失敗を生かす仕事術 (講談社現代新書) | |
クリエーター情報なし | |
講談社 |
・畑村洋太郎
・講談社現代新書
本書の名前を一言で言えば、「失敗に学べ」もしくは、「失敗を活かせ」ということだろうか。もちろん致命的な失敗をしてはいけないが、致命的ではない失敗の中には、多くの学ぶべきことがあるという。
今までは「成功例」に学んでいた。しかし、それが行き過ぎると極度に失敗を恐れるようになり、前例踏襲ばかりをやって、新しいことにチャレンジしなくなる。これでは世の中の発展は望めない。
失敗をしないように作られるのがマニュアルだ。マニュアルを別に否定するわけではないし、何事も初期段階においては、マニュアルに従うというのも重要だろう。しかしどこまでもマニュアル通りでは、創意工夫もないし、進歩もしない。本書にはこのマニュアルに関して面白いことを言っている。対象は某ファーストフード店だ。
<そこにはレストランで働く料理人に観られるような工夫、創造、仮想演習などはないに違いありません。想像力などは必要とされないので、当然〇〇〇〇〇〇でハンバーガーを何万個焼いても料理人になれません。(〇部は評者置き換え)>(p175)
まあ、ファーストフード店で働いている人で、料理人になろうと思っている人は、そもそも少ないだろうが・・・。
それはさておき、最近は、昔に比べて、失敗に許容性が無くなってきたように感じる。とにかく社員は失敗しないようにするという前提で教育が行われる。しかし、人は失敗してこそ大きく成長するのだ。もちろん致命的な失敗はしてはならないが、そうでないような失敗は、その原因を自分で考え、同じ失敗を二度としないように工夫する。これこそが、何かを確実に身につけるための最も効果的な方法だろう。そして小さな失敗に対する創意工夫の積み重ねが、致命的な失敗の予防にも繋がるのである。しかし現在はそういった余裕が日本社会から失われている。一度失敗すればそれっきりなのだ。まるでどこかの悪の組織化が進んでいるようである。
また、本書には次のようなことも書かれている。
「組織に属していると、ときに上司から法律違反のような不正を半ば強制されることもあるから困りものです。「いざとなったら会社が全部責任を負うから」などと言葉巧みに説得され、実際に問題が発覚したときは、「下の者が勝手な判断をした」と偽ってトカゲのしっぽ切の問題解決が行われることも珍しくはありません。」(p119)
典型的な例は、時折テレビなどで報道されている談合問題だろう。談合は完全な独禁法違反なのだが、業界によっては、またかと思うくらい摘発される。あれで逮捕されるのは大体が直接関係したもの(せいぜいが担当役員クラスまで)で、社長まで逮捕されたというのはあまり聞かない。でもあれは絶対にトップ層まで関係しているのではないか(もしくは黙認している)と思うのだが。
本書に紹介されている「思考展開図」というのは、なかなか興味深い。シナリオを分かりやすく図の形に展開していくものだが、色々応用が多そうな気がする。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。