★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇クリスタ・ルートヴィッヒのマーラー:さすらう若人の歌/亡き子をしのぶ歌

2020-06-22 09:43:49 | 歌曲(女声)

マーラー:さすらう若人の歌
     亡き子をしのぶ歌

メゾ・ソプラノ:クリスタ・ルートヴィッヒ

指揮:エードリアン・ボールト(さすらう若人の歌)
   アンドレ・ヴァンデルノート(亡き子をしのぶ歌)

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

録音:1958年10月18日~19日、ロンドン、EMIスタジオ

LP:東芝EMI EAC‐40095
 
 マーラーと歌曲は、切っても切れない関係にある。交響曲にも歌を取り入れ、ベートーヴェンが切り開いた交響曲と歌の組み合わせスタイルを、さらに発展させることに成功した。マーラーの歌曲単独の作品としては「子供のふしぎな角笛」や、今回のLPレコードに収録された「さすらう若人の歌」「亡き子をしのぶ歌」などが知られている。この2曲は、男性歌手でも女性歌手でも歌われるが、「さすらう若人の歌」は男性歌手が、「亡き子をしのぶ歌」は女性歌手が、歌うことが多いようである。「さすらう若人の歌」は、当時カッセル歌劇場の補助指揮者であったマーラーが、23歳の時に書いた、自作の詩による4つの連作歌曲集である。第1曲は、愛するものを失った若者の悲しみ、第2曲は、陽光を浴びた万物の喜びと、すべての幸福から取り残された者の悲しみ、第3曲は、激しい前奏に続いて、胸を灼く苦痛が激情的に歌われ、第4曲は、夢破れてさすらう若者の悲しみが歌われる。一方、「亡き子をしのぶ歌」は、ウィーン宮廷歌劇場時代の1900年から1902年にかけて作曲された。テキストは、リュッケルトの同名の詩による。この曲は、時々、マーラーが自身の子供の死を歌った作品と紹介されるが、実際は、子供の死の前に書かれた。この辺の経緯を、このLPレコードのライナーノートで西野茂雄氏は、「マーラーの愛児の死を動機として生まれたものではない。あまりに生々しい素材であり、おそらくマーラー自身の言葉のように“当時子供があったとしたら到底書けなかった”ような作品」と記している。しかし皮肉にも、マーラーは、この曲を作曲した後、短い間に2人の幼い娘を亡くしてしまうのである。このLPレコードで、これらの2曲を歌っているのは、ベルリン生まれのメゾソプラノ歌手クリスタ・ルートヴィヒ(1928年生まれ)である。1962年にオーストリア宮廷歌手の称号を受け、1994年に引退した。その歌声は、実に暖かく、しかも安定感に富んでいて、安心して聴くことができる歌手の一人だ。このLPレコードでもその長所を如何なく発揮している。「さすらう若人の歌」においては、若者の苦悩を実に巧みに表現することに成功している。大上段に構えるのではなく、若者の心情を心の底からの共感で歌い込む。一方、「亡き子をしのぶ歌」では、愛するわが子を失った母親の悲しみが、リスナーにひしひしと伝わってくる。この曲でも、クリスタ・ルートヴィッヒは、淡々とした表情で歌い通す。しかし、それは深い悲しみへの共感に貫かれたものだけに、悲しみが何倍にも膨らんでリスナーに届く。(LPC)


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