軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ガラス工房とレースガラス

2017-03-24 00:00:00 | ガラス
 かつての仕事仲間であり、大学研究室の後輩でもあるKさんの紹介で、富山市にある3つのガラス工芸関連施設を訪問する機会を得た。その3か所は、富山市ガラス美術館、富山ガラス造形研究所と富山ガラス工房である。

 10年位前この富山市に旅行したことがあり、市がガラス工芸に力を入れていることを感じていた。富山駅周辺の地下道のショウ・ウインドウなどには美しいガラス工芸作品がたくさん展示されていて、力の入れ方が伝わってくるものであったからだ。

 今回訪問時にも、夜、街に出てみると街角のあちらこちらに次のような展示を見かけることができた。


夜間照明で美しくライトアップされた街角のガラス工芸作品(2016.12.20 撮影)


展示作品の下部にはガラスの街富山をアピールする表示がある(2016.12.20 撮影)

 10年ほど前のこの印象はしばらくは封印されていたのだが、3年前に軽井沢に移住を考え、住まいを新しく建てようということになった時、妻と相談をしてそのテーマに、ガラス、蝶、スミレ、野鳥を選び、これらに沿って家の中のあれこれを選ぶ作業を始めた。

 情報収集の一環として、横浜山手、神戸北野地区、弘前、函館などに残されている明治から昭和初期に建てられた洋館を見て回るうちに、ステンドグラスや、照明器具に使用されているガラスシェードの持つ時代を感じさせる美しさに関心を持つようになった。

 また、ガラス食器の専門店やアンティークショップで繊細なカットやエッチングが施されたワイングラス、先に訪れた洋館で見た実用的なガラスシェードに比べるとより装飾的な要素が取り入れられたガラスシェードなどを見て、こうしたガラス工芸技術にも関心が湧いてきていた。

 今回富山市近くに所用ができたこともあり、富山市がガラス工芸に力を入れていることを思い出して関連施設への訪問となった。

 富山市には一泊の予定で出かけたが、初日に美術館を訪ねた。この美術館は富山駅から徒歩20分くらいの場所にあるが、我々は市内電車環状線を利用して、美術館近くにとった宿にまずチェックインしてから現地に向かった。美術館は「TOYAMAキラリ」という富山市立図書館などが入居する複合施設内にあり、2015年(平成27年)8月に開館したばかりである。

 建物は世界的な建築家、隈研吾氏の設計によるもので、御影石、ガラス、アルミの異なる素材を組み合わせたユニークな外観と、富山県産の羽板を多用した開放的な内部空間を持つものであった。


富山市ガラス美術館がある「TOYAMAキラリ」の内部(2016.12.20 撮影)

 3階の作品展示室からスタートし、ここには中学生の団体が見学に訪れていたのだが、これら多くの学生に混じって、様々な技法を駆使して作られた作品、ガラスにおける光の透過・屈折・反射などの性質や色を巧みに利用して見せる作品などを見学した。

 また、ここには翌日訪問予定の「富山ガラス造形研究所」の学生さんたちの個性あふれる卒業制作作品も展示されていた。

 見学後、2階のミュージアムショップでは不思議なレース文様を内部に閉じ込めた「レース・ガラス」の技法を用いて作られた箸置きを見つけてお土産に購入した。


不思議なレース文様が内部にある「レース・ガラス」でできた箸置き

 翌日は午後に所用があるため、午前中の時間帯を利用して、富山市の中心部から少し離れた場所に互いに隣接して位置する「富山ガラス造形研究所」と「富山ガラス工房」を訪問した。


富山ガラス造形研究所の玄関(2016.12.21 撮影)


富山ガラス造形研究所の建物(2016.12.21 撮影)


富山ガラス工房・第2工房(2016.12.21 撮影)

 すでに冬休み期間に入っているのではと危惧していたが、富山ガラス造形研究所の作業所では電気炉が稼動していて、指導教官や学生さん達が吹きガラスの作業や研磨、カットなどの作業をしているところを見学した。海外からきている指導教官の姿も見られ、海外との交流も盛んに行われていることが感じられた。

