文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:経済セミナー 2012年12月・2013年1月号

2014-12-26 21:55:05 | 書評:その他
経済セミナー 2012年12月・2013年1月号 :エネルギー政策と経済学
クリエーター情報なし
日本評論社


 「経済セミナー」(日本評論社) の2012年12月・2013年1月号。私の本来の専門は、電気・電子工学であるが、経済学についても、かなり勉強して、副専攻は経済学だと勝手に思っている。ということで、時々、このような雑誌も読むのだが、この雑誌、2年前に買ったまま、積読の山の中に埋もれて遭難してしまっていたやつである。先般、たまたま掘り出したのだが、高い雑誌なので、一応中を読んでみた。書籍ならともかく、普通は、これだけ過去の雑誌などのレビューは書かないのだが、記事の中に、読んでいて気になることが多いものがあったので、その記事に絞って書いてみることにした。特集「エネルギー政策と経済学」のトップにある、「電力システムの構造改革」という記事で、大田弘子氏と山田光氏の対談を掲載したものだ。

 読んでみて感じたのは、このお二人、電力システムのことを本当に理解して、発言しているのだろうかということ。いくつか気になる部分をあげてみよう。

<危機が発生すると、計画停電のようなとんでもない事態に至り、地域独占がいかに不安定な供給システムであったかが明らかになった>(p12)
⇒電気が足りなくなるのは、単に発電機のトータルの発電力と電気の需要の関係だけの話であり、地域独占かどうかは関係ないと思う。逆に、電源を好きに作っていいとすれば、儲からないと作らなくなって、却って不安定な供給システムになる可能性がある。

<需要側でのコントロールも想定されてない仕組みです。需要側の節約のインセンティブはまったくない>(p14)
⇒インセンティブがないどころか、色々な料金メニューで、ピークをシフトさせようとしている。(例えば関西電力ホームページ)こんな、すぐわかることも調べてないのだろうか。


<総括原価方式ではコストを積み上げれば積み上げるほど事業報酬が増えます>(p14)
⇒常識的に無駄な設備をどんどん作ると、借入金の金利の支払いの方も大変になるので、そんなことはしないと思うのだが。

<アメリカでは、ネットワークと市場を管理するオペレーターが、非常に小さい電源から回すわけです>(p15)
⇒非常に小さいとは、どの程度の規模だろうか。小さい発電機(例えば太陽光のひとつひとつ)まで、中央で管理しているわけはない(管理しきれない)と思うのだが。それに、まともなオペレーターなら、発電機の大きさではなく、ベースロードを担えるようなコストの安い発電機から回していくだろう。

<揚水発電は1年のうちたとえば4~5日しか回す必要がない発電所です。>(p16)
⇒昨年度の揚水の利用率は3%だそうだ。揚水発電の目的は、そもそもが昼間のピークカットだから、1日3時間程度の運転を仮定しても、100日程度は回っていることになるのだが。

<場所によって値段が違うと、それによって効率的な発電所や送電網の建設が促されるわけですね>(p16)
⇒市場に任せれば全てうまく行くと言うのはイデオロギーにすぎない。発電所も、送電線も、どこにでも作ると言う訳にはいかず、いろいろと制約が伴うのは自明だろう。

 その他にも気になるところはあるが、きりがないのでこの位でやめよう。要は、工学的、技術的なものはあまり知らないまま、単に市場原理主義というイデオロギーだけで語っているように思えるのだ。このお二人、例えば安定度なんて概念は果たしてお知りなのだろうか。こう言う記事を読むと、つくづく学際的ということの重要性を感じる。経済学の人間も、もっと他分野の人間と議論する必要があるだろうし、他の分野の人間も、もっと経済学の話題に入っていかなくてはいけないと感じた。

☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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