家持編（一）青春・恋の遍歴（12）可哀想したな 放っといてから

■平成23年8月8日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★妾おみなめを　亡くし家待　今更に　平穏生活くらし　愛いとしゅう思う

今よりは　秋風寒く　吹きなむを　いかにか独ひとり　長き夜を宿ねむ
《これからは　　秋の風吹き　寒いのに　長い夜ひとり　寝るのん寂し》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻三・四六二〉　

長き夜よを　ひとりや寝ねむと　君が言へば　過ぎにし人の　思ほゆらくに
《長い夜を　独りで寝るて　聞いたとき　亡のうなった人　思い出したで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴書持おおとものふみもち―〈巻三・四六三〉

秋さらば　見つつ思しのへと　妹が植ゑし　屋前やどの石竹なでしこ　咲きにけるかも
《撫子なでしこの　花咲いとおる　秋来たら　見て楽しもと　お前の植えた》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻三・四六四〉　
うつせみの　世は常なしと　知るものを　秋風寒み　思しのひつるかも
《世の中は　　無常なもんと　知ってるが　秋風吹くと　思い出すなぁ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻三・四六五〉　

我が屋前やどに　花ぞ咲きたる そを見れど　情こころも行かず 愛はしきやし　妹がありせば　
水鴨みかもなす　二人ふたり並びゐ　手折たをりても 見せましものを
《庭で咲く　花を見たかて　面白おもろない　もしもお前が　居おったなら　並んで花を　手折たおるのに》
うつせみの　借かれる身なれば　露霜つゆしもの　消けぬるがごとく
あしひきの 山道やまぢをさして　入日いりひなす　隠かくりにしかば
《人の定めや　仕様しょうなしに　露霜みたい　儚はかのうに　帰らん旅へ　出て仕舞しもて　日ィ沈む様よに　死んでもた》
そこ思ふに 胸こそ痛き 言ひも得えず 名づけも知らず 跡あともなき 世間よのなかにあれば 為せむすべもなし
《思い出す度たび　胸痛い　嘆く言葉も　見当たらん　消えてく定め　どもならん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻三・四六六〉　

時はしも　何時いつもあらむを　情こころ痛く　去いにし吾妹わぎもか　若子みどりごを置きて
《人いつか　死ぬけどなんで　今やねん　わし悲しませ　幼子おさなご残し》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻三・四六七〉　

出いでて行く　道知らませば　あらかじめ　妹を留とどめむ　塞せきも置かましを
《もしわしが　あの世行く道　知ってたら　お前の行く手　塞ふさいだったに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻三・四六八〉　
妹が見し　やどに花咲き　時は経へぬ　我が泣く涙　いまだ干ひなくに
《時過ぎて　　お前の庭に　花咲いた　わしの涙は　まだ乾けへん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻三・四六九〉　




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家持編（一）青春・恋の遍歴（11）聞きしに優る 恋の炎や

■平成23年8月4日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★聞いてたが　恋する女　恐いでと　逃げられんのか　離れとないが

我れも思ふ　人もな忘れ　おほなわに　浦吹く風の　止やむ時なけれ
《忘れんと　　うち思てるで　あんたもな　いついつまでも　途切れんように》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇六〉

思ふにし　死しにするものに　あらませば　千遍ちたびぞ我れは　死に返かへらまし
《もしもやで　恋焦がれして　死ぬんなら　うち千回も　死んで仕舞しもてる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇三〉

相あひ思おもはぬ　人を思ふは　大寺おほでらの　餓鬼がきの後しりへに　額ぬかづくがごと
《気ィ冷さめた　人思うんは　寺の餓鬼　尻から拝む　みたいなもんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇八〉

今いま更さらに　妹に逢はめやと　思へかも　ここだ我が胸　いぶせくあるらむ
《あんたには　　もう逢わんとこ　思うけど　ちょっとこの胸　ちくちくするな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・六一一〉　

なかなかに　黙もだもあらましを　何すとか　相見そめけむ　遂とげざらまくに
《遂とげられん　恋やになんで　逢うたんや　声掛けたんが　間違いやった》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・六一二〉　

