新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

アメリカにおける「リストラ」を考える

2023-03-19 07:36:03 | コラム
何故アメリカの大手企業では「リストラ」を断行するのか:

最近、GAFAM等のアメリカを代表するようになっている企業が遠慮会釈なく「リストラ」を実施して、万単位の人員削減をしていると報じられている。極端なインフレ傾向や激変する国際情勢でも背景にあるのかと疑いたくもなるほど強烈に見える。だが、メデイアはそこに如何なる理由があるのかに触れていない気がする。そこで、長い間アメリカの大手企業の片隅にいた者として、アメリカの経営者たちの経営戦略を覗いてみよう。

彼らが「リストラ」を敢行するのは、アメリカの景気も良く先ずその会社が好調なときが多いのである。だが、当方の持論である「今景気が良いということは、直ぐそこに落ち込む時期が迫っているかもしれない」のである。経営者たちは好調であれば事業の拡張を図り、人員も増強して備えておくのだ。だが、彼ら現状に一寸でも不安材料を見いだすか、先行きの怪しさを感じれば、そこは二進法的思考体系から「今のうちに放漫経営にならぬよう手を打っておこう」と判断するのだ。

現に、ウエアーハウザーが8代目CEO・ジョージの優れた経営力で大きく成長している間でも、2回か3回のリストラが実施されたと記憶する。そして、削減された人員の態勢でも事業は何事もなかったかのように拡張できていた。対日輸出だけを振り返っても、全輸出品種が以前と同じ人員でも著しい成長を遂げていた。尤も、中には先行きの判断を見誤って撤退した部門もあるにはあったが、その分は既存の事業の伸びで充分に補っていた。

要するに、「各事業部門において現存の勢力から起用するか、中途で採用して事に当たらせる人材の選択が適切であれば、多少人員を減らしても充分に立ち行くと判断すれば、必要最低限の人数で事業は成長できると考えるのだ」と見えていた。その分、担当する少数精鋭の者たちにとっての負担も増えるが、業績が上がれば「禄を以て報いよ」で年俸は増額されるのだ。

注目すべき我が国との違いは「必要に応じて中途採用だけして、新卒者を採用して育てること」はないという点だ。自分が必要に応じて採用されたから言えるのだが、彼らの方針は「需要があるが成長しているときに適宜に増員し、一旦不調となれば減員すれば良い」となっていること。人事権を持つ事業部長は何時でも採用を希望して送られてくる部外者の履歴書を何通も持っているし、社内にも代わりになる人材がいると見極めはつけてある。

ここまでは、好調な会社が敢えてリストラをする例を挙げてきたが、勿論経営危機を回避する為の最後的手段のリストラも実行されている。それはその産業界の流れや、その会社の言わば「会社四季報」の内容を子細に見れば見極めが付くことではないか。要するに、GAFAMの経営や将来性に差し迫った危機を見通している人がいるだろうかということ。

我が国とアメリカの根本的な違いは「アメリカには雇用というか労働力に移動の柔軟性があること」だろう。仮令リストラされても、実力と経験があれば必ず異業種にでも転職の可能性があるという違いだ。アメリカの会社暮らしの20有余年の間に何度か「あなたは前にはどのような会社にいたのですか」とごく普通に尋ねられたことがあった。この質問が失礼ではない世界なのである。

我が国の企業社会では、未だそこまでの次元には達していないと思う。同時に「常に2~3社からの”job offer“を持っていないようでは」という評価の仕方もある世界だ。
そういうoffer(他社からの勧誘)を抱えていれば「リストラなんてドンとこい」なのである。但し、労働組合の「リストラ」は法律的に話の筋が違うので、ここでは取り上げようがないのだ。