★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇シゲティのバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)

2021-01-14 09:48:34 | 器楽曲(ヴァイオリン)

バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全曲)

      ソナタ第1番 BWV1001/パルティータ第1番 BWV1002
      ソナタ第2番 BWV1003/パルティータ第2番 BWV1004
      ソナタ第3番 BWV1005/パルティータ第3番 BWV1006

ヴァイオリン:ヨーゼフ・シゲティ

発売:1978年

LP:キングレコード(VANGUARD) MX 9031~3

 バッハは、無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番~第3番とパルティータ第1番~第3番からなる全6曲を、1717年から23年の間に作曲した。バッハのケーテン時代のことである。バッハは、1714年にワイマールの宮廷楽団の楽師長に就任している。これはバッハのワイマール時代と言われている。楽師長とは、言ってみればコンサートマスターのことであり、時折指揮者の役目も果たす。また、月1曲づつカンタータの作曲も義務付けられ、このときバッハは、今日に残る偉大なカンタータの作品を数多く書いている。家庭も円満で、内外ともに順調に運ぶかと思っていた矢先、ワイマールの宮廷内で内紛が巻き起こり、バッハはこの内紛に巻き込まれてしまう。この結果、宮廷楽団の楽長のドレーゼが死去しても、楽長にバッハが選ばれることはなかった。そこでバッハは、ワイマールを去る決断をした。丁度そんな時、アンハルト=ケーテン公から「宮廷楽団の楽長にならないか」という誘いをバッハは受ける。しかし、ワイマールを去ることが認められず、すったもんだの末、バッハの辞職は認められ、晴れてケーテンの宮廷楽団の楽長に就くことができた。ワイマール時代のオルガンは、対位法を駆使して多声的に曲をつくるバッハとしては、欠かせぬ楽器であった。ところが、ケーテンでの楽器は、バイオリンやチェロといった楽器に限定されてしまった。バッハは、ここでこれまでの宗教音楽とは一線を隔し、世俗音楽へとその方向性を変更したのである。ただし、このことは、バッハにとっては本質的なことではなかったようである。つまり宗教音楽でも世俗音楽でも、神に対する賛美に違いはないのだ、と。対位法を駆使して多声的に曲をつくることができなくなったバッハは、ある方法を考えついた。つまり、奏者に、和音をひとつひとつ弾いていくアルペジオを弾かせ、聴く者の想像力を使って和声的に響かせるという妙案である。そんな苦肉の策として作曲されたひとつが、今回のLPレコードのバッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータなのである。ここでのヴァイオリン独奏は、ヨーゼフ・シゲティ(1892年―1973年)である。シゲティは、ブダペストの出身。ヨーロッパ各地で演奏し名声を高め、米国にも進出し、1931年には初来日を果たしている。このLPレコードでのシゲティの演奏は、高い精神性に貫かれ、曲の本質にぐいぐいと迫るその迫力に、リスナーは圧倒される思いがする。決して美音ではないが、人間味に溢れたその力強い弓捌きは、今でもこの曲のベストワンの録音だと断言できる。(LPC) 

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