人麻呂歌集編（33）春立つらしも

【掲載日：平成24年5月29日】

ひさかたの　天あまの香具山かぐやま　この夕ゆふへ　霞かすみたなびく　春立つらしも



春の温ぬくもり　気を温あたためて
霞棚引き　春宵はるよい暮れる
茂る木の葉に　古ふる杉すぎ枝えだの
明日香あすか山々　霞が隠す

ひさかたの　天あまの香具山かぐやま　この夕ゆふへ　霞かすみたなびく　春立つらしも
《香久山に　春の夕方　今まさに　霞靡なびいて　春来てるんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・一八一二）
古いにしへの　人の植うゑけむ　杉が枝えに　霞たなびく　春は来きぬらし
《遠とい昔　誰かが植えた　古杉枝すぎえだに　霞靡なびくよ　春来たらしい》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・一八一四）
子らが手を　巻向山まきむくやまに　春されば　木この葉はしのぎて　霞たなびく
《巻まき向むくの　山に春来た　木ぃの葉を　蔽おおい尽くして　霞靡なびくよ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・一八一五）
玉かぎる　夕ゆふさり来れば　猟人さつひとの　弓ゆ月つきが嶽たけに　霞たなびく
《薄明うすあかり　照る夕暮ゆうぐれが　近づくと　弓ゆ月つきが嶽たけに　霞が靡なびく》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・一八一六）
今朝けさ行きて　明日あすには来こねと　言いひし子か　朝妻山あさづまやまに　霞たなびく
《帰っても　また晩来きてと　言ゆた朝妻つまの　朝妻山あさづまやまに　霞棚引く》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・一八一七）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（明日＝一日は日没から始まると考えた＝今晩）
子らが名に　懸かけのよろしき　朝妻あさづまの　片山かたやま崖きしに　霞たなびく
《聞いたなら　愛いとしい思う　朝妻あさづまの　山の片岸　霞靡なびくよ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・一八一八）



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