人麻呂歌集編（31）立てる白雲

【掲載日：平成24年5月22日】

梯はし立たての　倉橋山に　立てる白雲　
見まく欲ほり　我がするなへに　立てる白雲



逢い　と思ても　逢われん人を
せめて　陰から　チラとも見たい

【見つかん怖こわいが　見ないで居れん】
住吉すみのえの　出いで見みの浜の　柴な刈りそね
娘子をとめらが　赤あか裳もの裾の　濡れて行かむ見む
《住吉すみのえの　出で見みの浜はま柴しば　刈ったらあかん
　娘らの　濡れ行く裳も裾すそ　隠れ見るんで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二七四）
港の　葦の末葉うらばを　誰れか手折たをりし　
我が背子が　振る手を見むと　我れぞ手折たをりし
《　港ある　葦の葉先を　誰折ったんや
　　あの人の　振る手見とうて　うち折ったんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二八八）
【例え火の中　水中みずなか越えて】
天あめにある　一つ棚橋たなはし　いかにか行かむ　
若草の　　妻がりと言はば　足飾りせむ
《天にある　板張り橋は　ここには無ないで
　逢い行くに　瀬渡り用の　沓くつ用意せな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二三六一）
【　一人行く旅　寂しゅう侘し】
青あをみづら　依網よさみの原に　人も逢はぬかも　
石いは走ばしる　近江県あふみあがたの　物語りせむ
《依網よさみ原はら　誰だれぞにひょいと　会われんもんか
　　会えたなら　近江の国の　話するんで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二八七）
【良ええの見つけた　今夜も逢える】
高麗こま錦にしき　紐ひもの片方かたへぞ　床とこに落ちにける　
明日あすの夜よし　来こなむと言はば　取り置きて待たむ
《高麗こま錦にしき　紐ひもの片っぽ　床とこ落ちてたで
　今晩こんばんに　また来る言ゆなら　置いといたろか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二三五六）
【　ここであの人　馬休めんや】
この岡に　草刈る小子わらは　なしか刈りそね　
ありつつも　君が来まさば　御馬みま草くさにせむ
《　なあ坊や　ここの岡草　そんなに刈りな
　伸びてたら　あの人来たら　馬餌うまえさするに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二九一）
【　旅見る月に　顔映らんか】
朝あさ月づきの　日向ひむかの山に　月立てり見ゆ　
遠妻とほづまを　持ちたる人し　見つつ偲しのはむ
《　日ぃ暮れて　向かいの山に　出た月見える
　遠とい郷さとに　妻置く旅人ひとは　見て偲しのぶかな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二九四）
【　逢いと思たら　それそこ見えた】
梯はし立たての　倉橋山に　立てる白雲　
見まく欲ほり　我がするなへに　立てる白雲
《梯はし立たての　倉橋山くらはしやまに　出た白雲しらくもは
　　出て欲しと　思てた時に　出た白雲や》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二八二）



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