文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:左京区七夕通東入ル

2014-12-31 09:27:36 | 書評:小説(その他)
左京区七夕通東入ル (小学館文庫)
クリエーター情報なし
小学館


 文系女子と、理系男子の、ちょっと変わったラブストーリーを描いた、「左京区七夕通東入ル」(瀧羽麻子:小学館文庫)。この「○○通△△入ル」というのは、碁盤目状に街が作られている京都独自の住所表記法だが、さすがに京都でも、「七夕通」なんてロマンチックな地名はない。実は二人が出会ったのが七月七日の七夕の日。そこから始まる二人の物語には、よく似合ったタイトルだと思う。

 主人公の花は、理系科目が大の苦手な文学部の4回生。既に東京の商社に就職も決まっている。別の大学に通う友人のアリサに誘われ、合コンに参加するが、そこで出会った風変わりな数学科の学生、たっくんになぜか魅かれた。二人は、たっくんの寮のやはり風変わりな友人たちや、たっくんの先輩である陽子さんらとの関わりの中で愛を育んでいく。

 二人の通う大学は、名前が明記されていないものの、明らかに京都大学だ。作者は、京都大学の経済学部出身で、一応は文系女子。ただ、最近の経済学は、形式上数学を駆使するので、主人公の相手に選んだのは数学科の男子という設定だったのかなと思った。ちなみに、アリサは、この大学から自転車で10分足らずのところにあるミッション系の女子大だから、同志社女子大だろうか。彼女の彼氏が、花の大学にいるので、自分の大学でもないのに入り浸っているらしい。

 ところで、先般、警察官が京大キャンパス内に無断で立ち入ったとして、ひと悶着あったが、この作品にも、寮が機動隊に囲まれたりというようなことが書かれている。確かに寮に住んでいた私の友人(もちろんノンポリです)は、機動隊の盾に押しつぶされて、足に怪我したなんって言っていたような覚えはあるのだが、私たちが通っていたころはもう学生運動も下火になっていたし、私が大学院に入った頃になると、明らかに学生の感じも変わっていた。大体自転車置き場が大混雑になるなんて、自分たちが学部の頃には考えられなかったことだ。いったい、そんなに毎日授業に出てどうすると思ったものである(笑)。もうあんな激しい時代は過ぎさったと思っていたのだが、今でも同じような事があるとは驚きである。

 いくつか気になるところもある。まず、作者も文系女子だったので、理系男子に対して、偏見はないだろうか。「おしゃれでかっこいい文学部とださくていけてない理学部」(p178)って誰が決めたんだ。少なくとも私が通っていた頃は、「おしゃれでかっこいい」学部なんてなかったと思うのだが。実は、私、学部・大学院と合計6年間も通っていながら、そもそも文学部ってどこにあったのか、まったく知らないのだ。でも、同じ学生アパートに文学部に通う後輩がいた(イケメンだったが、決しておしゃれでかっこよくはなかった)し、キャンパスでもおしゃれなやつなんて見かけなかった。時代が変わったということなのだろうか。また、北部キャンパス内に工学部もあると書かれていたが、工学部は中央キャンパスだ。(大学院は現在大部分が桂キャンパスに移転しているが。)

 しかし、作品内の人物の活動範囲が、自分の学生時代と重なってなんとも懐かしい気持ちにさせてくれる。ただし、私たちのころは、今よりも女子比率がぐっと低く、私たちの学科には一人もいなかった。まさか、京都大学を舞台にして、ラブストーリーが語れるようになるとは、当時の私には想像もできなかったことだ。やはり、時代は大きく変わってしまったようである。
 
☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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