新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

6月1日 その2 昔は良かったね

2021-06-01 14:16:07 | コラム
Things ain’t what they used to be.:

昨日、YouTubeでBGM代わりに流してハンク・ジョーンズのピアノトリオの1曲目が、この見出しのDuke Ellingtonの息子のMercer Ellington作曲の懐かしき大ヒット曲だった。見出しの「昔は良かったね」は我が国で発売されたアルバムに使われていた邦訳である。私ならば「世の中すっかり変わっちゃったね」とでもしたかも知れない。この“ain’t”にはワードの仕業で早速赤線が引かれてしまったが、この文法無視の表現は後ほど解説することでご理解を。

思い起こせば1994年1月末でW社からリタイアし、2013年8月に80歳で仕事を辞めてから2021年で88歳に達して、現実の世界から遠ざかってしまったところに、昨年からのCOVID-19の襲来で、実社会から日を追って遠ざけられてしまったのは仕方がないし、残念なことだが諦める他ないと受け止めている。

先頃も述べたことだが、家内にその悪ふざけで毛嫌いされている高田純次の「じゅん散歩」で、都内や近県を回って歩く番組は実は「すっかり変わってしまった」としか言いようがない東京都内の都心の風景や、高層マンションが林立する郊外の様子を見せてくれるので、この世の移り変わりを知ることが出来る誠に貴重な有り難い番組だと思って愛視している。

つい先日だったか日本橋界隈の変貌の様子を見せて貰えたが、今あの中央通り沿いの町並みに中に放り出されたら、陳腐な言い方をお許し願えば「ここは何処?私は誰」状態になってしまうことは疑いの余地はないだろう。実際に昨年だったか地下鉄銀座線の京橋の駅から地上に出て、通りすがりの人に「明治屋はどの方角で?」と訊いてしまったほど京橋界隈は変化していた。東京駅の丸の内北口から大手町にかけても、知らない都市に来た感覚だった。

こんな事は未だ生易しい方だと思う。テレビや新聞や経済雑誌などに飛び交っているSDGだのDXだの何のというアルファベットの略号や、オンラインだのテレワークだのワーケーションだのというカタカナ語などは、多少は意味が解るとは申せ「こんな時代になってしまったのでは、この俺が今頃新社会人にならなくて良かった」と痛感している。尤も、そう言ったら「君が老化したからそう感じただけで、現代に生を受けていれば何ということなく付いていけるさ」と慰められた。

ここで国外に目を向けてみよう。長い年月お世話になったアメリカ合衆国は、5年前だったかにドナルド・トランプ氏が大統領に就任されてからの4年間に、私が慣れ親しんだと思っていたアメリカは何処かに消し飛んで行ってしまったのではないかと思ったほど変貌したように感じている。しかも、怖い物見たさで3度もパック旅行で見物してきた中国は、経済的に大発展を遂げつつあるとは認識できたが、その度合いも未だ跛行的だと見ていたにも拘わらず、習近平の登場以降は我が国も含めて自由主義世界にとっては経済的にも軍事的にも最悪の脅威に成り遂げて見せてくれた。

1997年1月に華僑資本のシンガポールに本拠を置くシナルマス財閥が運営する、インドネシアの言わば世界最新鋭の製紙工場の超近代的な設備を見た時には、驚きよりも恐怖を感じたのだった。これなどは現代では寧ろ新興勢力の方が世界最新鋭で最高の能力を発揮する設備を導入できるのだという事を、思いきり学ばせられたのだった。しかも、最大の皮肉だと痛感したことは、そのインドネシアの世界最新鋭の設備は、三菱重工の製品だったという事。我が国やアメリカの旧式の設備と比較すれば、その能力は陳腐な表現だが「天と地」の差があった。

要するに「昔は永年鍛え上げた経験や勘と努力」で物造りをしてきたアナログの時代しか知らない我々には出来なかっただろう「デイジタル化」を一気に果たした最新鋭のマシンで、低コストで最高品質の製品を容易く作り出す時代に入ったという事。換言すれば、高品質少量生産の時代が終焉を迎えてしまったと痛感させられた。今や「昔は良かった」と懐かしんではいられないのだ。「世の中はすっかり変わってしまった」と諦めて、素直に時代の変化を認めねばならないということらしいのだ。

お仕舞いに英語の講釈を。“ain’t”は決して上品な言葉遣いではなく、ある階層以下では頻繁に使われるものだ。それは“is not”、“am not”、“are not”、“have not”、“has not”等の何れの代わりに使われている。であるから、見出しの“Things ain’t”は“Things are not”が文法的に正しいのだ。余談になるがエリントンのバンドのヒット曲には“It don’t mean a thing if it ain’t got that swing.”というのもある。これの邦題は「スイングしなけりゃ意味ないね」だったと記憶する。

申し上げておくべき事は「アメリカに行かれて間違ってもエリントンは使っていたじゃないかと思って“I ain’t know nothing.”などと口を滑らせないように」注意されること。



コメントを投稿