情こころゆも　我は思もはざりき　またさらに　我が故郷ふるさとに　帰り来こむとは
《なんでまた　故郷くにに帰って　来たんやろ　恋失なくさした　あんたの所為せいや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇九〉

近くあらば　見ずともあらむを　いや遠く　君が座いまさば　有りかつましじ
《あんたはん　近く居おったら　生きてける　離れて仕舞しもて　生きる甲斐かい無い》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六一〇〉

 



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家持編（一）青春・恋の遍歴（10）良え女やが 一寸（ちょと）気が重い

■平成23年8月1日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★恋心　初々し内　ときめきは　狎なれるにつれて　気重が増すよ

八百日やほか行く　浜の沙まなごも　我が恋に　あに益まさらじか　沖つ島守
《広い浜　ある砂数すなよりも　うち、、の恋　ずっと多おいのん　分かるなあんた》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九六〉

うつせみの　人目を繁しげみ　石橋いははしの　間近まぢかき君に　恋ひわたるかも
《他人ひとの目が　煩うるさいよって　逢わへんで　焦がれるだけや　近く居おるのに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九七〉

恋にもぞ　人は死にする　水無瀬河みなせがは　下ゆ我れ痩やす　月に日ひに異けに
《恋したら　人死ぬんやで　うち、、もそや　日に日に痩やせる　あんた分かるか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九八〉

伊勢の海の　磯いそもとどろに　寄する波　恐かしこき人に　恋ひわたるかも
《大波の　轟とどろくみたい　勿体もったない　人にこのうち、、　惚れたんやろか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇〇〉

情こころゆも　吾あは思もはざりき　山河も　隔へだたらなくに　かく恋ひむとは
《山川に　隔てられてる　わけ違ちゃうに　こんな焦がれる　思わなんだわ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇一〉

夕ゆふされば　物思もひ益まさる　見し人の　言問こととふ姿　面影にして
《日暮れには　睦言むつごと顔を　思い出し　恋しさ募り　どう仕様しょうもない》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇二〉

剣大刀つるぎたち　身に取り副そふと　夢いめに見つ　如何いかなる怪けそも　君に相あはむため
《夢見たで　大おっき刀かたなに　添い寝する　なんのこっちゃろ　逢あえる前徴しるしか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇四〉

天地あめつちの　神の理ことわり　なくはこそ　我が思もふ君に　逢はず死にせめ
《この世には　ほんま神さん　居おらんのか　うち、、死にそやで　あんた逢えんと》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇五〉

 



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家持編（一）青春・恋の遍歴（09）気に入り同士 喜び頻り

■平成23年7月28日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★笠女郎いらつめは　直向き恋に　身を焦がす　家待宛てて　歌次々と

白鳥しらとりの　飛羽山とばやま松の　待ちつつぞ　我が恋ひわたる　この月ごろを
《待ってんの　もう長いこと　なって仕舞もた　あんた慕しとうて　恋し続けて》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五八八〉

衣手ころもでを　打廻うちみの里に　ある我れを　知らにぞ人は　待てど来こずける
《打廻里さと居おって　じっと待ってる　心内こころうち　知ってるやろに　あんた来けえへん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五八九〉

あらたまの　年の経へぬれば　今しはと　勤ゆめよ我が背子せこ　我が名告のらすな
《年月としつきが　経ったから言ゆて　うち、、の名を　ええやろ思て　言ゆうたらあかん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九〇〉

我が思おもひを　人に知るれか　玉匣たまくしげ　開き明あけつと　夢いめにし見ゆる
《隠してる　うち、、の思いが　知れたんか　櫛箱くしばこ開いてる　夢見てしもた》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九一〉

闇やみの夜よに　鳴くなる鶴たづの　外よそのみに　聞きつつかあらむ　逢ふとはなしに
《暗い夜に　　鳴く鶴みたい　逢われんで　あんたの噂　聞いてるだけや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九二〉

君に恋ひ　甚いたも術すべなみ　平城山ならやまの　小松が下したに　立ち嘆くかも
《恋しゅうて　どう仕様しょも無のうて　奈良山の　松の下来て　嘆息ぼけっとしてる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九三〉

