軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

不思議なサークル

2024-02-09 00:00:00 | 軽井沢
 天気予報の大雪警報のとおり、関東地方にも久々の雪が降ったとニュースが伝えていた。長野市も、観測史上最多の2014年に並ぶ、10年ぶりの積雪となったようで、ここ軽井沢でも2日間で30cmほど雪が積もった。

 雪は5日の昼前から降り始めて、午後には次第に強くなっていった。夕方4時ごろになると、お向かいのご主人が主要道路からの私道部分の雪かきを始める姿が見えたらしく、妻が出て行って玄関先から表の道路周辺の雪かきを始めていた。

 2階でパソコンに向かっていて、ようやくこうした事態に気が付いたので、私も外に出ていき、妻と交替して自宅周辺の雪かきの続きを行った。この時は約15㎝ほど積もっていて、車はすっぽりと雪で覆われた状態になっていた。

 その後も雪は降り続いて、最後に車の雪を全部おろしてからそれを庭の隅に積み上げ終わったころには、先に除雪した玄関前の通路には再び数センチ程の雪が積もっていた。

 翌朝外に出てみると、昨日雪かきをする前と同じくらいの雪が降り積もり、玄関先から道路までは、再びすっかり雪に覆われ、車も同様、また雪の中にあった。

 雲場池もきれいな雪景色に変わっているだろうと思いながら、日課の朝散歩に出かけた。主要道路はすでに早朝から除雪車が通ったと見え、きれいになっているが、両脇の歩道部分は、通学路になっている片方は除雪されているものの、反対側は手つかずの状態になっていて、その上に道路から排雪された雪が積もっていて、長靴を履いていても、靴の中に雪が入り込んでくるので、歩道を歩くのを諦めて車道の端を歩いていった。

 雲場池に着いて見ると、入り口の小池は真っ白になっていた。この池は、もうだいぶ前から氷が張っていて、その上に小石や枯れ枝などが投げ込まれ、散乱していたのであったが、今は雪が降り積もったのですっかり隠れてしまい、真っ白くきれいになっていた。


全面が結氷した上に雪が降り積もった雲場池入り口の小池(2024.2.6 撮影)

 雲場池の傍には観光客らしい5人の若者がいて記念写真の撮影中であった。一人がカメラマンとなり4人が並んで写真を撮ってもらっている。中の一人が足元の雪を両手で掬い上げて、これを上空に向けて放り投げた瞬間を撮影していた。言葉の様子から中国系の観光客らしかった。

 彼らが横に移動したので、私はいつもの定点に立って雲場池の写真を撮ろうと柵に近寄ったところ、雲場池の表面は真っ白な雪で覆われているが、ところどころに雪が溶けた黒いサークルがたくさん目に入った。

雲場池に現れた不思議なサークル 1/10(2024.2.6, a.m.7:33 撮影)
 
 いつもこの場所では、スマホで先ず通常の撮影を行い、続いてパノラマ撮影をするのがルーチンである。

雲場池に現れた不思議なサークル 2/10(2024.2.6 撮影)

雲場池に現れた不思議なサークル 3/10(2024.2.6 パノラマモードで撮影)

 この後、池の周辺を歩きながら、水鳥などの撮影を行うのであるが、この日は、このサークルのことが気になり、池を1周しながら様々な角度からの撮影を行った。以下の様である。

雲場池に現れた不思議なサークル 4/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 5/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 6/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 7/10(2024.2.6 撮影)

雲場池に現れた不思議なサークル 8/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 9/10(2024.2.6 撮影)


雲場池に現れた不思議なサークル 10/10(2024.2.6 撮影)

 これまで、5年ほど雲場池の周辺を散歩しながら撮影を行ってきた。冬季期間も水鳥が増えるので、同様であったが、このように多くのサークルが出来ているところに出会った記憶はない。

 なぜ、こうしたサークルができるのだろうか、池の底からの湧水が影響しているのだろうか、あるいは時々見かけていたが、池の底から立ち上る泡が原因となっているのだろうか、それとも池底に棲息している生物が関係しているのだろうかなどと、池周辺を歩きながら考えてみたが、うまく考えがまとまらない。

 帰宅後、ネット検索で類似の画像を探したところ、よく似た円形のものや、放射状のものが見つかった。それによると、この種のパターンは「氷紋」と呼ばれていることが分かった。

 この話を、我が家の検索エンジンである妻にしたところ、早速いろいろと調べて、10年前の日本雪氷学会誌「雪氷」に関連論文が掲載されていることを見つけてくれた。次のようである。

解説:
結氷した湖面などに形成される氷紋
ー放射状紋、同心円氷紋、懸濁氷紋の生成過程ー
東海林明雄(とうかいりん あきお 北海道教育大学名誉教授)
日本雪氷学会誌「雪氷」、76巻5号(2014年9月)355-363 頁