 第2工房は広く一般に開放されていて、吹きガラス、ペーパーウエイト、サンドブラスト、ミルフィオリなどを体験できる。当日は近隣の小学生がひとクラスほど実習に来ていて、指導員の指示に従って一生懸命吹きガラスなどの作業をしたり、電気炉を使って熱心にペーパーウエイトの加工に挑戦している姿が見られほほえましかった。

 その後、ガラス工房の本館に案内していただいたが、ここには作業場を窓ガラス越しに見学できるコーナーがあり、この窓の上部に昨日おみやげに買った「レース・ガラス」の制作工程が図示されていた。

 あの不思議な構造をした工芸ガラスの内部構造を作りだす過程が、この説明でようやく理解できた。

 帰宅後いくつかの本にあたり、「レース・ガラス」の歴史を読んでみたが、この技法は16世紀後半にヴェネツィアのムラーノ島の工房で発明されたもので、ヴェネツィアのガラス職人の秘法中の秘法であったらしい。

 当時のヨーロッパ上流階級で大人気になり、なんとかこの技法を入手したいとの各地の人たちの思惑もあり、工房の職人の引き抜きや、技術を盗み取ろうとするスパイの動きもあったようだ。

 先端技術分野では今も昔も変わらぬことが行われていたようである。

 尚、レース・ガラスはその文様の違いに応じて、平行細線文様(ア・フィーリ)、平行細線をネット状に組み込んだ網目文様(ア・レティチェロ)、種々に捩れた細線の束を組み込んだ捩れ文様(ア・レトルトーリ)の3種類に分けられ、一括して「フィリグラーナ」あるいは「ラッティチーニオ」と呼ばれるとのこと。

 その「ア・レトルトーリ」の技法を用いたムラーノ工房製のレース文様皿を妻がネット・オークションで見つけて、手に入れてくれた。直径20cmくらいの皿である。さすがに制作年代は16世紀とはゆかず、1900年中頃のものである。


ムラーノ島製のヴィンテージ・レース・ガラス皿(2017.2.22 撮影)


3種類のレース文様が組み合わされていることがわかる(2017.2.22 撮影)


レース・ガラス皿の中心部分(2017.2.22 撮影)

 今回工房を訪問して理解したところによると、「レース・ガラス」の制作は大きく次の3工程に分かれる。

1.着色ガラス(上掲の皿では乳白色)を芯にし、そのまわりに透明ガラスを被せ、これを延伸したロッド(棒状)の素材を作る工程。

2.このロッドを別の透明ガラス棒の周りに複数配置してなじませた後、これをねじりながら延伸してレース文様の素になるレース棒を作る工程。

3.複数種のレース文様のレース棒を組み合わせて(上掲の皿では3種)板状に並べ、互いに融合してから吹きガラス棒に取り付けて、皿、グラス、コンポートなどの形状に成型する工程。

である。

 説明を読むとなるほどとなるが、制作された作品の外観からこれを推察するのは容易ではなく、16-17世紀のガラス加工職人がこの技法をめぐり繰り広げた騒動が想像されてなかなか楽しい。

 写真のレース・ガラス皿に用いられている3種類のレース文様を上記工程に当てはめると、およそ次図のように作られていることになる。厳密なものではもちろん無いのだが、基本的な設計概念である。


レース・ガラス棒製作の基本概念図


レース・ガラス皿に用いられているパターン1のレース・ガラス棒制作の概念図


レース・ガラス皿に用いられているパターン2のレース・ガラス棒制作の概念図


レース・ガラス皿に用いられているパターン3のレース・ガラス棒制作の概念図

 今回の富山のガラス工芸作品と制作技術、制作工程を巡る旅でガラス工芸の世界を垣間見ることができたが、帰宅後調べるにつれこの世界がとても古い歴史を持ち、幅広く、ガラスならではの素晴らしい工芸の世界を持っていることが判り大いに勉強するきっかけになった。








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