我が屋戸やどの　夕蔭草ゆふかげぐさの　白露の　消けぬがにもとな　思ほゆるかも
《庭に咲く　夕影草くさに置いてる　露みたい　心もとない　気持ちやうち、、は》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九四〉

我が命の　全またけむ限り　忘れめや　いや日ひに異けには　思ひ益ますとも
《あんたはん　うち、、は死んでも　忘れへん　日に日に募る　思い抱かかえて》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九五〉



【我が名告らすな】へ

家持編（一）青春・恋の遍歴（08）嬉し家待 はしゃぎにはしゃぐ

■平成23年7月25日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★これこそが　真実ほんまの恋や　見つけたぞ　笠女郎かさのいらつめ　似合いやわしに　

水鳥の　鴨の羽色はいろの　春山の　おほつかなくも　思ほゆるかも
《春の山　ぼっと霞んで　見えん様よに　あんたの気持ち　よう分からへん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻八・一四五一〉

朝ごとに　我が見る屋戸やどの　瞿麦なでしこの　花にも君は　ありこせぬかも
《毎朝に　見る撫子なでしこの　花みたい　あんた毎日　見たいて思う》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻八・一六一六〉

朝霧ぎりの　おほに相見し　人ゆゑに　命死ぬべく　恋ひわたるかも
《霧みたい　顔かお朧おぼろしか　見てへんに　なんでこんなに　恋しいのやろ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五九九〉

皆人みなひとを　寝ねよとの鐘は　打つなれど　君をし思もへば　寝いねかてぬかも
《皆みんなみな　早よ寝ねと鐘は　鳴るけども　あんた思たら　寝られへんがな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・六〇七〉

託馬野つくまのに　生おふる紫草むらさき　衣きぬに染そめ　いまだ着ずして　色に出いでにけり
《託馬野つくまのに　生はえてる紫草くさで　染めた服　着てもせんのに　見られてしもた
〈あんたとは　心こころを染めた　だけやのに　逢わへんうちに　知られてしもた〉》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻三・三九五〉

陸奥みちのくの　真野まのの草原かやはら　遠けども　面影おもかげにして　見ゆといふものを
《あんたには　暫しばらく逢おうて　ないけども　面影浮かび　うち、、見えてるで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻三・三九六〉

奥山おくやまの　岩本いはもと菅すげを　根ね深ふかめて　結びし心　忘れかねつも
《忘れへん　あんな深ふこうに　誓ちこたんや　あんたの心　うち、、忘れへん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻三・三九七〉

我が形見かたみ　見つつ思しのはせ　あらたまの　年の緒を長く　我れも思おもはむ
《思ててや　　うちの身代わり　見てながら　うちもずうっと　思てるさかい》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―笠郎女かさのいらつめ―〈巻四・五八七〉

 



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家持編（一）青春・恋の遍歴（07）こんな娘子児（おとめご） 見たことないぞ

■平成23年7月21日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★宮中で　見つけ娘子おとめに　一目惚れ　家待追うが　見事な振られ

かくしてや　なほや退まからむ　近からぬ　道の間あひだを　なづみ参まゐ来て
《苦労して　来たのに帰れ　言ゆうのんか　遠い道のり　難儀むりして来たに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七〇〇〉　

情こころには　思ひ渡れど　縁よしを無み　外よそのみにして　嘆きぞ我がする
《心では　思おもうてるけど　伝手つて無のうて　余所よそながら見て　わし嘆いてる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七一四〉　
千鳥鳴く　佐保の河門かはとの　清き瀬を　馬うち渡し　何時いつか通かよはむ
《佐保川の　千鳥鳴いてる　清い瀬を　馬走らして　早よ通かよいたい》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七一五〉　
夜昼よるひると　いふ別わき知らず　我が恋ふる　心はけだし　夢いめに見えきや
《思てるで　　夜昼無しの　恋ごころ　きっとあんたの　夢に出たやろ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七一六〉　
つれも無く　あるらむ人を　片思かたもひに　我れし思へば　侘わびしくもあるか
《惚れたけど　連れない素そ振ぶり　されてもて　独ひとり思うん　切せつないこっちゃ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七一七〉　
思はぬに　妹が笑ゑまひを　夢いめに見て　心のうちに　燃えつつそ居る
《微笑顔ほほえみを　思いがけずに　夢に見て　わしの恋心こころは　燃え上ったで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七一八〉　
大夫ますらをと　思へる我れを　かくばかり　みつれにみつれ　片思かたもひをせむ
《このわしが　苦恋こいするもんか　思おもてたに　胸掻かきむしる　片恋かたこいすんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七一九〉　
村肝むらぎもの　情こころ砕くだけて　かくばかり　我が恋ふらくを　知らずかあるらむ
《この胸が　　張り裂けそうな　わしの恋　あんたほんまに　知ってんやろか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七二〇〉　

