★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フランスの一流の独奏者によるモーツァルト:協奏交響曲K.297b/協奏交響曲K.364

2021-01-11 09:47:13 | 協奏曲

モーツァルト:協奏交響曲K.297b

           オーボエ:ピエール・ピエルロ
           クラリネット:ジャック・ランスロー
           ホルン:ジルベール・クールジェ
           バスーン:ポール・オンニュ
        
モーツァルト:協奏交響曲K.364

           ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ
           ヴィオラ:ジュスト・カッポーネ

指揮:カール・リテンパルト

室内管弦楽:ザール室内管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AB-8105

 協奏交響曲は、18世紀の協奏曲の一種で、合奏協奏曲に倣って複数の独奏楽器が使われる。ここで言う「交響曲」の意味は、複数種の楽器の音が交わることを意味し、一般に言う交響曲とは異なる。マンハイム楽派の作曲家によって多く書かれたが、ハイドンやモーツァルトも作曲した。モーツァルトは、1777年、母とともに故郷ザルツブルグを後にして、マンハイム、パリへと向かった。パリでは、昔、父レオポルトと共に世話になった文人グリムに合い、紹介状を書いてもらい、職に就こうとしたが叶わなかった。その頃書いた曲に有名な「フルートとハープのための協奏曲」がある。その頃、父親に宛てた手紙でモーツァルトは「・・・ところで私は協奏交響曲を一曲つくります。ヴェントリンクのフルート、ラムのオーボエ、プントのヴァルトホルン、リッターのファゴットのためのものです・・・」と書いている。結局この作品は上演されず、その自筆原稿は失われてしまったが、この曲こそが協奏交響曲変ホ長調K.297bなのである。今残っているのは、フルートがオーボエに、オーボエがクラリネットに変えられた改作だが、曲の本質的な変更はなされていないようなので、現在モーツァルトの作品に位置付けられている。パリでの生活で唯一好評だったのは、交響曲ニ長調「パリ」K.297であったが、この喜びもつかの間、母が旅先のパリで病死してしまい、モーツァルトは悲嘆にくれた。そしてパリを逃げるようにしてザルツブルグへ戻る。しかし、2年後には、大司教と喧嘩をしてしまい、モーツァルトはザルツブルグを飛び出し、ウィーンへと向かう。そんな状況の中、1779年に作曲されたのが、協奏交響曲変ホ長調K.364である。この後、モーツァルトは協奏曲の分野では、もっぱらピアノ協奏曲に力を入れていく。このレコードで指揮をしているカール・リステンパルト(1900年―1967年)は、ドイツの港町キール生まれの指揮者。また、このLPレコードの独奏者は、すべて当時のフランスを代表する優れた演奏家たちであり、リステンパルトとの息もピタリと合い、緻密でしかも優雅な演奏を披露している。この2曲の協奏交響曲は、現代の感覚からすると、あまりにも古の雅な感覚が強く漂う。しかし、逆にそれだからこそ、現代人が失っってしまった美的感覚がぎっしりとつまっている曲であり、演奏なのである。もうこれからは、リスナーは、このLPレコードのような優美な演奏を耳にすることはないのかもしれない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロストロ・ポーヴィッチのプロコフィエフ/ショスタコーヴィッチ:チェロソナタ

2021-01-07 09:38:35 | 器楽曲(チェロ)

プロコフィエフ:チェロソナタ
ショスタコーヴィッチ:チェロソナタ

チェロ:ムスチスラフ・ロストロポーヴィチ

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル(プロコフィエフ)
    ドミトリー・ショスタコーヴィチ(ショスタコーヴィッチ)