要旨:
 「結氷湖面や池の氷面に降雪後、放射状氷紋、同心氷紋、懸濁氷紋と呼ぶ 3 種類の氷紋が現れる。こ れらの氷紋の形成メカニズムの研究は 20 世紀の初頭以来、世界中で行われ、多数の論文が発表されてきていたが、何れも推測された根拠に基づく理論ばかりで、確実なことは解っていなかった。筆者は 結氷湖面における観測と、その結果に基づく結氷湖面と低温室での氷紋人工生成実験により、その形 成の基本原理を解明した。つまり、氷紋は結氷面上に積雪がある時に氷に孔があき、氷の下の水が噴出することによって形成されるのである。放射状氷紋は、氷板上の積雪中を噴出水が雪を融かし、ヒトデ状または蜘蛛ヒトデ状の水路を作りながら拡散する時に形成される。同心円氷紋は、放射状氷紋のヒトデ状模様に多重の同心円が積み重なってできる氷紋で、この同心円は積雪板の陥没によってで きる。懸濁氷紋の形成原理は放射状氷紋と同じであるが、噴出水が懸濁粒子を含むことが生成条件で ある。これらの発見は、それまでに一世紀近く世界中で続いていた論争への解答となった。」

 当該論文によると、私が雲場池で撮影したサークルは、円形浸水斑とされるものによく似ており、形成メカニズムから、上記の3種の氷紋分類の中の、放射状氷紋の一種として説明されている。論文中の次の図にこうした氷紋の生成メカニズムと分類が示されている。

 
氷紋が生成されるメカニズムを示す図(日本雪氷学会誌「雪氷」、76巻5号 p361より)

 要旨と重複するが、この論文では、氷紋の生成プロセスを本文中で次のように説明している。

 「氷紋形成の条件は、・・・整理すれば次のようになる。 結氷の上に雪が積もり、氷が雪の重みで水中に押されて、水位が結氷の表面を越しているとき、 何らかの原因による孔が結氷板にできると、この 孔から氷板の下の水が噴出する。噴出水の温度 は、一般に摂氏プラス数度の比較的高い温度であ る。従って、噴出水は噴出口付近の雪を融かす。噴出水は雪を融かして氷板上の積雪中に水路を形成しながら放射状に流れて、(上図の下左端に示すような)模様が でき上がる。・・・」

 なるほどと、よく理解できる説明である。では、池に張った氷に孔ができるのはどのような理由によるのだろうか。論文には、この氷紋噴出孔についての説明もなされている。

 「氷紋噴出孔の生成原因として、まず、結晶の三叉境界の融解があげられる。氷板の氷は多結晶なので、三つの単結晶が接する三叉境界が存在する。氷板を零度に保つならこの三叉境界で氷が融解し、孔ができることが解っている。・・・
 この他に、氷紋の噴出孔には、氷板の割れ目、湧水や湖底からのガスの噴出による、湖水の対流等の原因によるものがある。・・・」

 私が、散歩中にぼんやりと考えていた湧水や泡なども理由の一つとして考えられているようである。雲場池に現れた氷紋の場合、こうした理由のどれに該当していたのだろうか。

 普段、水温が高く結氷することのまれな雲場池の様子を見ている私には、もう一つ別の可能性も思い浮かんでいる。それは、「結氷」➡「降雪」➡「噴出孔形成」の順序ではなく、「降雪」➡「部分結氷」という順序の可能性はないだろうかということである。

 先に雲場池が全面結氷しているところに雪が降り積もったのではなく、大量の雪が降ってきたために、池表面に雪が層状に浮かび、これが凍り始めたのではないか。その時、池の底から泡などが上り、微小な対流が起きることで、池表面にやや温度の高いスポットがあるとすれば、この部分に降った雪はすぐに溶けてしまうので、氷が張ることはない。従って噴出孔形成というプロセスを考える必要もない・・・。 

 そんなことを考えているうちに、この日の雪は6日午後には止んで、それ以上積もることはなかった。翌朝は青空も広がり、道路の雪もだいぶ解けて、黒い地面も見えるようになってきた。

 前日見た雲場池の不思議なサークル「氷紋」は、どうなっているだろうかと思いながらいつもの朝散歩に出かけたところ、雲場池は普段通りの景色にもどっていて、池の氷は完全に溶け、氷紋も跡形もなく消えてしまっていた。

氷が解けていつもの状態に戻った雲場池(2024.2.7 撮影)

 氷紋のその後の変化の様子が見られるかもしれないとの期待は残念ながら外れてしまった。
 
 次回、もし同じような現象が見られたら、その時はもう少しこまめに観察してみたいものと思う。

 尚、参考までに氷紋が出現する前日朝の雲場池の様子を示しておくと、次の様である。池に氷は張っていなかった。


氷紋が発生する前日の雲場池(2024.2.5 撮影)



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