かくばかり　恋ひつつあらずは　石木いはきにも　ならましものを　物思もはずして
《こんなにも　恋い焦がれんと　石や木に　成りたいもんや　心の持もたん》　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻四・七二二〉　



【馬うち渡し】へ

家持編（一）青春・恋の遍歴（06）なさずに措くか この恋の道

■平成23年7月14日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★実るかな　同じ身分の　女ひと相手　苦心家待　精を出す

さ夜中よなかに　友呼ぶ千鳥ちどり　物思ふと　わびをる時に　鳴きつつもとな
《物思い　　してる夜中に　やかましに　千鳥鳴きよる　よけ沈むがな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大神女郎おおみわのいらつめ―〈巻四・六一八〉

霍公鳥ほととぎす　鳴きし登時すなはち　君が家いへに　行けと追ひしは　至りけむかも
《鳴いたんで　　思いを乗せて　ホトトギス　そっち行かした　着いたやろうか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大神女郎おおみわのいらつめ―〈巻八・一五〇五〉

をみなへし　佐紀沢さきさわに生おふる　花かつみ　かつても知らぬ　恋もするかも
《佐紀沢に　　咲いてるカツミ〔あやめ〕　かつてうち　こんな思いは　したことないわ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―中臣女郎なかとみのいらつめ―〈巻四・六七五〉

春日山かすがやま　朝ゐる雲の　おほほしく　知らぬ人にも　恋ふるものかも
《山懸かかる　朝雲みたい　気ィ晴れん　なんであんたに　惚れたんやろか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―中臣女郎なかとみのいらつめ―〈巻四・六七七〉

直ただに逢ひて　見てばのみこそ　たまきはる　命いのちに向ふ　我が恋止やまめ
《命かけ　惚れた私の　恋ごころ　直じかに逢わんと　治おさまらへんわ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―中臣女郎なかとみのいらつめ―〈巻四・六七八〉

否いなと言はば　強しひめや我が背　菅すがの根の　思ひ乱れて　恋ひつつもあらむ
《逢いたない　　言うんやったら　無理言わん　じっと我慢で　恋忍んでる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―中臣女郎なかとみのいらつめ―〈巻四・六七九〉

海わたの底　奥を深めて　我が思へる　君には逢はむ　年は経へぬとも
《胸の奥　深うに思う　あんたはん　時間掛けても　きっと逢おうたる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―中臣女郎なかとみのいらつめ―〈巻四・六七六〉

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ももしきの　大宮人は　多かれど　情こころに乗りて　思ほゆる妹いも
《宮仕え　する女官さん　多おいけども　心懸かるん　あんただけやで》

上辺うはへなき　妹にもあるかも　かくばかり　人の情こころを　尽さく思へば
《このわしに　　こんな思いを　させるやて　罪な人やで　あんた云う人》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持　―〈巻四・六九一～二〉
 



【わが恋止まめ】へ

家持編（一）青春・恋の遍歴（05）やんごとなきを 相手にするか

■平成23年7月11日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★家持は　趣向を変えて　女王ひめぎみへ　恋の狩人　触手を伸ばす

物思おもふと　人に見えじと　なまじひに　常に思へり　ありぞかねつる
《物思い　知られんとこと　無理をして　思い悩むん　ほんまに辛つらい》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―山口女王やまぐちのおおきみ―〈巻四・六一三〉

