巻七（雑歌・比喩歌・挽歌）編（12)明石の水門（みと）に

【掲載日：平成24年7月31日】

我が舟は　明石の水門みとに　漕ぎ泊はてむ　沖へな離さかり　さ夜よ更ふけにけり



山陽道みちは　西へと延びる
遥か筑紫の　遠御門とおみかどまで
難波なにわ出た船　陽ひを追いかけて
辿たどる船ふな道みち　見聞きの景色

【　山陽道　摂津・播磨・備前】
朝霞あさがすみ　止やまず棚引く　竜田山　舟出ふなでせむ日は　我あれ恋ひむかも
《朝霞　常時いつも棚引く　竜田山　名残なごり惜おしいで　船出ふなでの日には》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一八一）
朝凪に　真ま楫かぢ漕ぎ出でて　見つつ来こし　御津みつの松原　波なみ越ごしに見ゆ
《朝凪なぎに漕出でて　眺めながらに　来た御津みつの　松原波間なみま　隠れて仕舞しまう》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一八五）
大海おほうみに　嵐あらしな吹きそ　しなが鳥　猪名ゐなの港に　舟泊はつるまで
《海原うなばらに　嵐来るなよ　猪い名な港みなと　せめてこの船　そこ着くまでは》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一八九）
古いにしへに　ありけむ人の　求めつつ　衣きぬに摺すりけむ　真野まのの榛はり原はら
《ここの原　昔の人も　来て採って　衣ふく摺染そめた云う　真野まの榛原はりはらや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一六六）
印南野いなみのは　行き過ぎぬらし　天伝あまづたふ　日笠ひかさの浦に　波立てり見ゆ
《印南野いなみのは　通り過ぎたで　ほらあそこ　日笠ひかさ浦やで　波立ってるん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一七八）
家にして　我あれは恋ひむな　印南野いなみのの　浅茅あさぢが上うへに　照りし月夜つくよを
《戻ったら　思い出すやろ　印南野いなみのの　茅ちがやに照った　あの良ええ月夜》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一七九）
荒磯ありそ越す　波を畏かしこみ　淡路あはぢ島　見ずか過ぎなむ　幾許ここだ近きを
《荒磯あらいそを　越す波恐こわて　淡路あわじ島　見んと去いくんか　すぐ傍そばやのに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一八〇）
粟島あはしまに　漕ぎ渡らむと　思へども　明石の門波となみ　いまだ騒さわけり
《粟島あわしまに　渡りたいなと　思うけど　明石海峡　まだ波高い》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一二〇七）
我が舟は　明石の水門みとに　漕ぎ泊はてむ　沖へな離さかり　さ夜よ更ふけにけり
《この船は　明石港に　泊とまりする　沖へ遣やりなや　もう夜更よふけやで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一二二九）
山越えて　遠津とほつの浜の　岩つつじ　我が来るまでに　含ふふみてあり待て
《遠津浜とおつはま　そこに咲いてる　岩つつじ　わし帰るまで　蕾つぼみ付けとき》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一八八）
舟泊はてて　かし振り立てて　廬いほりせむ　名児江なごえの浜辺はまへ　過ぎかてぬかも
《船留とめて　杭打ち舫もやい　泊とまろやな　名児江なごえ浜辺の　素通すどおり惜おしで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古集―（巻七・一一九〇）



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