仕事の合間にYouTube を見ていたところ、偶然、音楽コンクールの様子を紹介するものに出会った。
特に音楽に興味があるわけではないが、何かしら関心を惹く文章表現があったようで、しばらく見てしまった。
このコンクールは2019年にモスクワ・ロシアで行われたものとのことで、その中に日本からの参加者が1名含まれているという。コンクールの名称は「シェルクンチク(くるみ割り人形)国際音楽コンクール」という。
このYouTubeでは、コンクールの内の弦楽器部門の様子を伝えていて、全部で16人が登場する。最初の出場者はロシアの13歳の女子で、チェロ演奏であった。
審査員は3人。各審査員は最高12点の点数を出場者に与え、最高点は36点ということになる。最初の出場者の点数は10点x3人で30点であった。2番目はロシア人の女子10歳のバイオリン演奏で、評点は32点。3番目はアゼルバイジャンの女子12歳で28点。4番目はエジプトの女子12歳で30点、5番目はロシアの女子11歳で30点、6番目は優勝候補の一人と目されるオーストリアの女子13歳で、昨年も出場し高い評価を受けていたとされ、結果は満点の36点であった。
続いて7番目に登場したのが、日本人の女子で当時8歳の吉村妃鞠さん。演奏曲はサラサーテ「チゴイネルワイゼン」で、音楽に疎い私でも知っている曲である。
演奏が始まってすぐに、強い感動に包まれ、これまでの出場者には無かったものを感じた。
審査員も同様であったようで、最初オヤ!という表情を浮かべていた審査員の一人は次第に真剣なまなざしに変わっていった。中央にいる審査委員長も、途中で右隣の審査員の方に顔を向け、何やら同意を求めるようなしぐさである。
8分ほどの演奏が終わるころには、審査委員長は身振り手振りをはじめ、身を少し乗り出していた。演奏が終わると拍手が鳴りやまず、アンコールを求める風であった。
審査結果は36点満点であり、各審査員からは次のような言葉が述べられた。YouTubeで日本語訳が流れていたので、そのまま紹介する。
審査員1:「正直に言います。私は今とても感動しています。13があれば13を挙げたいです。この素晴らしい才能は伸ばしてあげる必要がある。こんなハイレベルな演奏は今まで見たことがありません。この年齢でこんな高いレベルに達している。間違いありません。これは私が望んでいた才能です。あまりプレッシャーを感じないでください。本当のことですから。」
審査員2:「私も13を挙げたい。ですが13という数字は縁起が悪い。とにかく彼女の存在を神に感謝します。素晴らしいテクニックと信じられない程のミステリー。彼女がどのようにこれ程までに自分を成長させたのか。ひまりさんはすでに完成された音楽家であり、アーティストです。間違いなく彼女は素晴らしいアーティストです。彼女は類まれな才能を持ち、真の音楽家と言えるでしょう。」
審査委員長:「ひまりさんの演奏に耳を傾けると、技術的な側面を彼女の音楽の世界に深く引き込まれる瞬間があります。彼女は音楽そのものと共に生きているようで、その感覚が直接伝わってきます。本当に唯一無二のユニークな才能です。この少女の超越的な才能と卓越した技術は注目に値しますが、それだけでなく彼女の演奏の優雅さや信じがたい完成度の高さにも私たちはただ驚くばかりです。彼女は間違いなく順調に成長していくでしょう。想像もつかないほどの巨大な可能性を感じます。ありがとう。」
このあと、ひまりさんに続いて9人が演奏を続けたが、満点者は出なかった。
私には、3名の審査員の言葉もまたとても素晴らしいものに思えた。
この日帰宅後、もう何年も聞くことの無かったレコードを探し出して、チゴイネルワイゼンを聞いてみた。これは母が遺していたクラシックレコード100枚の中の1枚に含まれていて、バイオリン演奏は海野義雄さん、ピアノ伊達純さん、森正指揮 CBS交響楽団によるものである。
海野義雄さんは軽々とこの難曲を弾きこなしているように感じ、ひまりさんの演奏とはまた一味違ったものであった。しばらく、クラシック音楽を聞く日々が続きそうである。

チゴイネルワイゼンのレコードカバー(写真は海野義雄さん、CBS SONY)