葦辺あしへより　満ち来くる潮しほの　いや増しに　思へか君が　忘れかねつる
《潮満みちる　みたいに慕情おもい　こみあげて　あんたのことが　忘られへんよ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―山口女王やまぐちのおおきみ―〈巻四・六一七〉

秋萩に　置きたる露の　風吹きて　落つる涙は　留とどめかねつも
《風吹いて　萩の玉露　散るみたい　うちの涙は　止とめられへんわ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―山口女王やまぐちのおおきみ―〈巻八・一六一七〉

相あひ思おもはぬ　人をやもとな　白栲しろたへの　袖漬ひつまでに　ねのみし泣くも
《片思い　　分かってんのに　思い詰め　袖びしょ濡れに　なるまで泣くよ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―山口女王やまぐちのおおきみ―〈巻四・六一四〉

我が背子せこは　相あひ思もはずとも　敷栲しきたへの　君が枕は　夢いめに見えこそ
《あんたはん　　思ててくれん　思うけど　せめて夢でも　出てくれへんか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―山口女王やまぐちのおおきみ―〈巻四・六一五〉

剣太刀つるぎたち　名の惜をしけくも　我れはなし　君に逢はずて　年の経へぬれば
《うちなんか　なに言われても　もう良ええわ　逢えん日長なごう　続いたよって》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―山口女王やまぐちのおおきみ―〈巻四・六一六〉





【名の惜しけくも】へ

家持編（一）青春・恋の遍歴（04）これは旨いぞ この手で行こか

■平成23年7月7日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★壷を得て　恋を求める　家持は　次から次と　手当たり次第

我が背子せこを　相あひ見しその日　今日けふまでに　我が衣手ころもでは　乾ふる時も無し
《逢い引きの　　日から今日まで　ご無沙汰や　うちは涙で　袖ぐしょ濡れや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―巫部麻蘇娘子かむなぎへのまそのをとめ―〈巻四・七〇三〉
栲縄たくなはの　永ながき命を　欲ほりしくは　絶えずて人を　見まく欲りこそ
《永遠とわまでの　命欲しいと　思おもたんは　ずっとあんたと　居いてたいからや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―巫部麻蘇娘子かむなぎへのまそのをとめ―〈巻四・七〇四〉

我が屋外やどの　萩花はぎはな咲けり　見に来ませ　いま二日ふつかだみ　あらば散りなむ
《家うちの庭　萩が咲いたで　見においで　二日もしたら　散ってしまうで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―巫部麻蘇娘子かむなぎへのまそのをとめ―〈巻八・一六二一〉

誰たれ聞きつ　此間こゆ鳴き渡る　雁がねの　嬬つま呼ぶ声の　羨ともしくもあるか
《連れ呼んで　鳴き飛ぶ雁が　羨うらやまし　誰かさんかて　聞いたん違ちゃうか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―巫部麻蘇娘子かむなぎへのまそのをとめ―〈巻八・一五六二〉

聞きつやと　妹が問はせる　雁かりが音ねは　まことも遠く　雲隠くもがくるなり
《聞いたかと　あんた訊たずねる　雁の声　雲に隠れて　聞こえんかった》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻八・一五六三〉　

秋づけば　尾花が上に　置く露の　消けぬべくも　吾わは　思ほゆるかも
《秋来たら　すすき置く露　消える様よに　うちの命も　消えそに思う》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―日置長枝娘子へきのながえのをとめ―〈巻八・一五六四〉

我が屋外やどの　一群ひとむら萩を　思ふ児に　見せずほとほと　散らしつるかも
《家うちの庭　群むれ咲く萩を　愛いとし児に　見せず大方おおかた　散らしてしもた》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻八・一五六五〉　

 



【いま二日だみ】へ

家持編（一）青春・恋の遍歴（03）何処にあるんや ほんまの恋は

■平成23年7月4日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★家待の　恋の憧れ　募り増す　今日はあの児に　明日あしたはこの児

はつはつに　人を相あひ見て　いかにあらむ　いづれの日にか　また外よそに見む
《ちょっと間まの　逢瀬おうせのあんた　いつ逢あえる　ちらっと姿　見られんやろか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―河内百枝娘子かふちのももえのをとめ―〈巻四・七〇一〉

ぬばたまの　その夜の月夜つくよ　今日けふまでに　我れは忘れず　間まなくし思へば
《逢おうた夜よの　あの好ええ月が　忘られん　ずっとあんたを　思おもてるさかい》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―河内百枝娘子かふちのももえのをとめ―〈巻四・七〇二〉

思ひ遣やる　すべの知らねば　片もひの　底にそ我れは　恋ひなりにける
《恋心　　晴らす仕方が　分からんで　片恋底に　うち沈んでる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―粟田女娘子あはためのおとめ―〈巻四・七〇七〉
またも逢はむ　因よしもあらぬか　白栲しろたへの　我が衣手に　斎いはひ留めむ
《逢あう手立て　ないもんかなと　袖の端　結び合わして　祈ってるんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―粟田女娘子あはためのおとめ―〈巻四・七〇八〉

鴨鳥かもどりの　遊ぶこの池に　木この葉落ちて　浮きたる心　我が思はなくに
《鴨遊ぶ　池に浮いてる　葉ぁみたい　軽い気持ちで　居おるんと違ちゃうで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―丹波大女娘子たにはのおほめのをとめ―〈巻四・七一一〉

味酒うまさけを　三輪みわの祝はふりが　いはふ杉　手て触ふれし罪つみか　君に逢ひがたき
《三輪山の　神さん杉に　手え触さわり　罰ばち当たったか　あんた逢われん
〈身分違ちゃう　人に誘われ　その気なり　うちアホやった　逢おうてもらえん〉》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―丹波大女娘子たにはのおほめのをとめ―〈巻四・七一二〉

垣穂かきほなす　人言ひとごと聞きて　我が背子せこが　情こころたゆたひ　逢はぬこのころ
《取り巻きの　中傷うわさを聞いて　あんたはん　躊躇とまどうてんか　逢おうてくれへん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―丹波大女娘子たにはのおほめのをとめ―〈巻四・七一三〉



【手て触ふれし罪つみか】へ

家持編（一）青春・恋の遍歴（02）本気かどうか わしかて知らん

■平成23年6月30日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★郎女いらつめの　誘いに乗るか　家持は　大嬢おおいらつめを　構かもうてみせる

月立ちて　ただ三日月の　眉根まよね掻かき　日け長く恋ひし　君に逢へるかも
《三日月の　ような眉まゆ毛げを　掻かいたんで　恋こい焦こがれてた　あんたに逢えた》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめ―〈巻六・九九三〉

振ふり放さけて　若月みかづき見れば　一目見し　人の眉引まよひき　思ほゆるかも
《振り仰あおぎ　三日月見たら　一目見た　おまえの眉まゆを　思い出したで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻六・九九四〉　

我が屋外やどに　蒔まきし瞿麦なでしこ　いつしかも　花に咲きなむ　比なそへつつ見む
《庭植えた　撫子なでしこ咲くん　楽しみや　女らしなる　お前同おんなじ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻八・一四四八〉　

石竹なでしこの　その花にもが　朝な朝な　手に取り持ちて　恋ひぬ日無なけむ
《撫子の　お前花やと　良ええのにな　毎朝手にし　愛いつくしめるに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻三・四〇八〉　

生きてあらば　見まくも知らず　何しかも　死なむよ妹と　夢いめに見えつる
《生きてたら　逢えるんやのに　なんでまた　夢に出てきて　死のやて言ゆうの》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴坂上大嬢―〈巻四・五八一〉　
大夫ますらをも　かく恋ひけるを　弱女たわやめの　恋ふる情こころに　比たぐひあらめやも
《男でも　夢に見るほど　恋苦くるし云ゆう　女おんな恋苦くるしん　当たり前やん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴坂上大嬢―〈巻四・五八二〉　
つき草の　移ろひやすく　思へかも　我が思ふ人の　言ことも告げ来こぬ
《移り気ぎな　露草の児や　思うんか　逢いたいあんた　何も言ゆて来こん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴坂上大嬢―〈巻四・五八三〉　
春日山かすがやま　朝立つ雲の　ゐぬ日無く　見まくの欲しき　君にもあるかも
《春日山　朝雲いつも　懸かかってる　うち、、もいっつも　あんた思てる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴坂上大嬢―〈巻四・五八四〉　




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家持編（一）青春・恋の遍歴（01）ほんに可愛いや 童女（わらわめ）よ

■平成23年6月27日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★家持は　幼なじみの　童女わらわめに　幼い恋の　芽を吹かす

葉根蘰はねかづら　今する妹を　夢いめに見て　情こころのうちに　恋ひ渡るかも
《大人なる　蘰かずら被かぶる児　夢に見て　秘ひそかに恋を　し続けてんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持おおとものやかもち―〈巻四・七〇五〉

葉根蘰はねかづら　今する妹は　無かりしを　いづれの妹そ　幾許ここだ恋ひたる
《うち知らん　蘰かずら被かぶる児　居いてへんで　何処どこの何方どなたに　恋したんやろ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―童　女―〈巻四・七〇六〉　

 



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坂上郎女編（19）何で越なぞ 行かしたんやろ

■平成23年6月23日■
万葉集に詠われた歌を　作者別に採り上げ　人となりを「大阪弁」で訳します
いわく　「大阪弁万葉集」
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★我が娘　越へ送りて　郎女は　老い身に沁みる　寂しさ辛い

海神わたつみの　神の命みことの　御櫛笥みくしげに　貯たくはひ置きて　斎いつくとふ　珠たまに益まさりて　思へりし　吾あが子にはあれど　うつせみの　世の理ことわりと 大夫ますらをの　引きのまにまに　しな離ざかる　越路こしぢをさして　延はふ蔦つたの　別れにしより　
《海神かみさんが　櫛箱入れて　貯め置いて　大事にしてる　真珠玉　その真珠たまよりも　愛いとおしい　お前やけども　仕様しょう無しに　家持さんの　招きゆえ　遠い越国こしへと　行かしたが》
沖つ波　撓とをむ眉引まよびき　大船おほふねの　ゆくらゆくらに　面影おもかげに　もとな見えつつ　かく恋ひば　老おいづく吾あが身　けだし堪あへむかも
《波によう似た　　眉引きが　ゆらゆらゆらと　眼に浮かぶ　こんな恋しゅう　思てたら　老い先短い　この身体からだ　耐えることなど　できようか》　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴坂上郎女―〈巻十九・四二二〇〉　
かくばかり　　恋しくしあらば　まそ鏡　見ぬ日ひ時ときなく　あらましものを
《こんなにも　恋しゅう思う　あんたなら　ずうっと傍そばに　置けばよかった》　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴坂上郎女―〈巻十九・四二二一〉　

霍公鳥ほととぎす　来き鳴なく五月さつきに　咲きにほふ　花橘の　香かぐはしき　親の御言みこと　朝暮あさよひに　聞かぬ日まねく
《ホトトギス　来て鳴く五月　咲きにおう　橘たちばな花はなの　それみたい　麗うるわし聞いた　母かあさんの　声聞かへんで　日ィ経った》　　
天離あまざかる　鄙ひなにし居をれば　あしひきの　山のたをりに　立つ雲を　外よそのみ見つつ　嘆くそら　安やすけなくに　思ふそら　苦しきものを　　
《山の陰から　　立つ雲を　見ながら思う　里の空　嘆く心も　頼りなく　思う気持ちも　萎なえてくる》
奈呉なごの海人あまの　潜かづき取るといふ　真珠しらたまの　見が欲ほし御面みおもわ　直ただ向むかひ　見む時までは　松柏まつかへの　栄えいまさね　貴き吾あが君
《奈呉なごの漁師が　潜もぐり採とる　真珠みたいな　あのお顔　見たいと思う　今日日頃　お会いするまで　お元気で　暮らし下さい　お母さま》　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻十九・四一六九〉　
白玉しらたまの　見が欲ほし君を　見ず久に　鄙ひなにし居をれば　生けるともなし
《逢いたいに　逢われへん日ィ　続いてる　鄙ひなに居おるんで　仕様しょう無いけども》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持―〈巻十九・四一七〇〉　




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