【掲載日:平成23年3月29日】
・・・偲ひにせよと 黄楊小櫛 しか刺しけらし 生ひて靡けり
田辺福麻呂 高橋蟲麻呂
両名の歌
家待の歌心 擽る
古に ありけるわざの 奇ばしき 事と言ひ継ぐ
茅渟壮士 菟原壮士の うつせみの 名を争ふと たまきはる 命も捨てて
争ひに 妻問ひしける 処女らが 聞けば悲しさ
《遥か昔の 哀れな話
茅渟の壮士と 菟原の壮士 己名誉と 命を懸けて
嫁に貰おと 取り合うた云う 相手処女の 悲しい話》
春花の にほえ栄えて 秋の葉の にほひに照れる
惜しき 身の盛りすら 大夫の 言いたはしみ
《春花みたい 咲き誇ってた 秋の黄葉葉 照輝いとった
若い盛りの その身の上を 男言葉に 板挟まれて》
父母に 申し別れて 家離り 海辺に出で立ち 朝夕に 満ち来る潮の
八重波に 靡く玉藻の 節の間も 惜しき命を 露霜の 過ぎましにけれ
《父母別れ 家後にして 海辺佇み 朝夕満ちる
潮の波間に 靡く藻みたい たゆたう命 あたらの命 露霜みたい 儚う消える》
奥城を 此処と定めて 後の世の 聞き継ぐ人も いや遠に 偲ひにせよと
黄楊小櫛 しか刺しけらし 生ひて靡けり
《その墓処を この場に決めて 後世の人の 偲びの草と
刺す黄楊小櫛 芽吹いて育つ 伸びたその枝 風靡かせる》
―大伴家持―〔巻十九・四二一一〕
処女らが 後の標と 黄楊小櫛 生ひ変り生ひて 靡きけらしも
《処女らの 話縁の 黄楊小櫛 芽吹いた枝を 風靡かせる》
―大伴家持―〔巻十九・四二一二〕
〔どうも 勢いが違うわい
やはり その場見ての 詠いと
文机前にしての 詠い 致し方あるまい
何れの機会 訪うて みたいものじゃ〕
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