とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

『三四郎』読書メモ②「汽車の女」

2023-08-06 10:04:34 | 夏目漱石
 夏目漱石の『三四郎』の読書メモの2回目。

 私がこの小説の一番印象に残るのは、最初のシーンです。ここである女と知り合いになります。田舎のお光さんと比べて、
「ただ顔だちからいうと、この女のほうがほど上等である。口に締まりがある。目がはっきりしている。額がお光さんのようにだだっ広くない。なんとなくいい心持ちにできあがっている。」
と三四郎の好みの顔のようです。

 この女の素性が本人が近くにいるじいさんへの語りから見えてきます。
「子供の玩具はやっぱり広島より京都のほうが安くっていいものがある。京都でちょっと用があって降りたついでに、蛸薬師のそばで玩具を買って来た。久しぶりで国へ帰って子供に会うのはうれしい。しかし夫の仕送りがとぎれて、しかたなしに親の里へ帰るのだから心配だ。夫は呉にいて長らく海軍の職工をしていたが戦争中は旅順の方に行っていた。戦争が済んでからいったん帰って来た。まもなくあっちのほうが金がもうかるといって、また大連へ出かせぎに行った。はじめのうちは音信もあり、月々のものもちゃんちゃんと送ってきたからよかったが、この半年ばかり前から手紙も金もまるで来なくなってしまった。不実な性質ではないから、大丈夫だけれども、いつまでも遊んで食べているわけにはゆかないので、安否のわかるまではしかたがないから、里へ帰って待っているつもりだ。」
 夫に何かあったらしい。

 当時の汽車の旅は簡単ではない。名古屋で乗り換えのようですが、その日は名古屋が終点のようです。つまり名古屋で一泊しなければなりません。女は三四郎に宿に連れて行ってくれと頼みます。三四郎は承諾し、駅前の宿を探す。見つかった宿に入ると二人連れのように勘違いされ、一緒の部屋に泊まるはめになります。なんだか怪しい展開ですね。風呂に行くと女も風呂に入って来る。背中を流しましょうかと聞いてくる。三四郎はあわてて風呂を出る。蒲団を敷くとき、蚊帳がかけられており、狭いので蒲団1枚しか敷かない。困ってしまった三四郎でしたが、なんとかその夜を何事もなく切り抜けます。

 次の日、女とは違う汽車に乗る。駅でお別れだ。その時女が、「『あなたはよっぽど度胸のないかたですね。』と言って、にやりと笑」うのです。ドキドキの展開でした。

 この女は後で美禰子と重ねられていきます。美禰子もまた三四郎に対していわゆる「上から目線」で接します。三四郎も男として度胸をみせようとしますが、やはり美禰子にひるんでしまいます。これは田舎者の劣等感なのでしょうか。それとも男の持つ劣等感なのでしょうか。いづれにしても多くの男性はリアリティを感じるのではないでしょうか。
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