これは、半七捕物帳のなかでも変わり種と言えるだろう。何しろ半七親分が捕物をしていないのだ。ここで取り扱われるのは、半七が書き留めていた話。
江戸時代の裁判と言うと、TVドラマなどでは、お奉行様が好き勝手にやっているように見える。本書によれば、実は、奉行所には一定の「目安書」というものがあって、それに従って判決を下したというのだ。今で言えば判例集のようなものか。だから、これから外れたようん判決はなかなか出せなかったらしい。
問題は、天領の代官所である。その土地の出来事は代官所で裁判するのが原則だが、手に余る事件の場合は、変な捌をして、後で譴責を受けないよう、「何々の仕置可申付哉、御伺」と江戸の方に問い合わせていたという。それに対し、奉行所は「御指図書」と言う返事を返していた。
奉行所では後日の参考のため、「御仕置例書」と言う帳面に書きとどめて置く。この蝶面は係の他は見ることが出来ないのだが、半七は贔屓にしてくれる吟味与力から貸してもらって、珍しい事件を書き抜いていた。
この話は、その「御仕置例書」に乗っている話で、今から170年以上も前の話である。
下総国新石下村で、5人の若い男が猪番小屋で松葉でいぶされ即死、2人が半死半生となった。死んだ5人は罠にかかった子狐を松葉燻で責め殺している。これは、眷属の子狐が殺されたことに怒った小女郎狐のしわざか。そして事件は意外な展開を見せる。
このように、最初はホラー風味で始まっているが、終わってみると不思議なことは何もなかったという、ある意味このシリーズの定番か。
☆☆☆