★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ワルター・ギーゼキングのモーツァルト:ピアノソナタ第12番/8つの変奏曲K.460/ピアノソナタ第15番/12の変奏曲K.354/幻想曲K.396

2021-01-21 09:41:55 | 器楽曲(ピアノ)

モーツァルト:ピアノソナタ第12番K.332
       8つの変奏曲K.460
       ピアノソナタ第15番K.545
       12の変奏曲K.354
       幻想曲K.396

ピアノ:ワルター・ギーゼキング

LP:日本コロムビア OL-3119、

 これは、ドイツ出身の名ピアニストのワルター・ギーゼキング(1895年―1956年)がモーツァルトの2つのピアノソナタと2つの変奏曲、それに一つの幻想曲を収録したLPレコード。ドイツ出身と言っても生まれはフランスで、16歳の時に母の故郷であるドイツ・ハノーヴァーに移り住んだ。このことがギーゼキングのピアノ演奏の特徴を形成する源になった。ギーゼキングは、楽譜に忠実に演奏するスタイルを確立し、ピアノ演奏を近代的なものに生まれ変わらせた第一人者だ。楽譜に忠実にと言っても、ギーゼキングの場合は、教科書的で堅苦しい演奏とは無縁で、聴けば聴くほどピアノ演奏の楽しさを実感させてくれるのだ。しかもそれが、インターナショナル的な普遍性に貫かれている。これは、ギーゼキングがドイツとフランスの両方の影響を受けてきたことが大きく反映された結果だと思う。ドビュッシーを弾く時も、バッハを弾く時も、そしてこのLPレコードのようにモーツァルトを弾く時も、その弾く姿勢は全く同じなのだが、出てくる音楽は、ドビュッシー、バッハ、そしてモーツァルトそれぞれの音楽の本質に迫るものが盛り込まれている。つまり、ギーゼキングの場合は、ドイツ音楽だ、フランス音楽だ、などという区分は存在しない。そこにあるのは、純粋な音楽そのものなのである。だからギーゼキングの遺した録音を今聴いても少しも古めかしさは感じない。このLPレコードに収録されたモーツァルト:ピアノソナタ第12番K.332は、モーツァルトが母親と6か月にわたりパリに滞在した時に書かれた5曲のピアノソナタの第4曲目の作品。モーツァルトはイタリア旅行で“ギャラント・スタイル”の音楽に惹かれ、それがパリで開花し、5曲からなる“パリソナタ”を生み出したと考えられている。ピアノソナタ第12番K.332はポピュラリティこそ低いが、これらの中でも特に内容が充実した作品。8つの変奏曲K.460 は、当時のオペラの大作曲家サルティ(1729年―1802年)の曲をもとにした変奏曲。ピアノソナタ第15番K.545は、モーツァルトが借金に追われていた頃書かれた曲でありながら、天真爛漫な明るさに満ちた作品。12の変奏曲K.354 は、「セビリアの理髪師」の原作者のポーマルシェが書いたとされる曲をもとにした変奏曲。幻想曲K.396は、1782年に書いたヴァイオリンソナタの第1楽章をシュタットラーが幻想曲に編曲した曲。これらいずれの曲に対しても平等に、ギーゼキングは全力投球で演奏していることがよく聴き取れる。小さな曲でも、すべて大曲みたいな感じが漂う力演集。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする