軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

オオルリシジミ戻っておいで

2024-06-14 00:00:00 | 
 2024年6月8日の購読紙の地域面に、表題の見出しの記事が掲載された。サブ見出しには、「絶滅危惧種 上田の児童 エサの多年草 植樹」とある。

2024.6.8 読売新聞 地域・長野面の記事から

 記事を読んでいくと、「上田市のワイン用ブドウ畑『椀子(まりこ)ヴィンヤード』に、市立塩川小学校の5年生がマメ亜科の多年草『クララ』を植樹する活動を続けている。」とあり、2021年から同校の畑でクララを育て始め、翌年に移植する作業を続けていて、今年で3回目となるという。

 オオルリシジミについては、当ブログでも紹介したことがあり(2022.5.27 公開)関心をもって記事を読んだ。
 
 記事によると、オオルリシジミは、「約20年前までは上田市でも目撃された例があったが、現在では自然個体群は椀子から約4~5キロ離れた東御市に生息している」とされる。

 その東御市でも、一度は絶滅状態となっていたが、地元産の累代飼育個体があったことから、「北御牧村のオオルリシジミを守る会」が発足し、2002年から本格的に保護増殖活動が始まり、食草であるクララの保全と栽培による増殖、累代飼育個体の増殖と野外への放蝶による自然発生に取り組み、現在では順調に野外での発生が継続するまでに回復している。

オオルリシジミを天然記念物に指定している東御市のHPから

 今回の小学生の取り組みは、この東御市の成功例に習って行われているものと思うが、ぜひ、クララの増殖を順調に進めて、次の目標のオオルリシジミの自然発生にまでたどり着いてもらいたいものと思う。

 改めて、手元にある「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄 著、 2014年信州昆虫資料館発行)を見ると、上田市内でのオオルリシジミの目撃記録は次のようであり、ここでも1986年が最後であることから、この本が発行された2014年までの30年ほどは記録が途絶えていたことになる。

 1973.6.10 上田市小牧山 
 1981.6.24 上田市芳田
 1981.6.27 上田市芳田
 1986.5.27 上田市芳田
 1986.5.31 上田市芳田


「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄 著、 2014年信州昆虫資料館発行)のカバー表紙

 新聞記事をもう少し読み進めると、次のようである。

 「5月24日、青空の下で同校の5年生18人が校舎内の畑で昨年から育ててきたクララを16苗、スコップを使って丁寧に周辺の土とともに掘り起こし、カップに移した。その後、車で5分ほど離れた椀子ヴィンヤードに向かい、ワイン畑近辺の草地に植え替え、水やりをした。植樹をした寺西慧悟君(10)は『植えるのが楽しかった。クララが育って、オオルリシジミが来てくれればいいな』と声を弾ませた。・・・これまでに計約70苗を植樹してきた。キリングループ傘下のワイン製造大手メルシャンが椀子ヴィンヤードを運営していることや、上田市と同グループが19年に包括連携協定を結んだことが縁で始まった。
 この日は椀子ヴィンヤードの生態系の調査を続ける農研機構西日本農業研究センター研究員の楠本良延さん(53)が、同校でクララとオオルリシジミをテーマにした特別授業を行った。
 このワイン畑がこれまで養蚕地として利用されてきたが養蚕産業の斜陽化に伴い、放置され荒廃地となったことや、クララが草原を保全するためのアイコンとして重要な植物であることなどを説明。楠本さんは『ワイン産業を通じて草原が保全されていることの大切さを知ってほしい』と訴えた。
 オオルリシジミは瑠璃色の羽が特徴のチョウで、草原に生息する。野生の『自然個体群』は主に九州・阿蘇地域で見られ、本州では県内の一部地域でのみ観察されている。・・・」
ヴィンヤードに囲まれた丘陵地にある椀子ワイナリー(2024.6.12 撮影)

 自然豊かな信州地方と思われがちであるが、そこでも自然環境の変化は進んでいて、多くの野生生物が絶滅に追いやられている。小学生がそうした環境変化と生態系の変化に目を向けて、関心を持ち、行動することはとても大切なことだと思う。

