★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ロストロポーヴィッチ、コーガン、ギレリスによるベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」

2021-09-20 09:45:37 | 室内楽曲


ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」

チェロ:ムスチスラフ・ロストロポーヴィッチ
ヴァイオリン:レオニード・コーガン
ピアノ:エミール・ギレリス

LP:ビクター音楽産業(メロディア) VIC-1015 

発売:1979年

 ベートーヴェンのピアノ三重奏第7番「大公」は、あらゆるピアノ三重奏曲の頂点に君臨する曲であり、聴くたびにリスナーを雄大な気分にしてくれる名曲である。それだけに3人の奏者がどのように「大公」を解釈し、そして演奏するかに全神経が集中する。今回のLPレコードは、ロストロポーヴィッチ、コーガン、ギレリスという旧ソ連のクラシック音楽界に君臨した3人が演奏したものだけに、巨匠風の演奏内容を連想するが、実際に聴いてみると、実に若々しく、緻密な「大公」を演奏しており、逆にその点で感銘を受ける。録音は1960年頃のようであり、3人ともまだ若かったのだ。ベートーヴェンは、ごく初期からピアノ三重奏曲に手を染めている。第1番~第3番のピアノ三重奏曲は、作品1として出版されている。その後、10年ほどの間、ピアノ三重奏曲の創作から離れたが、1895年に作品11、1808年に作品70の2曲のピアノ三重奏曲を書いていている。それから2年余、1811年に第7番「大公」を作曲した。この後、同じ形式で「カカドゥ変奏曲」を書いているが、ピアノ三重奏曲としては、第7番が最後の曲となった。第7番はベートーヴェン40歳の時の作品で、全7曲のピアノ三重奏曲中もっとも規模が大きく、古今のあらゆるピアノトリオの頂点を極めた傑作として君臨している。スケールが大きく、ピアノを軸とした協奏曲風の絢爛さに満ちている。さらに豊かな旋律や美しい和声の響きなどを備えた、風格と気品に溢れた名作といえる。良きベートーヴェンの理解者であり、支援を惜しまなかったルドルフ大公に献呈されたため「大公」という愛称で呼ばれている。ルドルフ大公は、ベートーヴェンよりずっと若かったが2人は馬が合い、ベートーヴェンは、第4と第5のピアノ協奏曲、ハンマークラヴィアソナタ、荘厳ミサ曲などをルドルフ大公に献呈している。このLPレコードで演奏しているピアノのエミール・ギレリス(1916年―1985年)、ヴァイオリンのレオニード・コーガン(1924年―1982年)、チェロのムスチスラフ・ロストロポーヴィチ(1927年―2007年)は、旧ソ連が誇った演奏家たちで、オイストラフ、オボーリン、クヌシェヴィッキーの次の世代に旧ソ連の楽界を背負った逸材達であった。3人は1950年代末にしばしば来日した。このLPレコードでの3人の演奏は、完璧な技術に加え、隅々まで磨かれた美しい音色が印象的であり、知的な演奏が統一感を持って十全に表現されている。ただ、惜しむらくは音質が今一つ冴えないのは残念。(LPC)

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