愛の裏側は闇(3) | |
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東京創元社 |
政治的、宗教的に混乱を極めるシリアを舞台にした、現代のロミオとジュリエットの物語、「愛の裏側は闇」(ラフィク・シャミ/酒寄進一:東京創元社)の完結編。
前巻では、修道院に入れられたファリードの受難を中心に描かれていた。神の使途を養成するはずの修道院は、閉ざされた空間の中の虚飾と欺瞞、対立と暴力が支配する世界だった。母クレアにより、修道院から救い出されたファリードだが、この3巻でも、彼の受難は続く。
政治犯として、収容所に入れられ、釈放されて教師になるも、校長と衝突して、国境近くの戦闘地区に飛ばされる。そして、再び、収容所での囚われの生活。そこは、拷問と虐待がはびこる場所。特に、新しい所長が着任してからは、ファリードにとっては、この世の地獄。殺されるのを待つだけの毎日。驚いたことに、こんなところにも、ムシュターク家とシャヒーン家の因縁が絡んでいたのである。一方、ラナーにも受難が降りかかる。家族の企みにより、いとこのラーミに犯され、無理やり結婚させられてしまった。精神に変調をきたしたラナーは、精神病院に入れられてしまうのだ。
ファリードの家族とラナーの家族の態度が正反対なのがすごい。ファリードが地獄の収容所から生きて帰れたのは、彼の両親が手を回してくれたためだし、母親のクレアは、昔から彼とラナーの理解者であった。父親のエリアスとは、昔は必ずしも上手く行っていなかったが、今はファリードを助けるためなら何でもするような勢いだ。しかし、ラナーの家族は、彼女を不幸させるようなことしかしてこなかった。一体、何のための家族か。
二人の物語の結末は、第1巻から予想されたような最悪のシナリオではなかったことには安堵した。ファリードが、彼を逮捕しようとする、マフディの裏をかいたこと、ラナーが最後にラーミに最高の仕返しをしたことは、全体に陰鬱なトーンで流れるこの作品において、初めて胸がすくような思いを味わせてくれる。
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