 先の本「信州 浅間山麓と東信の蝶」で紹介されているチョウの保護活動の記事や、私の聞き知ったチョウの保護活動には次のようなものがある。

1.オオルリシジミ:信州の初夏を代表するチョウであるが、近年土手の草刈りが機械化され、さらに幼虫の餌となるクララの薬草としての価値も無くなってきたため、一辺倒に刈り取られるようになり、生息域は急速に減少した。東御市などの生息地は、一時絶滅状態となったが、チョウ愛好家が中心となり、元生息地の生育環境を地元のみなさんとともに整備したうえで、累代で飼育していた個体を現地に放す活動を続けている。現在、放チョウした個体は、現地に定着し世代を繰り返すまでに復活した。昆虫愛好家と地元住民のみなさん、さらには行政が見事にスクラムを組んだ素晴らしい成功例である。

2.ミヤマシロチョウ:かつてシナノシロチョウとも呼ばれた信州の高原を代表するチョウ。主な生息環境は標高1500~1800mの明るい渓流沿いや疎林環境で、森林化など環境変化の影響を受けて1970年代以降急激に生息域が消滅した。
 現在、八ヶ岳南部、美ヶ原、浅間山系の一部でかろうじて命脈を保っている。浅間山系でも安定した生息域が数か所から1か所に減っている。
 湯ノ丸高原では、2009年に、ミヤマシロチョウについて早急な保護対策が必要との機運が高まり、翌2010年に会員35名で「浅間山系ミヤマシロチョウの会」が発足。環境省、林野庁、長野県、東御市、日本チョウ類保全協会などの支援も受けて長野・群馬両県に跨っての保護活動が始まり、生息環境や食樹の保全、密猟防止パトロールや観察会、越冬巣モニタリング調査を行っている。
 その結果、この地域では個体数が維持されているという。

 他方、絶滅が懸念される八ヶ岳を念頭においての取り組みと思われるが、各地域のミヤマシロチョウの遺伝子解析を行い、再導入の検討も進められている。


ミヤマシロチョウの再導入を検討する長野県環境部のプレスリリースから(2022.3.23 公表)

 その八ヶ岳周辺のミヤマシロチョウについては、保存活動が行われてきたが、2023年に解散との報道があった。次のようである。
 「ミヤマシロチョウの会、解散へ 茅野・15年の歴史に幕 八ケ岳で絶滅状態『やれることやった』 
 高山チョウの一種・ミヤマシロチョウ発見の地である八ケ岳で、調査や保護活動をしてきた『茅野ミヤマシロチョウの会』(事務局・長野県茅野市)は3月末で解散し、15年の歴史に幕を閉じる。数年前から姿が見られず絶滅状態と考えられることに加え、会員の高齢化が理由。福田勝男会長(81)は『いなくなった最大の理由は地球温暖化だと思うが、我々に手の打ちようがない。やれることはやった。解散は仕方ない』と話す。(2023.3.15 長野・毎日新聞)」

3.アサマシジミ:東信地方でも各地の草地・草原で多産したが、1980年代から急速に減少し、消滅した産地も多い。現在(2014年)は確実な産地も数える程度となっている。環境省版レッドリストで絶滅危惧種Ⅱ類、長野県版では準絶滅危惧種に区分されている。

 御代田町では昭和49(1974)年に、このアサマシジミを天然記念物に指定している。もう随分前の指定ということで、現在どのような状況にあるか、問い合わせてみたところ、次の回答をいただいた。

 「お問い合わせいただきました町天然記念物アサマシジミについてですが、生息数の確認や生息地域の保全についは、具体的な取り組みは行なっておりません。・・・御代田町教育員会 博物館係(2024.6.12) 」

