とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

夏目漱石「野分」の気になる表現

2021-04-07 05:43:42 | 夏目漱石
 前回、夏目漱石が近代小説の「文体」を発明したということを書きました。

 その意味で「野分」の文体を見てみると、気になる表現がいくつか見られました。

 八章、道也先生のセリフに次のような個所があります。(新潮文庫では216ページ)
「今日は一寸上野の図書館まで調べ物に行ったです。」
 この中の「行ったです」は現在いいません。「です」の接続が不安定だったことがわかります。

 十一章のセリフ。
「いやに睨めるじゃねえか。」
 この「る」は古典文法で習う、完了・存続の助動詞「り」です。近代小説では使われなくなったものが、会話文では残っていることがわかります。

 また、次のセリフ。
「この風にどうして出てきたろう。」
の「ろう」の接続も今と違います。

 このようにまだ近代の口語文体が揺れていたことがわかります。ただし、これらはすべて会話文の中です。これをどう解釈すべきかはもっと考えてみる必要があります。

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1 コメント

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Unknown (YOKO)
2021-04-07 17:11:30
面白い着眼ですね!今まで明治時代だし…とあまり気にもとめずに読み流していました。漱石と同年代の岡本綺堂の小説も会話文のところに今使わない表現が多いと感じていました。
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