世界の街角

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サンカンペーン陶磁の蛍光X線分析・(1)

2017-02-21 08:00:38 | 北タイ陶磁
ことの始まりは、ブログ『の~んびりタイランド2』の2014年11月24日の記事『東南アジア陶磁博物館の再開記念式典』からである。そこには最近のサンカンペーンの後絵盤が紹介されていた。当該ブロガーが保有する昆虫文盤が該当しそうである。
一般的な後絵は低火度化学顔料で、その発色にはムラがなく均一な色彩で黒味がかり、洩れなく釉上彩(上絵)である。従って絵付けの上には、釉薬の光沢はない・・・と云うことで、昆虫文の盤はそれとは異なり釉下彩でいわゆる”ダミ”の濃淡もあり、本歌の可能性は70-80%程度であろうと紹介してきた。しかし、本歌と同じように高火度顔料で、”ダミ”を見せる後絵が存在することを完全否定することは、できないと考えられる。そこで科学的年代測定が必要となる。
年代測定の仕方である。C-14年代測定法が比較的簡便であるが、陶磁器に炭素を含有しないので、それを用いることはできない。そこで熱ルミネッセンス法を用いることになる。
幸い松江に分析業者が存在するので尋ねると、陶磁器の履歴が分からないため、「年間線量」を正確に求めることはできない。そのため16世紀か、ほぼ現代かの区別は可能であるが、正確な年代を求めることはできない、とのことであった。また、分析試料を採取するために、10×10×5mm程度の体積を削り取る必要がある、とのことである。しかも分析料金は25万円+消費税であり、料金もさることながら破壊検査ではどうしようもなく、諦めた経緯がある。
そこで考え付いたのが、基準(間違いなく本歌である)陶磁をさだめ、確認したい陶磁との成分(元素)組成比較である。その分析を鉄絵部分と素地(胎土)部分で行い、データを基準陶磁と比較しようとするものである。しかし、この方法も変量が多く、サンカンペーンの窯場の数も多く、かつ焼成期間が長く、(つまり膨大な資料数であることから・・・)今回分析する5点では、期待するようなデータが得られるとは限らない。
とは云え、他に適当な方法も見当たらないので蛍光X線分析を行うことにした。検査機関は島根県産業技術センターである。
分析者は分析官のY氏である。分析対象物は下写真の5点とした。基準としたのは写真中央の麒麟文の見込み陶片である。
麒麟文の筆致は技巧的でプロの仕業と思われる。写真を見てもわかるように焼成中に気泡が膨らみ、見込みと高台にコブができている。このような盤はサンカンペーンの一つの特徴で10-20枚に1枚程度の確率で目にすることができる。

数カ所にコブを見ることができるが、上写真の右側に大きなコブがあるのを、御覧頂けると思われる。まさかこのような陶片に、後絵をして打ち捨てたとは考えられないことから、これを比較対象の基準とした。次回から各盤の分析結果を紹介する。



                                   <続く>