★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇バリリ四重奏団のベートーヴェン:弦楽四重奏曲第3番/第4番

2023-01-12 10:04:11 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第3番ニ長調op.18-3
        弦楽四重奏曲第4番ハ短調op.18-4

弦楽四重奏:バリリ四重奏団

発売:1965年

LP:キングレコード MR 5089

 バリリ四重奏団は、1954年に結成された弦楽四重奏団である。その洗練されたウィーンスタイルと柔軟さに溢れた豊穣な音、そして4人の息がピタリと合い、安定し、しかも奥ゆかしい表現力などが高く評価され、当時随一の人気を誇っていたクァルテットであった。第1ヴァイオリンがウィーン・フィルのコンサートマスターのワルター・バリリ(1921年―2022年)、第2ヴァイオリンがウィーン・フィルの第2ヴァイオリンの首席奏者のオットー・シュトラッサー、ヴィオラがウィーン・フィルの首席ヴィオラ奏者のルドルフ・シュトレンク、そしてチェロがエマヌエル・ブラベッツの各メンバーからなっていた。ウィーンの演奏の伝統とバリリの個性を融合した格調高い上品なアンサンブルを築き上げ、世界的な名声を得た。1957年(昭和32)には来日を果たしたが、1959年バリリが右腕麻痺に冒されたため解散。ベートーベンやモーツァルトの演奏に一時期を画した。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、第1期(1798年~1800年)op.18の6曲、第2期(1805年~1806年)op.59の3曲、第3期(1809~1810年)op.74、95、そして第4期(1824年~1826年)op.127、130 ~133、135の4つの時期に分類することができるが、このLPレコードに収録されている曲は、第1期に属する弦楽四重奏曲第3番と第4番の2曲である。第1期の6曲は、古典的ソナタ様式を基礎とした時期の最後に属し、次の実験的革新期への移行期につくられた作品。ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第3番は、作品18の6曲の中で一番先に完成されたもので、明るく、若々しさに溢れた弦楽四重奏曲となっている。ベートーヴェン28歳の時の作品。第1楽章アレグロ、第2楽章アンダンテ・コン・モート、第3楽章アレグロ、第4楽章プレストの4つの楽章からなる。バリリ四重奏団は、そんなベートーヴェンの若さ溢れる弦楽四重奏曲を、実に爽やかに軽快に演奏しており、後期の弦楽四重奏では到底聴くことができない、聴いていて自然に楽しくなってくるような雰囲気を巧みに表現している。一方、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番は、1800年頃(30歳)作曲された作品で、「悲愴ソナタ」や「運命交響曲」と同じハ短調というベートーヴェンにとって宿命的な調性で書かれている。それだけに、作品18の6曲の中では一番独創性に富んでおり、説得力のある若き日の力作の一つとなっている。第1楽章アレグロ・マ・ノン・タント、第2楽章アンダンテ・スケルツォ・クワジ・アレグレット、第3楽章メヌエット、アレグレット、第4楽章アレグロの4つの楽章からなる。バリリ四重奏団もそんな弦楽四重奏曲を、深い洞察力をもって弾きこなしており、リスナーはそれによって、弦楽四重奏曲の持つ醍醐味を余す所なく味わい尽くすことができるのである。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇懐かしきマエストロ達の指揮によるウィーン・フィルのウィンナーワルツの名曲

2023-01-09 10:05:23 | 管弦楽曲

~ウィンナ・ワルツの楽しみ~

ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「美しき青きドナウ」
ヨハンⅡ&ヨゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ
ヨハン・シュトラウスⅡ:皇帝円舞曲
ヨゼフ・シュトラウス:かじ屋のポルカ
ヨハン・シュトラウスⅡ:常動曲
レハール:ワルツ「金と銀」
ヨハン・シュトラウスⅡ:アンネン・ポルカ
ヨハン・シュトラウスⅡ:トリッチ・トラッチ・ポルカ
ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「ウィーンの森の物語」
ヨハン・シュトラウスⅠ:ラデツキー行進曲

