世界各国の新規感染者数の推移(Johns Hopkins 大学、 2020.6.23のデータから)

 上の図で、左上の数字9,079,452人は世界の累計感染者数であり、右上の数字471,754人は累計死者数である。また、右下のグラフは累計感染者数の推移を示している。
 
 この累計感染者数の推移は最近勾配が大きくなっているが、これを受けて、WHOのテドロス事務局長は6月19日にパンデミックは加速していると警告を発している。

 これは、中国、欧州各国、日本などでは次のグラフに見るように第1波のピークを越しているが、アメリカ、ロシアでは急拡大期は過ぎたものの、感染者の発生は定常的であり、さらにブラジル、インドなどで感染の急拡大が続いているためである。


累計感染者数上位10カ国と、中国、日本の新規感染者推移(各グラフの縦軸は異なる、
数字 上:累計感染者数、下:累計死亡者数、 Johns Hopkins 大学 2020.6.20のデータを加工)

 単純計算で世界平均の致死率は5.2%に達しており、これは季節性インフルエンザの数値0.1%をはるかに上回るものであり、かつて恐れられたSARSの9.6%に迫るもので、感染者(8093人)と死亡者(774人)の実数を考え合わせると、新型コロナウイルスの脅威はこのSARSを上回るものといえる。

 また、1918年に発生したスペインかぜは、世界で約4000万人、国内でも約39万人の死亡者を出している。医療技術・態勢の発達した現代ではそこまでの拡大は無いものと思われるが、それでも1957年のアジアかぜの死亡者約200万人や、1968年の香港かぜの死亡者約100万人(共に致死率0.2%)に迫る感染の拡大である。

 これに対応する各国政府の対応もまた過去には例のないものとなっている。一部には政府による非常事態宣言が発令されていない国もあるが、多くの国では都市封鎖、外出禁止令、商店などの営業禁止措置が取られ、これによる経済への深刻なダメージが起きている。

 我が国では、罰則を伴った強制的な措置は取られず、公共交通機関なども運行を継続したが、行動規制や営業自粛は要望され、国民はそれに従った。その結果、海外からは驚きの目で見られるほどの成果を挙げ、感染者数と死亡者数は今日までのところ低いレベルに抑えられている。

 死亡者の年齢別の内訳も発表されていて、これを見ると高齢者の致死率が若年層に比べて著しく高くなっていることがわかる。やや古いデータになるが、厚労省がまとめた4月19日までのデータによると、死亡者における70歳以上の比率は81%に達している。年齢別の致死率も次図のように、70歳代では5.22%、80歳代以上になると11.13%と急増していることが分かる。こうした傾向は、既に公表されている中国の場合も共通している。


表:国内の新型コロナウイルスの年代別感染者数・死者数・致死率
(2020.4.19日現在の数字、厚労省資料から筆者作成)

グラフ:国内の新型コロナウイルスの年代別感染者数・死者数・致死率
(2020.4.19日現在の数字、厚労省資料から筆者作成)

 このことを改めて考えてみれば、各国政府が現下の経済を犠牲にしてでも老人や、この統計には出てこないが、医療弱者の命を守ろうとしているとも云えるわけで、我々老人世代からするとありがたいことと思える。

 さらにいえば、政府の要請により、就労中の現役世代は失業したり、商店の売り上げが激減したりして収入の道が途絶える者も出ているのであるが、我々高齢者の年金はこれまでどおり支給され続けている。ここでも、老人世代は守られていることになる。

 これまでの、第1波とされる3月から5月にかけての感染拡大に対しては、政府は4月末に補正予算を組み、様々な対応をしてきた。その概要は次表のようなものであるが、予算の大半は「雇用の維持と事業の継続」ということで、総額約19兆5千億円が配分され、中でも「全国全ての人々への新たな給付金」約12兆9千億円と、「中小・小規模事業者等に対する新たな給付金」約2兆3千億円にその大半が振り向けられている。これらはすべて返済不要な給付金である。


令和2年度補正予算(第1号)の概要(財務省発表資料を参考に筆者作成)
 
 また、6月12日には第2次補正予算が成立し、今後懸念される第2波の感染拡大への対応策が盛り込まれている。概要は次表のようであるが、今後の予期しない事態への対応としての予備費10兆円を除けば、ここでも中小・小規模事業者向け融資に約8兆8千億円が、また家賃支援給付金として約2兆円が充てられるなど、医療体制の強化、ワクチンや治療薬の開発とともに、再び中小・小規模事業者等への対応策が盛り込まれている。


令和2年度補正予算(第2号)の概要(財務省発表資料を参考に筆者作成)

 私自身も小さいながらアンティーク・ガラスショップを経営している関係で、この「持続化給付金」を受け取ることが出来た。また、これに上乗せする形で、地元軽井沢町からも「事業継続支援給付金」が支給された。
 
 全国民に対して一律に支給された特別定額給付金に追加してこうした事業経営に関する支援が受けられることもまた、ありがたいことと思える。

 このことについて、大学時代の同窓生がオープンにメール交換している場で話題になったことがあった。このメールは、中の一人が他の誰かに発信したメールを残り全員が見ることが出来るようになっている。

 企業経営をしているKさんが、「雇用調整助成金」や「持続化給付金」を受給して、「この付けが孫たちに行く・・・」と心配する気持ちをメール発信したところ、これを読んだYさんから、「そうしたセリフはウソであるとご承知ですね?」とのメールが返された。

 私自身も、孫や子への心配というよりも、「給付金は、国債発行で賄われ、これには貸し手がいるものだから、政府はいずれこれを税金によって返済しなければならないですね」とメール発信したところ、やはりYさんから「そう考えるのがこれまでの常識ですが、実は間違いのようです」とのコメントが返ってきた。

 Yさんに詳しく聞いてみると、最近話題になっているMMT理論によると、今回の給付金などの原資となるお金は、創出されたもので、将来税金として国民から取り戻す性質のものではないということである。

 これはよくわからない。実際、東日本大震災による被害からの復興のために、復興税を我々は支払っている。同様の措置が今後採られるかもしれないとの思いが私にはある。また、補正予算は建設国債と赤字国債で賄われ、日本銀行が全国債をすべて買い取らない限り、民間銀行が国民の預金を原資に買い受けるものと考えていたが、その考えは違っていることになる。

 そこで、Yさんに教えてもらったMMT理論について、勉強してみようということになった。

 先ずはウィキペディアを検索するとMMTは、「現代貨幣理論」として紹介されていた。一部を引用すると次のようである。

 「現代貨幣理論(げんだいかへいりろん、英語: Modern Monetary Theory、略称:MMT)とは、経済(特に財政)に関する理論の一つ。
 『貨幣は商品ではなく信頼に基づく貸借関係の記録(負債の記録)である』、『貨幣は銀行等が貸借関係の記録を書き込む時に創出され、返済する時に消滅する』、『世の中に貨幣が存在するのは、政府が一番初めに貨幣を支出したからである』、『貨幣の信用・価値は、国家の徴税権によって保証されている』といった、現代の貨幣に対する認識を基本とした理論。」
とはじまっている。

 更に詳しい説明が続くが、これは省略するとして、終段には、日本での現状という項があり、次のように記されている。

 「日本国内の政財官界や学術界、大手マスコミなどは、MMTの認知が日本で広がりを見せた現在でも、概ねプライマリーバランスを均衡させるという意味での財政再建・財政健全化の必要性を主張している。またMMTを紹介・批評する場合でもMMTに対して否定的な見解を示している。
 MMTは、ケインズ政策の影響が色濃く財政赤字の拡大を容認して財政政策の有効性の高さを主張するという、これまで財政赤字を非難してきた国内の経済論的常識や主流派経済学に対してチャレンジングな内容である。そのため急速に国内の経済論壇で広がりを見せ、メディアや国会等で頻繁に取り上げられることで、MMT支持派と不支持派による異例の批判合戦のような状況が展開されている。
 自民党の安藤裕衆議院議員が中心となって立ち上げた自民党若手議員の連盟である日本の未来を考える勉強会が、中野剛志、藤井聡、三橋貴明、青木泰樹等、MMTを支持する有識者を講師とした勉強会を行っており、それを基にした内閣への政策提言や記者会見等を行っている。」

