本書によれば、現代は、宗教が観光と融合しているということだ。例えば、スペイン北西部にあるカトリックの聖地であるサンティアゴ・デ・コンポステラまでの数百キロもの巡礼路を歩く人が2000年代以降増えているという。大変な道のりを歩くのだから、信仰に熱心な人が多いのかと思いきや、多くは、普段教会に行かなかったり、非キリスト圏の人々であるらしい。それでは彼らは何のために旅をするのか。
実は彼らは、ゴールへ行くことよりむしろプロセスを楽しんでいるのだ。巡礼することによる非日常的な体験。宗教より観光。それこそが現代の巡礼の特徴だという。そしてそれはわが国でも同じで、例えば四国八十八か所の例を挙げている。
しかし、我が国では、葬式は仏式でやり、初詣で神社に行き、クリスマスを祝う。あまり特定の宗教に縛られている人は少ないのではないか。(まあ、昔、マルクス主義に帰依していた人間は多かったが)。そんな我が国だから、観光で寺社に行くというのは、昔からあったことだ。だから、寺社の門前に歓楽街ができたりしたのだろう。
「伊勢参り 大神宮にもちょっと寄り」という川柳があるくらいなので、昔から日本では、聖地に参るよりは、観光の方が主目的の人が多かったのだと思う。
そもそも四国八十八か所と言えば、弘法大師空海の足跡を辿るものだ。空海といえば真言宗である。八十八箇所の寺は大部分が真言宗だが、時代とともに宗派が変わったところもある。
要するに、既存の宗教のベールが、科学のもとで1枚1枚剥がされていく。そして、残ったのが「観光」ということなのだろうと思う。日本の場合は、宗教に害される人がそんなに多くなかったのだろう。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。