★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルトのモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」/セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」/第36番「リンツ」/6つのドイツ舞曲集

2021-01-18 09:50:36 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」
       セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」
       交響曲第36番「リンツ」
       6つのドイツ舞曲集

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:バンベルク交響楽団

発売:1978年

LP:キングレコード(テレフンケンレコード) GT 9166

 このLPレコードは、“ヨゼフ・カイルベルトの芸術”と銘打った15枚からなるシリーズの中の1枚。ヨーゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)は、ドイツの指揮者。第二次世界大戦以前は、ドレスデン・シュターツカペレの首席指揮者を務め、戦後は、チェコスロヴァキアを脱出したドイツ人演奏家が主体となって結成されたバンベルク交響楽団の首席指揮者に就任し、終生その地位にあった。さらにベルリン国立歌劇場音楽総監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを務め、戦後のドイツを代表する指揮者の一人であった。その指揮ぶりは、実に正統的なもので、少しの誇張のない、重厚な響きが特徴。派手なところはないが、音楽を歌わせるところは存分に歌わせ、その解釈は玄人を唸らせるほど内容が深いものがあった。このLPレコードは、そんなカイルベルトがモーツァルトの作品4曲を手兵のバンベルク交響楽団を指揮した録音。交響曲第35番「ハフナー」は、最初から実に堂々とした指揮でスタートする。細部まで目が行き届いた指揮ぶりに感心させられる。奇を衒うところは寸分もなく、あくまで正攻法なのだが、聴き進めていくと、リスナーの耳には豊かな音の響きが心地よく届き、モーツァルトの音楽の面白みがひしひしと伝わってくる。バンベルク交響楽団の演奏は、カイルベルトが手塩にかけて育てただけあって、実に緻密で颯爽とした演奏を披露する。音楽が、川の流れの如く、自然に流れす進むのだ。これは簡単のようだが、実際には難しい奥義ような技術であり、精神的にも一段と高い位置にある演奏家達でなければ到底表現することが難しい技であろう。バンベルク交響楽団の団員達は、カイルベルトの指揮に、全員が心を一つにして、一心不乱に演奏している様が、録音を通してリスナーに熱く伝わってくる。次の交響曲第36番「リンツ」は、モーツァルトがたった数日間で書き上げたという交響曲だが、内容は充実したものに仕上がっており、改めてモーツァルトの才能の凄さを見せつけられる作品。ここでのカイルベルトは、モーツァルトの音楽が持つ形式美を最高の高さまで押し上げ、格調ある指揮ぶりに徹していることが強く印象づけられた。少しも押しつけがましいところがないのだが、その奏でる響きはリスナーの耳の奥まで入り込み、モーツァルトの音楽の真髄を味あわせてくれる。「現在、これほどまで、モーツァルトの豊かな響きを奏でられる指揮者がいるか」と問われればその返答に窮してしまうほどカイルベルトの指揮するモーツァルトの音の響きは豊かであり、何よりも暖かい温もりがする。(LPC)

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