 Yさんのメールにも、ここに出てくる藤井聡京都大学教授や経済評論家の三橋貴明氏の名前が紹介されていた。そこで、こうした経済学者・評論家諸氏が判りやすく解説しているというYou Tubeをいくつか視聴してみた。

 それによると、Yさんの言うとおりの説明がなされていて、給付金の元になる国債購入に際しては、民間銀行は国民の預金ではなく、日本銀行が各民間銀行の日銀当座預金に用立てしたものからの支出(振り替え)で支払われるとのことであった。

 もっとも、この事は国債発行の実態を物語っているもので、MMTがどうこうということではないのだが。

 今回の給付金の元になる国債発行が、ここで言われているように行われているなら、確かに直ちに将来孫に付けが回るということはなさそうであり、Kさんや私の心配は杞憂ということになる。

 政府がこの国債を将来、税金で償還すれば、最終的には税金が原資ということになるが、MMTでの議論では、政府はいつまでも(借り換え)国債を発行し続けることで、あるいは日本銀行が国債を保有し続けることで税金から支出されることはないと主張しているのである。
 
 ただ、藤井聡教授、三橋貴明氏、中野剛志氏らによるMMTの解説内容は微妙に異なるものであり、十分な理解を得るには、他の文献等にもあたる必要があると感じられた。

 MMTは、ウィキペディアにもあるように、現在の国家債務を議論をするために出されたものという色彩が濃く、日本では昨年から特に話題になっていたようであるが、今回の新型コロナウィルスによる経済へのダメージを回避する目的で、さらなる国家債務が追加されるに至った今日、改めてMMTがインターネット上での話題として登場している。

 会社経営をしているKさんと、個人商店の私が受け取った「給付金」の出どころはどこか?、将来孫たちに付けが回るのではないか?、との疑問から始まった小さな話題であるが、MMTを通じて、国家債務とは何か、マネーとは何か、さらにはプライマリー・バランスを守ることが法により義務付けられているとされるが、その背景には何があるのかといった、とても大きな問題にもつながる話題であることが理解された。

 数年前になるが、すでに亡くなったNさんを中心に私たち大学の同窓生の間で国家債務問題が話題になったことがあった。

 「プライマリー・バランスを実現し、国債発行を減らすべきである、そうしないとどんどん増えていく債務残高は将来世代に大きな負担となる」といった意見と、「日本の国家資産は十分あるので、デフォルトの心配など全くない。日本の国債は国内で引き受けられているので、アルゼンチンのようなことにはならない」といったところが、当時の議論であったと思うが、そのころは未だMMTのことは誰も知らず、MMTが提示しているような明快な論拠は持ち合わせていなかった。

 もし、MMTを知っていれば、また違った形の議論になったのではないかと思えるのである。今後も、このMMTについてもう少し詳しく見ていこうと思う。

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2 コメント

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思いつくまま  (hakaru)
2020-06-26 14:41:09
はじめまして
軽井沢の自然や昆虫、また科学的な話題が丁寧に解説されており私には面白いです。MMTについては二つのことが気になります。「税金」と「時間軸」です。
・MMTが有効ならば、税金を徴収しなくてもよい。
・安定している国家ならば10年20年は大丈夫かもしれません。もっと長期の周期で考えると借りは支払う必要があります。MMTが論理的に成り立ったとしても国家の通貨や経済の信用は人々の気持ちの問題であり、不安心理が増幅したときに手に負えなくなる時期が来ると思います。歴史的にも直近70年ごとに債務の清算が終戦後と明治維新起きていますね。
追記、軽井沢のトンボがたくさん飛んでいる8月に行きたいな。
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閲覧御礼 (管理人)
2020-06-26 18:50:52
コメントありがとうございます。トンボのことについてはほとんど知識もなく、採りあげることは当分ないと思いますが、昨年でしたか、ショップに迷い込んだトンボがいて、居合わせた昆虫マニアの方が喜んで採集して帰るということがありました。ぜひお出かけください。
MMTについては、未だ勉強中でよく解っていません。給付金を頂いたので関心を持ちました。
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