発売:1979年

LP:ビクター音楽産業 VICX‐1013

 プロコフィエフ:チェロソナタは、1949年に書かれたプロコフィエフ最晩年の作品。最晩年の作品と聞くと、何やら深淵な曲想を連想するが、この曲はそれと逆で、分かりやすく、明快な曲想に基づいている。旧ソビエト政府は、プロコフィエフの作品に対し「難解で労働者階級の音楽ではない」と批判的であったが、そのころ既にプロコフィエフは世界的な名声を得ていたために、旧ソビエト政府といえどもプロコフィエフだけには手を出せなかったというのが真相であった。このためプロコフィエフは自由に海外にも行けたし、自由に作曲もできた。ところが、1948年に「ジュダーノフ旋風」が巻き起こり、ショスタコーヴィチやハチャトリアンなどに加え、プロコフィエフも批判の対象となってしまう。「彼らは西欧的な形式主義を信奉して、社会主義リアリズムを忘れている」というのがその批判である。プロコフィエフといえども、今回ばかりは旧ソビエト政府の意向の沿う曲を作曲せねばならなくなり、生まれたのが「労働者階級に密接に結び付いた曲」であるチェロソナタであった。一方、ショスタコーヴィッチ:チェロソナタは、「ジュダーノフ旋風」が巻き起こる前の1934年に書かれている。初期の実験的な作品群から中期への過渡期に位置するこの作品は、3年後に書かれる第5交響曲を予告するような内容で、古典的な構成と現代的な感覚が融合されていると同時に、悲劇的感情と抒情味が渾然と一体化された、20世紀のチェロ作品を代表する名曲となっている。このLPレコードでのロストロポーヴィチのチェロ演奏は、祖国を同じくする作曲家への深い愛着を込めたもので、一音一音を丁寧に弾きこむ。プロコフィエフの曲では、明快さを強調したメリハリのある演奏を披露する。リヒテルのピアノもロストロポーヴィチの演奏にぴたりと寄り添い、一体感ある演奏にまで高めているところは流石というほかない。一方、ショスタコーヴィッチ:チェロソナタの演奏では、ロストロポーヴィチは、暗い情熱と豊かな抒情性とを巧みに組み合わせた、ダイナミックな演奏手腕を見せ、当時世界一と言われた実力をいかんなく発揮していることが聴き取れる。ショスタコーヴィチのピアノ演奏も本職裸足の見事なもの。それにしても「ジュダーノフ旋風」が、これらのロシア人作曲家に及ぼした影響は甚大なものであったが、それを逆手に取って作品を生み出した、当時のロシア人作曲家の強靭な精神には、頭が下がる思いがする。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇フェレンツ・フリッチャイのモーツァルト:交響曲第40番/第41番「ジュピター」

2021-01-04 09:37:45 | 交響曲(モーツァルト)

 

モーツァルト:交響曲第40番
       交響曲第41番「ジュピター」

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ウィーン交響楽団

発売:1974年

LP:ポリドール MH 5002

 このLPレコードは、モーツァルトの交響曲第40番と交響曲第41番「ジュピター」を、名指揮者フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)がウィーン交響楽団を指揮した録音。モーツァルトの晩年は、常に資金繰りに苦しめられていた。だから、晩年は金になる作曲や演奏活動に多くの時間が割かれたわけであるが、そんな切羽詰まった時に、交響曲の二大傑作である交響曲第40番および交響曲第41番「ジュピター」が生まれたのだから驚きだ。まあ交響曲第40番は悲壮感漂う曲想なので理解がいくが、交響曲第41番は「ジュピター」という愛称が付くほど、堂々として威厳に満ちた曲想であることは、奇跡的なことも言える。この2曲を指揮しているのがベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを歴任したハンガリー出身の指揮者フェレンツ・フリッチャイである。ブダペスト音楽院で学び、1947年、オットー・クレンペラーの代役としてザルツブルク音楽祭で一躍脚光を浴びた。ドイツでの活躍に加え、1953年、ボストン交響楽団を指揮してアメリカでもデビューを果した。しかし、白血病のため48歳の若さで他界しまう。その才能を惜しんで、バリトンのフィッシャー=ディースカウは「フリッチャイ協会」を設立したほど。指揮者として成熟の直前のその死は、多くの人々に惜しまれた。幸い、フリッチャイが指揮した録音は比較的多く、現在でもそのCDを入手することができる。フリッチャイの指揮の特徴は、オーケストラを自分の情熱的な指揮に完全に一体化し、集中度が限りなく高い演奏を聴かせてくれること。今回のウィーン交響楽団を指揮した録音は、そんなフリッチャイのいつもの姿勢とは少々異なり、より理性の勝った指揮ぶりを聴かせる。特に交響曲第40番の指揮のこのことが顕著に表れる。しかし、聴き終えると、理性の勝った今回の指揮の方が余計にモーツァルトの“疾走する悲しみ”をリスナーは実感できるともいえる。このことをフリッチャイは計算しての指揮したのだろうか。それともウィーン交響楽団の持つ特質を考えた末の結論だったのか。これに対し交響曲第41番「ジュピター」の指揮は、いつものフリッチャイが少々戻り、集中力の高い、情熱的でスケールの大きい演奏を披露する。特に第1楽章に、このことが顕著だ。いずれにしてもフリッチャイは、指揮者として大成の直前に亡くなってしまったということを、このLPレコード聴くことにより、実感させられる。(LPC)

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