♦️392の3『自然と人間の歴史・世界篇』ナチズムの人間的基盤

2021-02-21 10:10:58 | Weblog
392の3『自然と人間の歴史・世界篇』ナチズムの人間的基盤

 ナチズム支持の中心となったのは小さな商店主、職人、ホワイトカラー労働者などから成る下層中産階級であった。
 それでは、なぜ、これらの人々がナチズムへとなびいていったのだろうか。さしあたり、二つの見解を紹介しておきたい。
 その一つは、彼らの生活が依って立つ経済基盤と民族主義を一義的にいうもので、例えば、塚本健氏はこう述べておられる。


 「折から、ヤング賠償案反対運動とともに民族主義運動が高揚しました。同時に、不況下に中小企業の倒産がつづき、失業者が132万人(29年9月)から300万人(30年9月)へと急増しました。ナチス党は、不況や失業をもヤング賠償案、ベルサイユ体制のせいにして民族主義を煽動しました。
 その、さいナチス党は、民族主義の顔と反資本主義というもう一つの顔で、中間層、大衆をひきつけたといわれます。ここで中間層と呼ばれているのは、百貨店進出におびやかされる町の中小商店主、債務負担にあえぐ農民、大企業に圧迫され賃金切り下げによってかろうじて生きのびる道を求めようとする中小企業主、失業者、新規学卒で就職口のないまま失業保険給付もうけられない若者労働者、出稼ぎ労働者などの縁辺労働者層です。
 資本家階級の一部、自営業主=旧中間層、労働者階級の一部と分類できますが、全体として、反独占・反労働組合という心情を共通にもっている人々です。」(塚本健「ファシズム」労働大学新書、1986)」


 みられるように、インフレ、独占資本主義の発展、大恐慌の不安、そして戦後賠償の負担などが経済生活を脅かし、労働者階級の台頭が下層中産階級の威信を下落させた。
 二つ目は、「社会心理的アプローチ」とよばれるもので、こちらも、インフレ、独占資本主義の発展、大恐慌の不安が経済生活を脅かし、労働者階級の台頭が下層中産階級の威信を下落させたのをいう、けれども、それだけではないと考える。
 後者に目を向けると、第一次世界大戦後のワイマール共和制下によって、敗戦から立ち直る中でドイツ社会に自由な空気が育まれた。
 しかしながら、そのことは、君主制の崩壊、宗教や伝統的な道徳の衰弱、家父長的な家族制度の解体、そして敗戦といった心理的な変革を伴うものであった。それらの出来事は、特に集団の中で「安全感と自己満足的な誇りを獲得していた」下層中産階級の人々を動揺させ、不安に陥れたのだという。
 
 そこでフロムは、ナチズムを支持した人々を理解するために、自由の持つ二面性(理想としての自由・不安、孤独、無力感を生む自由)を見出し、新たな自由を獲得したというよりは、「与えられた」感のある人々にとっては、必ずしもそれを享受し、さらなる前進のための糧(かて)とはならず、その逃げ出そうとする(エーリッヒ・フロム「自由からの逃走」)ことをいう。

 「われわれはドイツにおける数百万の人々が、かれらの父祖たちが自由のために戦ったと同じような熱心さで、自由を捨ててしまったこと、自由を求めるかわりに、自由から逃れる道を探したこと、他の数百万は無関心な人々であり、自由を、そのために戦い、そのために死ぬほどの価値あるものとは信じていなかったこと、などを認めざるをえないようになった」(同)

 また、自由から逃げ出した人々は、権威主義的性格を社会的な集団として有しているともフロムはいう。つまり、二面性を持っていることになる。いうなれび、新しい従属や依存を求めて権威に服従するのをいとわず、自分たちが権威であろうとする傾向を持つ社会集団として登場してくる。
 こうして、人間的な面から言うと、ナチズムはこのような人間の性質が基盤となってその勢力を増し、人々はその支配に喜んで服することとなったとフロムはいう。



(続く)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

コメントを投稿