    
「みよた広報 やまゆり」より

 御代田町でのものではないが、周辺3地域について、「信州 浅間山麓と東信の蝶」のアサマシジミの採集・目撃記録では次のようである。

 1972.6.18 軽井沢町追分
 1972.7.16 小諸市浅間山
 1977.7.15 軽井沢町追分
 1982.7.2   佐久市内山
 1994.7.17 小諸市菱野
 2006.6.25 小諸市
 2008.6.28 小諸市
 2008.8.9   小諸市
 2009.8.27 小諸市
 2013.7.13 小諸市

4.ミヤマシジミ:長野県では分布に濃淡があり、・・・平地から低山地にかけて比較的広く分布している。かつては多産地も数多く存在したが、近年は長野県でも減少傾向が著しく、保全対象として注目されている。
 東信地方でも千曲川の河川敷や里山の草地環境などでよく見られたが、里山農地周辺を中心に減少、消滅した産地が多い。環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類、長野県版では準絶滅危惧種。

 このミヤマシジミについては、小諸市滋野にある、蝶の里山会「ミヤマシジミを守る会」が食樹のコマツナギを植え、保存活動を行っている。 

 前出書の採集・目撃記録を見ると、小諸市周辺の記録は次のようである。

 1972.6.18 軽井沢町追分
 1973.7.25 軽井沢町追分
 1980.6.22 軽井沢町追分
 1981.6.21 小諸市井子
 1981.6.27 小諸市井子
 1982.7.11 軽井沢町追分
 1993.6.20 小諸市井子
 1995.8.15 佐久市
 1995.9.3   軽井沢町追分原
 1996.6.16 軽井沢町追分原
 2001.9.17 小諸市
 2010.6.13 小諸市
  
5.クロツバメシジミ:特異な離散的生育分布を示す種で、東信地方では比較的広範囲に生息し、地域変異の研究のため各地で調査されている。河川の護岸、石垣などで見られ、改良工事などの影響を受ける場合があるが、全般的には個体数の目だった増減は認められない。環境省版レッドリストで準絶滅危惧種、長野県版では留意種に区分されている。
 上記の小諸市滋野の、蝶の里山会では食草のツメレンゲの増殖を図り、クロツバメシジミの保存活動も行っている。

 小諸市周辺の、前出書の採集・目撃記録は次のようである。

 1994.5.13   望月町
 1996.10.6 小諸市
 2003.7.1   小諸市
 2010.7.21 東御市

 この、蝶の里山会のM氏は、地元小学校の生徒たちと一緒に、チョウの飼育・観察を行っていると聞く。

  我が家でも、チョウの食草や食樹を植え、吸蜜できる草木を植えてチョウを呼び寄せてはいるが、点でしかなく、チョウの増殖には程遠い状況である。時には卵を採集して、幼虫の成長記録を観察・撮影しているが、これも記録をとっているに過ぎない。

 できることなら、軽井沢から消えてしまった種を再び呼び戻したいと思うが、事はそう簡単ではない。

 チョウを卵から育ててみると判るが、寄生バチや天敵による捕食から守ることで、羽化率は飛躍的に増大する。数世代の飼育を行うことで個体数を大きく増やすことができる。

 今年は、ウスバシロチョウ(ウスバアゲハ)の特異な生態の観察・撮影をしようと計画し、先日♀2頭を捕獲して、飼育ケースで蜜を与えながら様子をみていたところ、中に入れてあった枯れ枝に20数個の卵を産み付けた。

 その後、この♀2頭は再び野に放したが、得られた卵は来年2月から3月には孵化(実際には卵の中で孵化したまま越冬するとのこと)するはずなので、その様子を撮影したいと思っている。食草のムラサキケマンは自宅庭にある程度生育している。

 このウスバシロチョウは、まだ自宅周辺にも飛来するなど、個体数は維持されているようであるが、アサマシジミなどはもう見られなくなってしまっている。

 上田市の小学生が取り組んでいるように、先ずは植樹を行い、チョウの生育環境を整えることで、希少種のチョウを再び呼び戻す第一歩を踏み出せる。子供たちの始めた活動に刺激され、多くの大人たちと共にこうした保全活動の輪を広げたいものと思う。

 
 


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