★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ケンプのシューベルト:4つの即興曲op.90/4つの即興曲op.142

2022-10-17 09:35:58 | 器楽曲(ピアノ)


シューベルト:4つの即興曲op.90
       4つの即興曲op.142

ピアノ:ウィルヘルム・ケンプ

録音:1965年9月1日~3日、ハノーヴァー、ベートーヴェン・ザール

LP:ポリドール(独グラモフォン) MG‐2122

 シューベルトの合計8つの即興曲は、類なき簡潔性と完成度の高さ、それに美しいメロディーとが相俟って、現在に至るまであらゆるピアノ曲でも最も人気の高い作品の一つとなっている。シューベルトの即興曲は、自筆の楽譜が存在しておらず、およそ1927年から1928年9月ごろまでに書き上げられたと考えられている。作曲の動機やいきさつについては一切明らかになっていない。しかし、それらはすべてシューベルトの偉大な天分による作品であることだけは明らかなことで、それだけに、現在に至るまで数多くの録音が残されており、これからもこの傾向は変わらないであろう。そんな中、あらゆる録音のお手本とも言えるのが、このケンプが残したLPレコードである。ここでケンプは、あたかもシューベルトの即興曲の原点に立ち返るように、何の作意もなく、さらりと弾いている。しかし、よく聴いてみると、その裏には、ケンプがシューベルトの本質に迫まろうとする、類稀な集中力が存在し、同時にあらゆる既成概念を払拭し演奏していることが、このLPレコードから聴いて取ることができる。これは正に名人芸であり、至高の高さまで到達した究極の演奏とも言えるもの。ウィルヘルム・ケンプ(1895年―1991年)は、ドイツ出身のピアニスト、オルガニストであり、バッハ、ベートーヴェンそれにブラームスなど、ドイツ古典派、ロマン派を得意としていた。ベルリン音楽大学で作曲とピアノを学ぶ。1917年ピアノ組曲の作曲により「メンデルスゾーン賞」を受賞。つまり、ケンプは1930年代まではピアニストではなく、一般には作曲家と認識されていたのだ。1918年にアルトゥル・ニキシュ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番で協演した。一方、1924年からシュトゥットガルト音楽大学の学長を務めるなど後進の育成にも力を入れた。そして、1932年にはベルリンのプロイセン芸術協会の正会員となり、ドイツ楽壇の中心的役割を担うようになった。1933年には、十字勲章を授与されている。第二次世界大戦後は、ピアニストとして活躍。1950年代にはベートーヴェンのピアノソナタ全集をリリース。ケンプは親日家で、1936年の初来日以来、合計10回も来日した。1961年日本においてベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会を開催。さらに1970年ベートーヴェン生誕200周年記念で来日し、ピアノソナタおよびピアノ協奏曲の全曲演奏会を開催した。ケンプは、当時の日本人が最も敬愛していたピアニストの一人であった。(LPC)

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