【掲載日:平成22年7月9日】
出でて行く 道知らませば あらかじめ
妹を留めむ 塞も置かましを
何事もなく 過ぎていく日々
穏やかな 時間が 流れている
〈恋とは 気疲れの伴うものよ〉
〈家がいい〉
落ち着きを取り戻した 家持の家
それも 束の間
天平十一年〈739〉夏六月
家持を 悲劇が襲う
妻 妾の死
幼馴染 大伴書持も駆け付ける
今よりは 秋風寒く 吹きなむを いかにか独り 長き夜を宿む
《これからは 秋の風吹き 寒いのに 長い夜ひとり 寝るのん寂し》
―大伴家持―〈巻三・四六二〉
長き夜を ひとりや寝むと 君が言へば 過ぎにし人の 思ほゆらくに
《長い夜を 独りで寝るて 聞いたとき 亡うなった人 思い出したで》
―大伴書持―〈巻三・四六三〉
秋さらば 見つつ思へと 妹が植ゑし 屋前の石竹 咲きにけるかも
《撫子の 花咲いとおる 秋来たら 見て楽しもと お前の植えた》
―大伴家持―〈巻三・四六四〉
うつせみの 世は常なしと 知るものを 秋風寒み 思ひつるかも
《世の中は 無常なもんと 知ってるが 秋風吹くと 思い出すなぁ》
―大伴家持―〈巻三・四六五〉
我が屋前に 花ぞ咲きたる そを見れど 情も行かず 愛しきやし 妹がありせば
水鴨なす 二人並びゐ 手折りても 見せましものを
《庭で咲く 花を見たかて 面白ない もしもお前が 居ったなら 並んで花を 手折るのに》
うつせみの 借れる身なれば 露霜の 消ぬるがごとく
あしひきの 山道をさして 入日なす 隠りにしかば
《人の定めや 仕様なしに 露霜みたい 儚うに 帰らん旅へ 出て仕舞て 日ィ沈む様に 死んでもた》
そこ思ふに 胸こそ痛き 言ひも得ず 名づけも知らず 跡もなき 世間にあれば 為むすべもなし
《思い出す度 胸痛い 嘆く言葉も 見当たらん 消えてく定め どもならん》
―大伴家持―〈巻三・四六六〉
時はしも 何時もあらむを 情痛く 去にし吾妹か 若子を置きて
《人いつか 死ぬけどなんで 今やねん わし悲しませ 幼子残し》
―大伴家持―〈巻三・四六七〉
出でて行く 道知らませば あらかじめ 妹を留めむ 塞も置かましを
《もしわしが あの世行く道 知ってたら お前の行く手 塞いだったに》
―大伴家持―〈巻三・四六八〉
妹が見し やどに花咲き 時は経ぬ 我が泣く涙 いまだ干なくに
《時過ぎて お前の庭に 花咲いた わしの涙は まだ乾けへん》
―大伴家持―〈巻三・四六九〉
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