指揮:ウィリー・ボスコフスキー
   ヨーゼフ・クリップス
   ヘルベルト・フォン・カラヤン
   ハンス・クナッパーツブッシュ

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ツィター:アントン・カラス

発売:1981年

LP:キングレコード K18C‐3012

 このLPレコードは、わが国でも御馴染みの曲が多いウィンナ・ワルツを収めた、聴いていて楽しくなること請け合いの1枚なのである。そんな我々の耳に馴染んだはずのウィンナ・ワルツではあるが、改めて「ウィンナ・ワルツて何?」と訊かれると意外に返答に窮するものである。それもそのはず、ヨーロッパにおいても3拍子のワルツと、同じく3拍子のメヌエット、ミュゼット、レントラー、それにドイツ舞曲などの曲の違いには微妙なものがあり、大作曲家さえ時々間違えた指定をしている場合があるという。まあ、難しい定義はさておき、ウインナ・ワルツは「19世紀のヨーロッパで広く流行った、男女が一組のペアを組み踊る舞曲で、美しい旋律、華やかしさ、それに機知にも富んでいるワルツ」とでも考えておけばいいのでは・・・。このLPレコードに収録されている曲の中から幾つかを簡単に紹介すると・・・「美しき青きドナウ」は、最も親しまれ、ウィンナ・ワルツの最高傑作で、ゆったりとした春まだ浅いドナウのさざ波のような序奏で始まり、5つのワルツと各ワルツを断片的に回想する長いコーダでできている。「皇帝円舞曲」は、ゆっくり目の行進曲による序奏部から始まり、気品に満ちた第1ワルツから次々に華麗な3つのワルツが続き、最後に堂々とした王者のようなコーダとなる。「金と銀」は、序奏部がなく、直ぐに第1ワルツから始まる。親しみやすい美しい旋律による3つのワルツからできている。「ウィーンの森の物語」は、長大な導入部と4つのワルツからできている。この曲の魅力の一つはツィター演奏にあるが、ホルンやオーボエやフルートの使い方など他のワルツにない美しい書法が見られる。このLPレコードに収録されているオーケストラはというと、ウィンナ・ワルツの本場であるウィーン・フィル。それに指揮者が昔懐かしいマエストロ達である。つまりウィリー・ボスコフスキー(1909年―1991年)、ヨーゼフ・クリップス(1902年―1974年)、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908年―1989年)それにハンス・クナッパーツブッシュ(1888年―1965年)という豪華版なのが何とも魅力的であり、実際その演奏内容は、いずれもウィーン情緒をたっぷり盛り込んだ、申し分ないものに仕上がっている。さらに昔一世を風靡したツィターの名手アントン・カラス(1906年―1985年)が演奏しているのが、何を置いても嬉し限り。まずはこのLPレコードの心も踊るウインナ・ワルツの名曲を聴きながら希望に満ちた未来を信じたいものだ。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラーのベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」(足音入りライヴ盤)

2023-01-05 09:45:47 | 交響曲(ベートーヴェン)


ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」(足音入りライヴ盤)

指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

独唱:エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ)
   エリザベート・ヘンゲン(アルト)
   ハンス・ホップ(テノール)
   オットー・エーデルマン(バス)

合唱:バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団

録音:1951年7月29日

発売:1965年

LP:キングレコード(ウエストミンスター) MR5089

 毎年12月ともなると日本中でベートーヴェンの「第九」が演奏され、日本における年中行事の一つとなってからかなりの年月が経つ。本家のヨーロッパではというと、ベートーヴェンの「第九」は、そう滅多に演奏される曲ではなさそうで、何か特別なイベントがあった際に演奏されるようである。逆に言うと、そのスケールの大きさや内容の深淵さ、さらに人類全体に呼びかけるような崇高な曲の性格を考えると、そう滅多に演奏されるべき曲ではない、といったような判断がその背景にはあるのかもしれない。今回のLPレコードは、数ある「第九」の録音の中でも折り紙付きのウィルヘルム・フルトヴェングラー(1886年―1954年)の名盤 “バイロイトの第九” である。これは、第二次世界大戦で中断していたバイロイト音楽祭の復活コンサート(1951年7月29日)でのライヴ録音なのである。フルトヴェングラーが指揮台へと向かう足音が捉えられていることで “足音入りの第九” としても知られた、正に記念碑的録音なのである。フルトヴェングラー自身、戦時中のナチとの関係を疑われ、戦後一時期演奏活動を中止せざるを得なかったこともあり、ここでの演奏は、これまでの抑圧から解放され、平和を聴衆と共にすることの喜びに心の底から共感した結果、「第九」演奏史上、稀に見る名演を遺す結果となったのだ。録音状態は鑑賞に際して特に支障はないといったところで、決して万全の状態ではないのであるが、当時のライヴ録音のレベルを考えるとしっかりと音を捉えている部類に属する。集中度を極限までに高め、心の奥底から振り絞ったような説得力ある演奏内容は、あたかもベートーヴェンの魂がフルトヴェングラーに乗り移ったかのようでもある。第1楽章、第2楽章の劇的な展開から一転して、第3楽章の深い安らぎに満ちた祈りの演奏であり、この世のものとも思われないような音楽がそこに忽然と現れるのである。そして第4楽章の「歓喜の歌」では、人類の平和と輝かしい未来への願いを一挙に爆発させ、フルトヴェングラーは、この記念碑的な演奏を終える。そして不世出の大指揮者フルトヴェングラーはこの録音の3年後に、この世を去ることになる。「第九」の録音はこれまで幾多の指揮者達によってなされ、そしてこれからも「第九」の録音は数多く輩出されるであろうが、そんな中にあって、このフルトヴェングラーの “バイロイトの第九” の録音は、これからも永遠の生命力を持ち続けることだけは疑いのないことである。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする